04話 予選
喧嘩祭り予選。4つのグループに分かれて本戦に出場する者を決める、いわゆるバトルロイヤルと言ったところか。Aグループに割り振られたので、呼ばれたと思ったらいきなり舞台に立たせられた。
セブンさんが言っていた注目すべき人は全員が違うグループであった。これが幸運かどうか置いとくとして、貸し出された武器を改めて握る。
使い慣れている剣を借りたが握ったところ、重さ自体は悪いものではない。いつも使っているものと同じぐらいの重さなので、使いやすいぐらいだ。ただ一つ気になる点があるとすれば、刃の部分だろう。試合中の流血騒ぎを恐れてなのか、刃の部分が潰されていてこれでは鈍器ぐらいしか使い道がない。
「それが分かってるから武器を持っていない人が多いんだな」
そう実感していると、近くに居たモヒカン頭の男が話しかけてくる。
「よぉ兄ちゃん、此処は初めてかい?ここじゃあ武器は棒切れと同じさ。持ってるやつはみんな初心者だと言っている様なものだから、みんな初めに狙ってくるぜ?もしビビってんだったら帰りな、忠告はしたからな」
「ありがとうございます。えーっと」
「リオードだ。運が良かったら決勝で会おうな」
気さくでいい人だなと感じる。あの髪型さえなかったら第一印象は完ぺきだろう。と失礼な事を考えてしまうぐらいには余裕があるのだろう。
「さあ!選手の皆皆さま、準備はよろしいでしょうか!?…いい声が聞こえてきますね。それではAグループ予選、開始です!」
ゴーン、とゴングの様なものが鳴らされ、各々が動き始める。
「ハハハ!そんな棒切れで強くなったつもりかい、坊主!?」「あらあら、まずは初物を狩っちゃうわよ」
周囲から聞こえる叫び声に合わせて、剣を構える。いったい此処はどんな世紀末だ。
「フッ!」
「オラァ!拳さえあれば剣なんて止まるんだよぉ!」
剣で放った一撃は飛び込んで来たやつの拳で止められ、その内に違う奴が迫ってきているのが分かる。剣は役に立たないと聞いていたが、ここまでであったことに驚きを隠せない。しかし、驚いている余裕なんて存在しない。
「【跳躍】!からの【天歩】」
かなりお世話になっているスキルたちに感謝しながら、軌道を調整して包囲から突破しようと試みるが
「なぜかなぜか何故か!貴方が此処に来ると思ってたから待ってたわよ」
一歩間違えればエリーさんの様な(本人にすごく怒られるが)女装男が目の前をふさぐ。
「さあ!愛を受け取って!ん~」
「おおぉ!?近づくなぁ!【硬化】」
構えていた剣を硬化して目の前の抱き着こうとしているヤツに叩き込む。鈍器としてしか使えないのならとことんそれとして使ってやろうではないか。
「痛ぁ~い!でもこれは、いい…かも」
『さあ、早くも一人の選手が場外!アウトです!』
剣で飛ばした奴が場外に行ったことを知らせるアナウンスが流れる。
「ね、姐さんが…?姐さんがやられた!?格好はともかく、実力は確かなのに!」
どうやらさっきの奴はいい感じの大物だったらしく、地上に着地した時には徐々に後退している者たちの姿がちらほら見える。
「てめえら何を退いてる!ここは喧嘩、暴れたくない奴は来年から来るんじゃねぇ!暴れろ!」
観客席からヤジを飛ばす人がいるなぁ、と思ったらセブンさんが言っていたリュウその人だった。彼の言葉に触発されてか、目の中に脅えが無くなり退いていた者たちが武器を持たずに突貫してくる。
ーーすごいあのリュウって人。言葉一つであんなに。
これがカリスマというものなのだろう。今の自分には持ち合わせていない、いや将来どう頑張ってもあそこまではいかないだろう。
「だったら、こっちも」
カランと地面に剣が落ちる音が聞こえる。馬鹿だと思われるかもしれないが、持っていた剣を捨て拳を構える。先ほどの様にスキルを使っての回避は良くないと思った。リュウは暴れろと言った。ならば、
「あっちが拳で来るんだったら、こっちもいかなきゃ恥ってもんでしょ。ハアアァァ!」
自ら集団の中に突っ込んでいく。
ごっちゃまぜになった中では、蹴った殴ったの攻防はあるものの誰がどこをなんて気にしている状況ではない。この中にいる誰もが、本戦に行ける椅子2席を奪い合うライバルであったが、今となっては全員忘れているだろう。
そして最後には、
『決着!最後まで立ち、生き抜いた猛者たちは!リノゥ選手とハヤト選手だぁ!』
ワアア、と観客からの盛り上がった声が聞こえる。【硬化】で少し硬くしたといってもまだ全体に出来るわけでもないので、多少のダメージは残るがこれなら本戦でもなんとかなるだろう。
止まない歓声の中、もう一人の選手と共に舞台から降り、控室へと戻った。




