06話 常識の違い
「カハッ。チィ!」
奇襲に成功し、男は追い払うように短刀を向けてきたが、すんでの所で跳躍を使って後ろへと下がる。今の一撃で仕留められなかったのは残念だが、手傷を負わせた今、一方的に不利になることは無い。
「俺のスキルを?真似た?…チッ、厄介だな」
勘がいいようで男はからくりに気づいたようだ。それに男が察したのはそれだけではない。相手の行動を真似れるという事は、相手への抑止力にもなる。自分が手札を見せれば見せる程相手の動きにも幅が広がる、そんな相手はやりづらい事この上ないだろう。
(それにしても、この”目”便利だな)
無策で突っ込んでしまい、今まで生き残っていけてるのは、この目によるところが大きい。初めは、視力だとか相手がどんな人物かを視れるだけだと思っていたが、相手も真似ることができる。しかし、真似れるものはスキルと呼ばれるものだけ。実際、男の脚さばきから何までを真似ようとしても出来なかった。つまり技術的な部分はできない。
「で、出来れば引いてほしいんだけど」
「引く?誰が?悪いが俺も依頼を完遂しなければいけないのでな…」
虚勢を張り、あわよくば引いてもらおうという思惑は外れる。男の声はフードを被っていたためか聞こえにくかったが、確実に纏う雰囲気は変わり始めていた。
そして、次の瞬間男が動き出す、
「【影なる君】始動…」
次の瞬間、男の姿がその場から消える。おかしい。確かに、自分は油断をせずに男を見ていた、しかし突然消えた。しかも、何もしているかすら視えなかった。スキルなら視ることで真似できるという事を信じていたあまり、混乱が起きる。
周囲を見渡しても居ない、かといって居なくなった訳でもなく、常に嫌な予感が隼人の体中を駆け巡っている。
(何か、何かあるはず…っ!)
「そうやって何かに頼ってばかりものは、予想外の事態に対応できない…」
声は後ろから聞こえるのと同時に、腹部に冷たい感触を感じる。ゆっくりと視線を落とすと腹部から刃物が生えてきている。
「………………!!!?」
一拍置いて、脳が認識したのか体を痛みが駆け巡ってくる。
「お返しだ。…安心しろ次で楽にしてやる」
逃げなければならないと体が訴えているが、体が毛の一本に至るまでうまく動かせない。
体から短刀が抜かれ力を失って倒れていくしかない自分を、男は自由にさせずに首を掴む。
「グッ…。ク…ンン…」
「中々…楽しかった」
そう男に耳元で囁かれるが、体は動かない。男は短刀を振り下ろし、胸に突き刺した……。
「お前さん、少し待ってくれんか?」
いつの間にか、男の腕を掴む老人がそこには居た。老人は衰えを感じさせない力と目つきで睨みつける。
「なっ!?」
男は驚き、体勢を変えたことで手から解放され、それを最後に意識が途絶えた。