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神すら見通せないこの世界で  作者: 春山
第2章 進むべき道
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07話 兄

「それで何ようだ、妹よ」

短く切り揃えられた髪に、炎の様な目と髪色。それに威圧感は、さながら昔一度だけ見た事があるお父様のよう。鋭い目から繰り出される視線に怯むも、今日はそんなものを見に来たのではない。

「お初にお目に…」

「よい、本題から話せ。時間は有限だ、それを分かっていない訳でもあるまい」

「では単刀直入に。私に道を見せてくれませんか?」

「それは女性が進むべき道、という事か?それは俺には無理だな。…それとも、王への道という事か?」

王という言葉を強調し、更に睨みをこちらへと効かせてくる。


後者だと、兄様の質問に答えると数舜考える表情を見せ、

「なぜだ?曲がりなりにも俺とお前は敵同士だ。俺から教えるものは何もなし、お前も敵に教えを乞うことはしたくないのではないのか、王族として」

もっともだ。教えを乞うという行為は自尊心を消費する行為。それに兄様にメリットが無い。だけど、

「分かりますか、兄様」

思い出すのはつい最近の事、

「慕ってくれる者が、私の知らない所で孤軍奮闘している様を。朝目覚めたら、居なくなっているかもしれないという恐怖を」

姉様の屋敷で、夜に何が起きたのかは知らない。けど帰るときに見た、来る時には無かった傷跡を見れば何かが起きたのかは分かる。


「その者を信頼していないという事なのか?」

「決して、そのような事ではありません。ただ…、私には力がないんです。人を動かす権力も、誰かを超える武力も。だから、無駄に心配をかけてしまう。それではきっと…」

嫌な思いが湧き上がってくる。自分が嫌でどうしようもない奴だと思ってしまう。


「フッ、小心者だな。お前は」

兄様はそんな私を一笑すると、子に諭す親の様な柔らかい表情で話す。

「権力?そんなものは誰も持っていない。全ての物事は誰かの上に成り立っている、それをうまく頼み動かせる力を権力と定義づけただけだ。だからこそ、他人への感謝を忘れた権力なぞ砂上の楼閣でしかない。それに、武力というものは選択肢の一つであり、自己の為には使わないものだ」

元の厳しい顔つきに戻り、だが口調は変えずに続け、

「お前はまだ人を見ていない。何処にでもいるものだ、人というのは。それに代わりの者ならいる、失ったのなら変えればいい。だがな、その者を失いたくないなら信頼されることだ。信頼されて隣に立て、話はそこからだ」

そう言い終わると兄様は椅子から立ち上がり、部屋のドアへと歩み始める。そして、ドアの前に立つと勝手に開いていき、外には先ほどの鎧の人がいた。


「ついてこい、特別に見せてやる。俺を信頼してくれ、隣に立たせてくれた奴らを」

「ありがとうございます、兄様」

突然のことで頭が回らなく、困惑している表情を見せていただろう私に、兄様は今日初めての笑顔を見せ、

「気にするな、父と母が違うからといってお前は俺の義妹だ。継承戦の敵だろうと何だろうと、困っている家族を導くのが長兄の務めだからな」

「本当に仲が宜しいのですね、サンドレア王家の方々は」

「知らん。そんなものは街の噂だろう」

きっとあの人も兄様のかけがえのない人の一人なのだろう。声には親愛がこもっている、それが傍から見ていても分かる。

本当にここへ来てよかった。姉様ではこんな経験は出来なかったと思うし、もう一人のロックス兄様は何処にいるか分からない。国民が、皆がこの人を支持している理由が少しだが分かった気がした。

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