13話 本戦5
「よし、頑張ってくる。見ててね」
リノゥはペンダントを握りしめ、願掛けをするように呟いた。目の前は舞台への入り口で、対戦相手であるエイは既に居る。自分も遅れてはいけない、と彼女は初めての争いごとへと歩み始めた。
歓声の大きさは先ほどの試合と変わらない程に大きい。やはり王者であるエイが戦う試合だからだろう。
「君が対戦相手にゃ?お互い気張らずにやろうにゃ」
頭上にある猫耳がぴくぴくと動きながら、エイはリノゥに手を差し出す。
「うん、よろしく」
傍から見たら素っ気なく感じるかもしれないが、彼女にとってはそれが普通。人との気兼ねない触れ合いなど初めてに近いからなのだが。
『それでは両者揃いました。一回戦最終試合、ここで勝った者が次へと駒を進める最後の一人になります!それでは…』
リノゥは槍を構え、エイは拳を構える。
『開始!』
合図と共にエイがリノゥに向かって突進していく。槍を扱うリノゥは出来る限りエイを近づけさせたくないはずだが、
「にゃ!?」
彼女が取った行動は意外にもただ迎え撃つものではなかった。槍をエイに向かって投げつけた。
「あぶにゃい!」
投げられた槍を片手で掴むとその槍は形を変えていき、くの字の刃物へと姿を変える。
「王道のブーメランにゃ」
「クッ!」
リノゥは投げつけられたブーメランを間一髪の所で避け、懐から取り出したナイフを再度エイへと投げつける。
「学ばなかったのにゃ!?投げても投げ返されるだけにゃと!」
この瞬間エイは価値を確信する。単純に投げられる武器は全て【変形】で対処でき、先ほど投げたブーメランはこちらに戻ってきている、しかも槍の形で。
避けても返ってきている槍が、もし気づいていても対処できる距離ではない。
しかしその考えがある一つの事で返される。
「フフーン。簡単にキャ…!?」
飛んできたナイフを軽々キャッチするが、その後ろに別のナイフが隠れていた。
それに加えて、リノゥは戻ってくるものに気づいており返ってきている槍を片手で掴む。
「貴方のスキルのことなんて少し調べれば分かるのよ。【変形】は手から離れると徐々に元の形へと戻っていく。2連覇中か何だか知らないけど、自分の情報が出回ってることぐらい知っておきなさいよね」
馬鹿にするように、皮肉るかのようにリノゥは言う。もっとも言われているエイは突然の事で、驚きのあまり話を聞いていないのだけれども。
「~~‼!…やるにゃね」
防ぎきれなかったエイはナイフが片手に刺さってしまい、血がそこから滴っている。
片手を潰し、相手の情報を事前に揃えていたリノゥの勝利と言えるが、此処で終わらないのが王者。
片手からナイフを抜くと、無言で血が流れている手にかじりついた。
「な…なにやってんの…、あんた」
「敬意を表するにゃ。これじゃあ同僚の真似事みたいになるけど…仕方ないかぁ」
一瞬、エイの素が出たの様な気もするが、そんなことを気にしている余裕は今のエイにはない。
「いくにゃよ【血技】。マネッコだから本物は見せられないけど、代用は可能だよていう所を見せてあげるにゃ。…【変形】【変質】」
手から流れる血が鞭の様にしなり、地面に当たる音は元は液体のはずの血液がまるで金属だったかのようなものになる。
ヒュン、と軽く振るわれた血の鞭は視認できる速度を超え、リノゥの顔に傷をつける。
「さあ再開しようかにゃ。これは誰にも見せたことにゃいスタイル、予測できるかにゃ?」




