22話 決勝3
「フンッ!痛えじゃねえか…」
悪態をつきながら立ち上がるリュウ。しかし、立ち上がる姿は何処かを庇っている様にフラフラで、確実に先の一撃は効いていると考えていい。
「こっからは攻撃に移らしてもらう!」
「けっ!攻められてるときは守って、有利になると思ったら攻めまくる…卑怯者のそれだな」
リュウがギルドマスターになってどんな世界を見てきたか分からない。けど、
「本来は守るのが仕事なんでね。隙は見逃さないさ…」
お互いに構えをとる。違う所といったら、剣を構えていたのが姿勢を前のめりにして飛び出そうとしている体勢になっているところぐらいだ。
「また飛んでくるのか?」
「ああ、そうだよ!【跳躍】」
今度は来る場所が分かっているからこそ、リュウは事前に最低限の守りをしている。それに間合いに入った瞬間に撃ち落とさんばかりの気迫を感じる。
だが、こちらだって同じものが通じるとは思っていない。この【跳躍】だって初めから一跳びでリュウの間合いへ跳ぼうとしていない。目の前、間合いに入る少し前から減速していく。そして完全に間合いに入るころには、
「【跳躍】!」
跳び越えるように大きく跳ぶ。
「【天歩】…【兎の一蹴】!」
跳び越えた瞬間に【天歩】を使って後ろに回り込む。単純な一手だけど初見殺しにはピッタリの方法だ。
「チィッ!」
「遅い!」
リュウは、遅れて自分の体を守ろうとするが甘い。それでは防ぎきれない。
「グウウゥゥ…‼」
今度の一撃は勢いこそなかったので飛ばすことは出来なかったが、威力は充分にある。
「ハァハァ…一方的じゃねえか…。情けねえな…おい」
そう言うリュウの目は笑っていない。まだ諦めていないという目をしている。こういう手合いが一番油断ならないとミカヅチさんやエリーさんだって言っていた。負ける気が、そもそも負けることなんて考えて此処に立っていないのだ。
「行くぜぇ…構えろよ」
お互いに拳を構える。
実際お互いにボロボロなのは事実。こっちはこっちで、脚にそろそろ限界が来ていた。初めて使う中で二回使えたというのは素晴らしいが、ここからはさっきのスキルに頼るわけにもいかない。
「「フゥー…」」
お互いの息を整える音だけが周囲に響く。今だけは、大きな歓声すらも聞こえない程に集中できている。
「ハアアァァア‼‼」
「オラァアアアァ!!!」
「「【牙突】!」」
相手にとっても自分にとっても最後だろう一撃がぶつかり合う。
本来なら真似ごときで勝てる道理なんてないが、相手の、リュウの在り方は教えてくれた。このぶつかり合いで負けることなんて一瞬たりとも思っていない。
拮抗するお互いの力は反発する力となって、体をのけぞらす。
「「勝つ!」」
【硬化】すら使っていない純粋な蹴り。それに対してリュウはのけぞった勢いを利用しての拳。
しかしなぜだろうか、
「負ける気がしない!」
少しの差だった。蹴りはリュウが放ってきた拳を押しのけていき、体へと命中させた。
「グゥ…。ッハァハァ…んだよ…強いじゃねえか」
リュウはその場に倒れ、数秒すると終了知らせるゴングが鳴った。
『うぅ~…リュウさん、グスン。…失礼しました、見事リュウさんを打ち破った今年の優勝者は!ハヤト選手だぁ、おめでとうございます!』




