08話 適応化
生きとし生ける者たちは皆、生まれた時よりスキルを持てる上限が世界によって定められている。
推論になるが、上位スキルには3つと制限がある中で下位スキルに所持制限がないのはおかしな話だ。今は確認されていないだけで、極めたものには必ず到達点はある。
だがそれは仕方のない事だ。一度に持てる武器が限られている様に、私たちの体には限界がある。これはどうやっても覆らない事実。
しかし、これではどうだろうか。スキル自体を体になじませる。血や肉になっていく食事の様に、真の意味でスキルを我々のものにする。そうすれば所持上限なんてものは消えるのではないか!?
これは世紀の大発見かもしれない。私はこれを神への挑戦として、実現に向け努めていこう。
……
問題が発生した。被検体を適応化させる過程で、被検体が暴走をはじめた。幸いにも大した力はないが、沈静化した後に変異を起こしてしまった。
失念していた。生き物という器には容量に限りがある。一定数以上のスキルは体が拒否してしまう。
これでは無制限など夢のまた夢ではないか。
……
素晴らしい事が発覚した。変異を起こした被検体が生きていた。まるで別の生物に成ったかのように生きている。意識レベルはかなり低く、もう起き上がる事はないだろうがこれは大収穫だ。
今回の出来事はある意味でも盲点でもあった。私は人のまま、同じ種のまま存在を昇華させようとしていたのが間違いだったのだ。違う生物に、この世界に存在しない枠組みを造る事で初めてこの実験は成功する。
……
被検体は意識が低いものの反応はする。圧迫すれば苦しそうな声が出る。痛みを与えても反応を返す。
もう一人の変異を起こしていない被検体との反応を比べると、変異した被検体はかなり反応が薄い。
これは感覚が鈍感になっているからなのだろうか。こればかりは、違う変異した被検体を用意しなければ分からない。まだ少し経過をみよう。
……
最初の変異体が目覚めた。永遠に眠っているままだと思っていたのだが…私は幸運だ。
思えばあの御方に出会えた頃から幸運が続いている。あの御方が私の研究に興味を持ってくれたこと、最大の難関だと思っていたスキルを「与える」という行為をあの御方が出来た事。全てが私の幸運によって成り立っていると言っても過言ではない。
さて、変異体の話に戻ろう。今回初めて変異体とコンタクト取った結果、更に分かったことがある。
目覚めた変異体は感情が無いと思われる。檻越しであったものの、終始変異体に感情の起伏が見られなかった。これは生物がある種の到達点に至る為に、感情を捨てるべきだと判断された結果である。
それともう一つ。変異体には核の様なものが生まれ、それをエネルギー源に活動している。どうやら未だ目覚めていない変異体にも存在するらしく、それを取り出して実験を施していない体に与えてみた。
すると実験体の体が耐えきれず変異を起こし始める。ここまでは予想通りだったが、それからが予想外だった。変異した体は物言わぬ人形となり、肥大化していった何かが体を飲み込み魔物の様な風貌と化す。
予想外だ。だが嬉しい事でもある。こいつは私の言う事を従順に聞いてくれる。私はこいつをその風貌から「ノーフェイス」と名付ける事にしよう。
……
ガキを拾った。
特に意味はない。腹を空かせて倒れていた所に通りがかっただけだ。パンと水を与えると、覚束ない足取りながらついてくる。このガキは私に何を期待しているのだろうか。ガキはそこに寝ろと言うと有無を言わずに実験台へと体を横にする。
この時の私は何を思ったのか、最初の変異体の核をこのガキに与えてしまった。あの御方に許可をもらったものの、あそこで使う様な代物ではない。なぜこんなことを。
……
ガキが目覚めた!しかも予想外の方法で!
変異を起こしていない、ノーフェイスに成っていないのだ!ガキが変異体の核を完全に飲み込み、我がものとしている。
それに多少感情の起伏もみられる。このガキは貴重だ。この実験室にある被検体、変異体、ノーフェイスたちを捨ててもいいぐらいには。
このガキがどうやって核に順応したのかは分からない。だが、選ばれた者は次の段階へと進めるのだ!
核に適応してこその完全体!このガキが暴走する危険性もあるが、研究への協力者となる可能性もある。ああ、私は本当に運がいい。




