10話 本戦3
『さあさあ!次のカードは…この祭り史上最年少の少女、フォー選手!そして、予選では2連覇中のエイ選手と火花を散らしあったゼン選手です!』
入場してきたフォーは、予選とは変わらず大剣を引きずって登場した。一方のゼンは背中に弓を背負い、あわせて6本程の矢を両手で掴んで入場してきた。
『両者位置に着きました。それでは…開始です!』
実況からの合図と共に飛び出してきたのはフォーの方であった。
フォーは引きずっていた大剣を上段に構えるとそのままゼンへと振り下ろす。
「ほ、危ないですね。幼子ながら何という力」
言葉とは裏腹に余裕そうに言うゼン。この間、フォーは攻撃を止めなかったが、どの攻撃もぎりぎりの距離で避けられてしまう。
「んー!」
「ほら、こちらですよ。次は…」
まるで子供とじゃれている様にフォーの攻撃を避けていく。しかしながら、ここまでの間でゼンから攻撃を仕掛けることは無かった。
この事は一方からは押されていると見え、ある程度の実力を持ったものからは誘導していると感じられるものだ。事実フォーの攻撃をある程度避け、舞台に少しずつ溝が形成されていった時に初めてゼンは持っていた矢を矢筒に入れ、背負っていた弓を手に握った。
「拙僧は勉学の中でも特に算術が得意でね。これだけ準備が整えばこれだけの本数であろうと終いなのですよ」
そう言うとゼンは弦を引き、地面に向かって矢を射る。
傍から見れば何をしているか分からない一撃でも、目の前でそれを見ていたフォーには何が起こったか分かった。
「ん!?…危なかった」
放たれた矢は地面に作られた溝に当たり、刺さるのではなくフォーの方へと進路を変えた。
「今のを防ぎますか…いやはや素晴らしい動体視力。未来が明るいですな…ですがここは勝たせていただきますよ」
次にゼンは残っていた矢を全て使い、四方八方へと射っていく。その全てがフォーの手によって作られた溝によって進路が変わり、彼女の全方位へと矢が飛んでくる。
その様な状況でゼンは矢と共に前進していく。フォーに予想外の動きをさせない為でもあるし、先ほど弾かれた矢を回収するためでもあった。だが結果的にその動きがゼンの運命を決定づける事になってしまう。
「【死霊爆発】」
フォーの手から放たれたモノはとても弱弱しく、頼りないようにも見えた。ゼンはそれを子供の悪あがきと捉えて、必要以上に近寄ってしまう。その時、
ボガァァァン!!
小さな、だが威力は強力な爆発が舞台の上で起こる。爆発の余波で飛んでいた矢は全て勢いを失い、爆発をもろにくらったゼンは場外まではいかないにしろ舞台の端へと転がっていった。
「大丈夫?おじさん。手加減はしたんだけど…」
これで手加減をしたのかと思うほどに爆発の威力はあった。しかし、多少の傷はあれども死んでいない事こそが彼女なりの手加減であったことは知る由もない。
ゼンが持つ弓は先ほどの衝撃で一射打てるかどうか。それにフォーが近距離だけではなく、中距離以上の攻撃手段を持っていたことがゼンにとっては不利にのしかかる。
もともとゼンのような後衛職は前衛がいてはじめて生き抜くことが出来る。だからこそ、一対一の状況ではどうやって相手を近づけさせないかが鍵となってくる。だが今の状況はどうだろうか。
(これでは遠くから制すことは出来ませんね。ならば!)
ゼンは脚に喝を入れ、フォーの下へと走っていく。爆発するスキルを持っていると分かった今、近くに寄った方がそのスキルを封じ込めることが出来る。
「うん!やろ!」
この試合で初めて見せる年相応の笑顔を浮かべたフォーに、捨て身の覚悟で突貫してくゼン。勝負は決まったかと思われたその時、
「ここです!」
掴んでいた一本の矢を高速で射る。かなりの至近距離、これでは流石に彼女と言えども防げまいと心の中で思ったが、
「あぶ」
難なく持ったいた大剣を使って上へとそらされてしまう。
「惜しかったねおじさん。でもフォーの方が強いんだよ」
満面の笑みを浮かべるフォーに対して、ゼンは不敵な笑みを浮かべ
「それはどうかなという奴だよ、お嬢さん」
客席から見ている者は何が起きているかよくわかっていた。フォーにはじかれた矢は上へ飛んでいき、方向を変えると下にいる彼女めがけて落ちてきている。
殺すつもりはないが多少のケガならと腕を狙って一撃だが、ゼンの完璧なはずの計算は裏切られてしまう。
「ッ!?」
「?なんか通った…?」
落ちてきた矢はフォーの右腕を通過すると、そのまま地面に刺さった。外れたのではない、すり抜けたのだ。
「ごめんなさい、おじちゃん。私のこと心配してくれたんだね」
「…君はいった…い」
ゼンは受けていた傷と、あまりの衝撃から気を失ってしまう。
『けけ決着!勝者はなんと、あのフォー選手だ!これはもしかすると最年少で…もしかするぞ!』
ゼンの敗因は最後の最後で矢を外してしまった事、そう客席の中でも解釈された。だれもすり抜けた事実は見えていなかった。




