14話 本戦6
振るう振るう振るう。
鞭と化した血が敵を叩きつけようと振るわれる。
それをすんでの所で避けていたリノゥを余所に、鞭の速度は徐々に上がっていき、
「そこにゃ!」
パシィという音と共にリノゥの頬からは一筋の血が流れる。
「どうするにゃ?こっちは調子上がって来たけど、そっちの方は段々避けられなくなってるにゃ。私は優しいからここらへんで降参ってことでも…」
「冗談」
エイの提案を一笑するが、実際の所彼女に余裕はそうあるわけでは無い。勝つために取ってきた対策は、あくまでも今までの行動から推察したものだ。だからこそ、今という場はミスマッチであり、現在進行形で自分を苦しめている訳だが。
(相手は鞭、こっちは槍。だったら距離をとっても不利。寄るしかない!)
リノゥは決死の覚悟で突貫していく。
しかし右手には槍を、左手は懐を探るように飛び出していった光景は、エイに不信感を抱かせるには十分だった。
(なにか狙いがあるにゃ?さっき出てきたのはナイフ…それに該当するものだったら、【変形】で地面を変えて盾にすればいい!)
槍の間合いに入る少し前、リノゥは懐から手を取り出し何かを投げる動作をする。それと同時にエイはスキルを使って壁を作る、決して自分の鞭を邪魔することは無いよう慎重に。
だが後悔したのはまたもエイであった。リノゥは投げたものの、下に何かを投げつけており、壁を作ったせいで何をしたのかエイは分からない。
ボンッ!
「!?」
『おぉっと!リノゥ選手、煙幕です!リノゥ選手が玉の様なものを投げつけると煙を発生させました』
エイはすぐさま壁を作るのを中止し、鞭を構えて辺りを見渡す。先も見えない中、全神経を集中させリノゥの居場所を特定しようとする。鞭はむやみやたらに振るえない、それを相手が待っているとしっているからだ。剣や近接武器と違って、鞭は次の動作に入るときのラグが大きい。
(どこ?どこから…!)
コツン、と小さなだが確実に誰かが歩く音が聞こえる。その音は周囲を回っていく様に聞こえ、一向に仕掛けてくる様な気配はない。要はエイもリノゥもどちらも攻めあぐねているのだ。しかし時間が経てばたつほど不利になるのは、どちらなどという必要もなく後者。エイはそうやって焦った瞬間を狙いさえすればいいのだ。
「そろそろ晴れるにゃよ?せっかくのチャンスなのにいいのかにゃ~?」
足音がする方向へと急かすように煽る。それに対して焦ったのか、足音が突進してくるように近づいてくる。
「にゃは!そこぉ!」
薙ぎ払うように鞭をしならせ、目の前の景色をまとめて晴らす。
(…晴れた?…!?)
居ない。まるで初めからそこに居なかったように、リノゥの気配すらない。
次は後ろから足音が聞こえる、それに上からも何かが飛んでくる様な音が聞こえる。先と同じだったら、などという思考は遠くに置き去りに、エイはむやみやたらに鞭を振るう。どこも何も触れた感触はなく、舞台の上に居ないのではないかという錯覚さえ
「パパは」
唐突に後ろから声が聞こえる。
「誰かを驚かすのが仕事で、こんなことをするはずじゃなかった、て言ってた。…でも、それで助かったから、だから私は…」
持っていた槍をエイへと突くリノゥ。勝負は決まったと思われた、だが
「【変質・ニトロ】ファイア…」
槍がエイの服へ触れた瞬間、小規模の爆発が起こり、リノゥは場外へと吹っ飛ばされてしまう。
煙幕が晴れたと思ったら、次は粉塵が舞った舞台を凝視する客席一同。そこには…
『…!?決着、決着です!』
決着を知らせる声、
『最後まで立っていた者は…誰も誰も居ません!』
爆発によって場外へと飛ばされたのはリノゥだけではなく、エイもだった。
『まさかまさかの!あのエイ選手が引き分けという形で幕を閉じました!これによりリュウ選手は決勝進出確定、残る一枠はハヤト選手とフォー選手の奪い合いとなりました!』




