18話 誰かの記憶
私は…私は一体誰だっけ。
そうだ。確か何時もの様に森の中に入って、魔物狩りをしようとして…それで、
いいや違う。俺はそんなことはしていない。
ギルドの依頼を仲間としている最中だった。あいつら誰も斥候の真似事が出来ねぇから、俺がいなくちゃあな。そのうちギルドも認められていって、いつかは受付嬢のあの娘だって、
違う。僕は何を言っているんだ?
お母さんにお使いを頼まれたばかりじゃないか。そう…、確かプレゼントでもと思って花を探しに来たんだ。何処かに咲いていないかな?もう辺りも真っ暗だし…。
幾つもの誰かが出てきては忘れていく。
まるで共に住んでいるかのような心地に、そうだ誰かを…しなきゃ。確かそれが本能に根差すものだから。
★
「フォーの容態はどうなんですか?」
試合が終わり、多少のケガを負ったものの、フォーの事が心配になってセブンさんについて行っていた。
「先ほどよりは安定してきましたよ」
「よかった」
眠るフォーの顔は何の感情も感じさせない、無の表情だ。セブンさんが言うには、この状態にいるフォーは戦っているという、自分が失われるかもしれない戦いを。
何のことかとピンとこないでいると、セブンさんが優しく悲壮感を伴うように語りだしてくれた。
「フォーの持っていた固有スキルに問題がありまして、【彼方の記憶】というスキルを持って産まれたんです。一番古い記憶が、どういう条件かは分かりませんが、忘れてしまうんです」
そのスキルがどう作用しているかは分からない。だが確実に言える事は、彼女を苦しめている原因がそれだという事だ。
「それは…」
言葉に出ない様な気持ちに襲われる。一瞬だが昔の自分に重ね合わせてしまったが、それはフォーへの侮辱というものだ。
僕は生まれつきの病気で苦しんで、毎日を諦めて過ごしていた。しかし彼女は、少しでも何かを残すために行動していたのではないかと、今になって思う。
「ハヤトさん。スキルという力は、私たちが生活していく中で絶対の存在です。ですが、私はスキルというものは呪いだと考えています。固有スキルがその最たる例ではないですか。フォーはこのスキルで幸にも不幸にもさらされてきました。それは私が彼女を保護した時から変わりません」
最後にセブンさんは懇願するように、今まで見せた事のない様な表情で
「フォーは…私やハヤトさんの事をいつかは忘れると思います。それがいつかは分かりませんが、これだけは忘れないでください。フォーが…彼女という者が居たという事を、決して忘れないでください。これは私からのささやかなお願いです」




