12話 本戦4
「さあやるぞー!野郎ども‼」
『客席からの歓声と共に登場したのは⁉我らがギルドマスター、リュウさんだぁ!!』
ワアアアと鳴りやまないほどの歓声と共に舞台に上がっていくリュウ。実況している者もそうでない者も熱狂しているのは傍から見ても明らかだ。
『そしてもう片方からは!…?あれゼロゼレ選手は?えーと…ッ!?失礼致しました。ゼロゼレ選手は既に舞台へと上がっていた!一体、何時現れたんだ!?』
リュウが上がるころには、いつの間にか舞台で胡坐をかいていたゼロゼレ。
「悠久の時。何時も傍に…」
「ハッハ!何言ってるやつか分からんが、面白そうなやつだな」
ゼロゼレがゆっくりと立ち上がると、両者は武器を構えてにらみ合う。
『お互いやる気まんまんという事で!次の戦いいきましょう!…それでは開始!』
全ての観客が聞きなれただろう合図と共に試合が始まる。
先に動くのはどちらだ、と注目している観客の前で動いたのは意外にも両者だった。
「いい動きだ!だがそんな動きじゃあ捕まっちまうぞ。こんな風になぁ!」
ガシッとゼロゼレの衣服を掴み、一発を叩き込むために姿勢を変えようとするリュウであったが、
「…イッ!なんだこれ?お前服の裏側に刃物を仕込んで」
「油断大敵。…一撃必殺!」
少しよろめいたリュウにゼロゼレは、懐から取り出した爆発物を投げつける。
「へっ!そんなもん、はじくことだって…あん?」
片足で踏み込もうとしたリュウの脚がいきなり崩れ、姿勢が前傾となり倒れ始める。
「人を殺るもの、すなわち毒なり。大爆死」
今日一の爆発がリュウを襲う。ゼロゼレは爆発が起きる直前で避難しており、余波すらもくらった形跡がない。
『何という事だ!毒に爆発物、持ち込めるものには制限があるがこれでいいのか!?何をしているスタッフ!…およ?粉塵から見えるあの素晴らしい体つきはもしかして…』
粉塵で見通しが悪くなっているが、確かに影だけは見えていた。するとあの中にいる者は大体想像がつく。しかしゼロゼレの心境としては、あの爆発を受けて無事に立っている筈がなく、毒をくらわせたのでそもそも立つことすら怪しいのではないかと。
徐々に景色が晴れていく。そこには案の定
『おぉぉお!あれは我らがギルドマスター!何事もなく仁王立ちだぁ!』
姿を現したリュウはダメージすら気づかせない様な綺麗な立ち方で、右手の指を使って丸を作っていた。このサインは相手の行動を全て許すという試合続行のサインでもあるのだが、
「毒微量。…今度こそ殺る」
用意したものをことごとく打ち破られたゼロゼレにとっては関係のない事だった。
「おーおー、近づいてくれるなんて嬉しいねぇ」
「接触非推奨。二の舞。…!?」
「んなこたぁ分かってるわ。だけどな…」
飛び込んできたゼロゼレの胸元を再び掴むと、今度は逃がさないと言わんばかりに力を込めて引っ張る。
「こっちは喧嘩やりに来てんだ。下に激励しといて逃げる馬鹿が何処にいるよ」
自分の胸元まで引き寄せたゼロゼレをリュウは上に投げ、頭の少し上のあたりに来た時に思いっ切り拳を振り下ろす。
「俺は腕力だけでここまで上がって来たんだよ!」
ドン、とかなり鈍い音が聞こえ、ゼロゼレはピクリとも動かなくなった。
『決着!やはり勝者は…我がマスター、我が兄貴、リュウさんだぁあ!』
客席から聞こえる歓声が今まで以上に盛り上がっており、会場の外にいる人にまでその熱意が伝わる程だ。
「小細工程度じゃあ俺はやれんぜ。見誤ったな」
吐き捨てるように言ったリュウの一言によってこの試合は幕を閉めた。




