26話 2人だけの
「よしちょっとこっち来い」
「え?何でですかリュウさん、何かあるなら私も野次馬的な…」
「うるせぇ、戻るぞ。明らかに何かある雰囲気だろ!」
ワーワー言いつつ、リュウさんが受付の人を連れていき、此処にはフェリスとの二人きりとなった。
「その…ごめん」
フェリスに会っての第一声は謝罪だった。何に対して誤ったかは分からない、けど心当たりはある。それら全てをひっくるめての謝罪だったのかもしれない。
「それは、私の方も…です。ハヤトを突き放すような事をしたから」
「あれは、僕が悪い」
失ったものをずっと考えて、あんな状態は騎士失格だっただろう。
「自信が無くなってた僕の…」
終始この祭りで考えていた、なぜ強い人たちが此処にはこんなにも居るのだろう、と。自分が頭を動かしている中、周りは脚を動かしている。その違いは何なのだろうと。
答えは分かっている「自信」だ。
「結局僕は力をつける前と後では変わらなかったんだ。強くなった気でしかいなかった」
「そんな事はありません」
首を横に振ってくれるフェリスを見ても、違うと思ってしまう。そんな所が自信の無さを示している。
「私だって、自信があるという訳ではないです。できるかどうか分からない事を言いふらして、見栄を張って。…でも、ハヤトの事は信頼しています。本当に私を、見栄なんか張らずともそこへ連れて行ってくれると。ハヤトは、どうなんですか?」
「僕も信頼してるさ」
「だったら、一人で抱え込まないでください!私がそんなにもやわに見えますか?私だって貴方と歩いていく覚悟は出来ています」
あの目、芯がある目を向けられ、揺らぐ。
フェリスの事は信頼している。何を、全面的に。全面的に信頼している、本当に?
「信じているなら少しでも自分の為に生きてください!」
懇願するように、命令するように言われる。
「今日、兄様のギルドを見てきたんです。皆が自信に満ちている、贔屓目無しでもいいところでした。一人で失敗するのは仕方がない、だけど周りが助け合って作っているからこそ失敗はない、そう兄様は言っていました。…ハヤトは私を助けてくれました、傍にいて守ってくれて。私は、私はハヤトに何かできていますか!?」
「出来てる、フェリスが居るだけで…」
「…なら少しは話してくださいよ。少しは二人で考えましょうよ…信頼されてないんだと思って、何も出来ないんだと思って…私」
話せなかった、抱え込んでしまった。全て、全て自分の責任だ。フェリスに心配をかけて、それなのに気づいていなかった。
「ごめん」
抱きしめ、涙を流すフェリスに謝る。
こんな行為で許されると思っていない。彼女を心配させてしまった。自分自身の事を何処まで話せばいいかは分からない。信じて貰えるかも分からない。ただ話すべきだとは思う、ミカヅチさんのことやあの事だって。
独りで、心配かけさせない様に、弱気な姿を見せない様に乗り越えようとしたことが間違いだった。僕にはこんなにも頼りがいのある人がいるのだから。
『君の物語を見せてほしい』
エクシエルに言われたあの言葉。勝手に独りで何とかなるものだと思っていたのかもしれない。
『相談してくださいね』『少しは話してくださいよ』
セブンさんやフェリス、周りには自分よりもはるかに素晴らしい人たちがいるのに。
「で?あんたたち、まだ飲んでくるでしょ…て私お邪魔しちゃった?」
ドアの隙間から顔を出したリノゥに今の状況を見られ、咄嗟にフェリスを放してしまう。フェリスも恥ずかしかったのかほんのりと顔を赤くして上の空になっていた。
「あ、ああ…。どうするフェリス?」
「わ私は構いませんよ。こうやって皆さんでワイワイするのは憧れてましたから」
それならとリノゥのお誘いを受けて、宴会場へと入っていく。
「あ、そうでした」
「?」
フェリスは何かを思い出したように手を少し引いてくる。
「言い忘れてました。…優勝おめでとうございます、ハヤト」




