18話 一方の戦局
「何なんだ?これは…」
ハヤトたちがトゥーの交戦している時、反対側を任されたエリーは彼らと同様に初めはのっぺらぼうの化け物、顔無し天使と戦っていた。
センが報告した通り敵の数に違いはなかったが、敵の戦い方がハヤトたちとはかなり異なっていた。
「クソッ!どうなってやがる!撤退しようとしても追撃してくるくせに、いざ対面すると攻めてくる気配がねぇ。それによぉ、何人かが戦闘不能になっていやがる」
エリーはどちらかと言うと守るのが得意分野な戦士だ。だからこそ、顔無し天使たちが攻めてこないのは場面が停滞していく原因にもなり、早期に決着をつけたい彼女にとっては鬱憤がたまる原因でもあった。
敵に遭遇した当初は人数がいたこともあって敵1体の頭を飛ばすことに成功したが、これが失敗だった。飛ばされた頭は光り輝き、兵士たちが錯乱し始めたのだ。そして、錯乱された兵士はいつの間にか立ち上がった敵に包み込まれ、今では寝息を立てて目を瞑っている。
しかし、この一連の流れでエリーは不思議な事も経験をしていた。兵士が寝かされ、その間に殺すのなら分かるのだが、何故か敵は寝た兵士たちを傷つけない様に丁重に扱っている気がするのだ。
「逃がさず、攻めず。…こいつら、俺たちを此処に引き寄せてるのが狙いか!アリエス!アリエス聞こえんだろ、返事をしろ!」
エリーが焦った様な声を出して、虚空に呼び掛ける。すると、
『ええ、聞こえてる。どうしたの?』
「お前の所に敵が向かっているかも知れねぇ!俺たちは足止めして動けねぇから、ハヤトたちの方に連絡して屋敷の防衛に入ってくれ」
双璧の一人であるアリエスは支援に優れている人物であった。遠間隔での会話を可能とする【念話】のスキルの保持者であり、他の保持者と比べるとある方法を使っている分自由な会話がある程度可能だ。
だが騎士であるからこそ彼女のスキルのことを知っている人も多い。
『…それがあっちに【念話】が届かないの。もしかしたら干渉系のス』
「チッ、切れちまった。これで連絡すら取れなくなったな」
【念話】というスキルは干渉系のスキルとして分けられる。【念話】自体が受信者に干渉して起こっている事象だからだ。しかもそのスキルに干渉できるのも干渉系であった。
「あいつらが見せた光、あれが干渉系だとしたら…。そうか、こいつらを倒さない限り自体は好転しねぇな!」
エリーは纏っていた防具や持っていた盾を手放し、拳を構えて顔無し天使へと突貫していった。
★
(まずい…)
アリエスは先ほど切れたばかりのエリーに対して、何度も【念話】をかけなおす。しかし聞こえてくるものは何もなく、自分の声すらも届いていないのが分かる程であった。
(敵の狙いがフェリスなら…、いや違う。周りを警戒している者達からは何も異常を感じない)
アリエスは焦る気持ちを抑えられず、一回深呼吸をはさみ状況を考え直していく。
(幸いなのはまだこっちに敵が来ていないこと。でもどうやって、私がスキルを使うためのモノを森に仕込んだのは気づかれないはず。…!?もしかして情報が漏れた…、いやそんなこと)
疑心暗鬼が止まらない。此処に居るメンバー、それもごく一部にしか知られていないことを相手が知っているという事は、必然的に味方を疑ってしまう事になる。
「だけど…私のすることは変わらない」
全てが疑わしく思えてしまうこの状況だが、絶対に覆らない思いがアリエスにはあった。
「私はフェリスを、※※を絶対に守る」
決意と親愛を感じさせるその声は、何にでもどんなことに対してでも覆らない信念を感じさせるものであった。