09話 促進剤
「この吐き気がする記録こそが、今あいつが置かれてる状況の答えだ」
忌み嫌う様な目線を目の前の紙に向かって向けるロックス様。
ロンロが今置かれている状況。察するに変異体、もしくは核を与えられた状況という事だろう。妹のカヤのあの状況を鑑みるに、核が与えられた結果だと考えた方がいいだろう。しかも、姿かたちが変化してい
ない事から核を取り込むことが出来たと考えてもいいだろう。
「それでロックス様…あの注射とは関係はあるんですかい?」
と尋ねたリュウに対して答える様に、ロックス様は一枚の紙を机上へと出す。
題名の様なものはみられず、よく分からない言葉が羅列している。しかし、最後の一文だけは理解できる。
『核の活性化』と書かれている一文。
「核と呼ばれるものは、生き物にとっての心臓だ。核はエネルギーで動き、それを消費すれば傷を治せる、どんな致命傷でもな」
「という事は兄様、ロンロ君の傷は心配ないということですか?」
「いいところだけを見ればな…。だがな、こいつらにとってエネルギーの強制消費は命を削る行為と同等だ」
「でしたらその活性剤を使わなくとも私が!」
「許せ、あいつらは直ぐに対応しなければノーフェイスに成ってしまう。核を埋め込まれて直ぐに適応できるか出来ないかが決まるわけじゃない。そこからだ、そこから時間をかけて核をなじませるんだ」
「それなら…カヤは適応したということですか?」
聞かずにはいられない。カヤは体が変異していない、少なくとも姿形は一般的な子供のそれだ。
「カヤ?どいつの事を言っているのかは分からないが、その口ぶりから言うと姿に変化は無かったと…。一概にも言えんが、そいつが飼い主の手に噛みつく様な行動を取っていたなら適応している可能性はある」
確かにノーフェイスは従順と記されていたが、核を取り込んだものは従順になるとは記されていない。
それならと安心して一息入れるが、ロックス様は鋭く言い放つ。
「安心している所悪いが、そう言い話にはならない。核を取り込める云々の前に、核を入れられた時点で運命は決まっている。…核を入れられたら、もう元には戻れない」
血の気が引いていくのが自分でも分かる。元には戻れない、それが意味する事は人に戻れないという事。ロンロはまだ自我が残っているかもしれない。だけどカヤは、あの娘が戻る事はないという事だろうか。
あの場でカヤを見ていたのは自分とフェリスだけ。獣の様な目線でこっちを見て、ロンロの右腕を食いちぎったのは間違いない。
「何か…何かないんですか!?それにお兄様はどうしてこの様な事を知っているのですか」
フェリスはこの場にいた皆が聞かなかった事を聞く。いや聞いてしまう。リュウも自分もそれを聞くのを躊躇っていた。
あの時、ロンロに注射をする前に現れた白髪の女性。あれはどう見ても、ただの人間じゃない。それも、目で視てもカヤと同様に色が視えない。つまり、
「それは…俺の騎士が全員そいつにやられたからだ」
やはりと言うべきな回答が返ってくる。
「お兄様の騎士と言うと四季の人たちの誰ですか?」
「…全員だ。全員が幼少時代にあいつの被検体にされた。だから俺は…!」
第二王子ロックス様の騎士「四季」。ミカヅチさんから4人いると聞いていたけど、4人全員が。
「結局…誰なんですかい?ロックス様が追っている奴ってのは」
「時の教会の2人。3と6の数字を体に刻んだ奴ら。ただの外道どもだ」
「「「!?」」」




