幕間3
「おい!今すぐ出るぞシンゲツ!」
少年程は若くない風貌の男がドアを勢い良く開け、中で読書をしていた男に話しかける。
「はぁ、お前はそろそろ年相応の落ち着きを手に入れた方がいいんじゃないか?」
話しかけられた男、シンゲツは読んでいた本をその場に置くとため息を着いてからもう一人の男の方に顔を向ける。その男は小言を言われてもなお、わくわくとした表情で扉の前に立つ。
いつもなら下らない話をして終わるだろうと思っていたシンゲツは、期待はせずに尋ねてみる。
「どうした?今度は可愛い何かでも見つけたか?また変な所に連れていかれるのは勘弁だぞ」
「そんなんじゃねえよ。出たんだよ、エルフが」
「はぁ、どうせ小物中の小物だろ?もう飽きたんだ、そういう奴らをやるのは…」
彼らがいる国は、昔から現在にいたるまでエルフの軍勢と長く戦争状態であった。主君のためと出撃したのはいざ知らず、手ごたえも何もなく終わる事がいつもだった。
そういう事からあまり期待をしていない内容だったが、相も変わらず表情を変えない男は得意そうに語りだした。
「俺のスキル【妄想体現】で見てきた感じ、今回のは大物だぞ。…それも大物も大物、今までのとは格が違う奴が来てる」
「ほぉ?本当か?」
ここまで引っ張られてしまったら嫌でも気になるのが人の性。シンゲツは、自信満々に語っている男の話に初めとは比べ物にならない興味を惹かれる。
「なんと驚け、あの大物『レイン』だ!レインが今から攻めてくるぜ」
「な、…本当か?」
絞りだされた様な声で尋ねるシンゲツに男は大きく頷く。
男がいった『レイン』とはあるエルフの名前であり、かなりの昔から生きていると言われているエルフだ。特別な力を持つエルフの中でもその力は際立っており、自然界に存在するありとあらゆる水を操る事が出来る。
「俺らがやりあっての勝算はいくつだと思う?」
「あって五分だろ。でもそんぐらいの確率だったら?」
「ああ、必ずいける!」
シンゲツは傍にかけてあったものを懐にしまうと、男と共に外へと勢いよく飛び出していった。
「フェルム様に行ってきますは言ったか、ミカヅチ!」
「そんなの言うわけないだろ!近所に散歩しに行くだけだからな!」
「それもそうだな」
「「ハハハハハ」」
初めは男、ミカヅチを非難していた姿はどこにったのか。まるで悪ガキの様に街の中央を二人で駆け抜けていく。すれ違う者たちは少し驚きはするものの、暖かい目で彼らを見守っていく。
結局は似たもの同士の二人であったという事だ。だからこそ、
「どうしたのですかトゥエルブ。貴方が会いたいと言うから手引きをしたのですよ?」
「…すまない。柄にもなく緊張してしまってな」
「あらあら貴方ともあろう人がお可愛い事で」
前を歩いていたイレブンが茶化してくるが、トゥエルブはそんな事には耳を貸さずに最後の友の言葉を思い出していた。
『儂の役目はここで終わりだからな。あとは頼むぞ。先に行って待っておる』
(任せておけ。俺は必ずフェルム様が望んだ世のための礎となってくる。そのためにまずは)
「ここです。失礼の内容にお願いしますね」
大きな扉の前で止まったイレブンはトゥエルブに対して、少しのお願いを口にする。
扉の先から臭う何か懐かしい様なものを感じながら、トゥエルブは扉を開けて膝まづいた。




