03話 贋作
目の前にある他のより重厚そうな扉をゆっくりと開けて、中に入っていく。
中には猛獣でも飼っているのか、大小様々な鉄製の檻が無造作に置かれている。それに、
「これは…血?」
幾つか使い物にならなくなっている檻には血の様なものがこびりついており、乾いているものの独特な臭いを放っている。
ゆっくりと周囲を警戒しながら歩いていると何かが足に当たる。
入り口にいたノーフェイスの顔や腕といった部分が、よく見るとそこら中に散乱していた。もしかしたらノーフェイスがいるかもしれないと思い辺りを良く見渡すが何も見えない。が、他のものより特別大きな檻を見つける。
警戒しつつその檻に近づいていくと、中で眠っている人影が見えた。
「女の子?もしかしてこの子がロンロの…」
「カヤ!!」
よく見ようと檻の前に行こうとした瞬間、後ろから呼びかける声が聞こえ、そこには待つように言ったはずのロンロとフェリスが立っていた。
「すいません、ハヤト。私が付いていれば大丈夫かと思いまして…」
「いや、大丈夫。敵の気配は今の所感じない。それに、この子の確認するためにロンロを呼びに行くつもりだったから」
それにしてもだ。ロンロがカヤと言ったことから考えるに、この子がカヤでいいのだろう。
「良かった無事だ。それに…こいつこんな所で眠りやがって。鍵がかかって…あった!待ってろ兄ちゃんが助けてやるからな」
ロンロは檻のカギを見つけると開けて、中に入って寝ているカヤをゆすり始める。
「起きろカヤ。早くここから出よう」
「…んん?おにい…ちゃん?」
「ああそうだ!はやく」
目覚めたカヤに早くと急かすロンロ。普通なら助けて終わるだろうが、どうにもカヤを見た時から胸のざわつきを抑えられないでいる。
「どうしたんですかハヤト?何処か具合でも悪いんじゃ…」
そう心配してくれているフェリスは何時もの穏やかな色が視える。ロンロも色が薄いものの、確かに視える。ではなんで、なんでカヤから何色も視えないんだ。
薄くて視えないならまだしも、視えないなんてことは無かった。それこそ、あそこに転がってるノーフェイスを初めて見た時ぐらいだ。
「おにいちゃん…私お腹が空いて…」
無かった。街中を歩いている時でさえ、この前の祭りに参加してる時でさえ、色が視えなかった奴なんて一人も居なかった。
「ああ、ここを出たら美味しいもん食べよう。少しだけど、配給で貰ったパンと干し肉が家にあるんだ。だから早くここを出て」
無言でロンロに近づいていくカヤ。それを安心しきった笑みで迎えるロンロ。
ただ不意にカヤが右腕を上げただけだ、それだけの行動に危険を感じる。
「フェリスつかまって、ロンロすまない【跳躍】!」
「ウゲッ!」「…!」
突然の事に驚いているフェリスと、カヤの傍にいるロンロの首根っこを掴んで後ろへ下がる。
「お、おい何すんだよ。なんでカヤから離れて…!?」
「そうで…!?」
フェリスも言いかけて気づいたらしい。これは僕の落ち度だ、もっと早くから気づいていれば。
「なんで、なんで!?腕がッッ」
ロンロの片腕は付け根から綺麗に切り取られ、嬉しそうにカヤが咥えている。
「おにい、おにイちャんの…美味しい。でも…まだ」
檻から出てきたカヤは四つん這いになるとこちらに、ロンロへと狙いを定める。
「アアアァア!!ギャンッッ!!!」
飛びかかってきたカヤはここまで来ることは無かった。理由は明白、頭を踏付けて圧をかけるメイド服の女性がそこにいつの間にか立っていた。
「はぁ、受け取りに来てみれば…出来損ないではありませんか。どうご主人様に報告しましょうか」




