23話 祭りを終えて
「おめでとうございます、ハヤトさん。あのリュウさんを倒してしまうなんて…」
「フォーもそう思う」
試合が終わり、表彰台的なイベントもなくサラッと終わった後、出迎えてくれたのはセブンさんとフォーだった。フォーに関しては何事も無かったようになっていて、元気な表情で出迎えてくれた。
「それにしても決勝が終わると、直ぐにみんな行っちゃうんですね」
「ええ。この催しは外の人たちにとっての息抜きという面が強いですから。賞金とかも中で開催されるものと比べれば少額ですしね…まあ、中は中で規模とか開催年数が違うんですけどね」
やっぱり壁を隔てた先は違うのだと実感する。所得や娯楽、安全だってあっちの方が上だろう、だからこそ中を目指す人が絶えないのだろうけど。
「実際の所どうなんですか?…その、ここから中のギルドに入れた人たちとかは…」
投げかけた質問に対してセブンさんは苦々しい顔をしていう。
「ゼロです」
「え?」
「居ないですよ、少なくともここ30年間は。戦争が終わって余裕が出来たんでしょう、様々な人たちが挑戦していったところですけど…残念ながら中のギルドに入ったという噂は聞きませんね」
「そう…ですか」
「そもそも中に本拠地を構えている候補者がカイン王子しか居ないのですよ。ディアンナ王女は外の外れに屋敷を建てて、他の2人に関してはギルドがあるのかすら分かりませんからね。事実上、次の王はカイン王子かディアンナ王女のどちらかと言われていますからね」
確かにディアンナ様の下へ訪れた時は中ではなかった。一時的に住んでいる、別荘的な感じでもなかったし、騎士のあの二人もずっとそこにいるみたいなことを言っていた気がする。
「それでも中を目指す人達は中に夢を見ている人か、それともただ自分の立場を上にしたい人なんでしょうね。中に入って何も変わらないとは言いませんが、どこでも人は同じ地面で生きているんですよ。そんな簡単な事が見えなくなるのは、やっぱり城壁のせいなんでしょうね」
どこか遠くを見るセブンさんの目は悲しそうに見え、背負っているものがあることを感じさせるものだった。
「さて、長話してすいません。私たちはもう帰ります、フォーもほら、挨拶を」
「バイバイ!」
「それではハヤトさん、今日は優勝おめでとうございます。またご縁がありましたら…こちら連絡先です」
そう言ってセブンさんは懐をあさって、一枚の紙を取り出す。そこには思っていた様な内容ではなく、ただ場所だけが書かれていた。
「…これは?」
「私たちは決まったところに住んでいないもので…此処にくればきっと会えますよ。会えなくても仕方ありませんけど、会えたらそれはラッキーですね」
そう笑うセブンさんの顔は聖職者のようで、なんだか落ち着いてしまう。
「今日は色々ありがとうございました。何かあった時に訪れようと思います」
場所しか書かれていない一枚の紙。それなのに、何故かそこに行けば絶対にセブンさんがいるという確信を持ってしまう。その時もこの人は言うのだろうか、ラッキーだったと。
「最後に少し…」
セブンさんが隣を通り過ぎるときに、
「貴方の悩みは既に乗り越えたでしょうが…これは警告ではありません、身を案じる発言だと思ってください。…剣聖ミカヅチを殺した者は時の教会にいます。これは時の教会のギルド員としての密告です」
「!?」
バッと後ろを向いた時には、もうすでセブンさんとフォーの姿はなく、ただ棒立ちになっている自分だけがその場にいた。




