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神すら見通せないこの世界で  作者: 春山
第1章 第一王女ディアンナ
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17話 眠れる夜5

「お前は何者だ」

木影から出てきた少年に対して強めに問う。問われた事に対して少年は少しの間悩んだふりを見せ、逆に質問を投げかけてくる。

「ねえ、その質問に答えたらボクの質問に君は答えてくれる?」

「だったら答えなくていいさ。結局やる事は変わらないからな」

少年がどの様な意図で質問を投げかけてこようとしているのか分からないが、敵だという事実は分かる。必要に会話を繰り返して時間を稼ぐ狙いがあるかもしれない今、敵の会話に乗る必要は皆無に等しい。


「残念だなぁ。あの娘、えーとフェリスって言うんだっけ?あれはボクとの会話をしてくれたよ、あの夜にね。お腹を蹴り上げただけで悲鳴をあげちゃってさ。笑えはしないけど面白いよね、ん?それが笑えるってことなのかな?」

「まさか…お前…」

屍鬼に襲われて、ワンと戦闘した夜。あの夜にミカヅチさんはフェリスを助けに動いてくれていた。だからこそフェリスに何が起こったかはよく知っている。そのミカヅチさんが言っていた話の中で、フェリスに危害を加えた人物がいると聞いていた。しかもその人物を逃がしてしまったが、右腕に傷を負わせたことも。つまりこいつは、

「あの日の、屍鬼をけしかけたのはお前か、トゥー」

「アハッ、せーいかい。よく分かったね。そうボクが…ギルド名はバレてるかな?時の教会の一人、トゥーだよ」


「クソッ、あの日はよくも!」

「少し冷静になってくださいっす!」

そうジェンに言われてトゥーに向かっていく足を止める。彼女の言う通り、ここは冷静になるべきだ。

ヤツはこちらが4人いるにも関わらず堂々と姿を現した。確実に何かあると考えて行動した方が得策だ。

「ごめん、少し取り乱した」

「いいっすよ。それにしても時の教会っすか。私初めて見ましたよ」

「…時の教会ってことは誰かが依頼した。…これが終わったら報告必須」


ユーの言う通り、時の教会は誰かが依頼しなければ動かない。それに依頼達成の為に此処に居るということは王族、フェリスかディアンナ様に用があるのは確実だ。

それにしても不気味だ。トゥーが依頼の為に来ているならば、僕たちに見つかった時点で失敗した様なもののはず。なのにヤツはにらみ合っているだけで、何もする気配を見せようとしない。


ーーもしかしたら来ているのはトゥーだけじゃないかもしれない

あの時襲ってきた屍鬼の中にあんなのっぺらぼうの化け物はいなかった。つまりあの右腕といい、誰かが手を貸している可能性が非常に高い。それならば、

「みんなアイツを全員で叩く。もしかしたら他にも時の教会のメンバーが来ているかもしれない」

「た、確かにそうですね。気が付きませんでした」

「ん。それじゃあ合図を出して…リーダー」

「お?ユーちゃんなんすかその呼び方。しっくりくるっすね~。じゃあ頼むっすよリーダー」


今更呼び名などどうでもいいが。手に握っている風の大槌を構えて再び集中力を高める。

【傲慢武具】と咄嗟に呼んでしまったが、如何せん初めて使うものだからかかなりの力を取られている気がする。作れてもあと2、3回ほどだろう。今持っている武器ですら少し脆くなっている感じがする。

しかし、今は使い捨てでいいのだ。一回分だけ、敵しか妨害しない様に力を込め、

「行くぞ今だ!…ぬん!」

力いっぱい風の大槌をトゥーの方へと投げる。

「ふぅん、攻めてくるんだ?…それはちょっと困るな。顔無し天使(ノーフェイス)来い!」

そう叫ぶと投げた先にあの化け物が現れる。だが、そういう状況も込みでこちらは投げているのだ。


大槌はコン、と先程とは比べ物にならない程小さい音を発生させるが威力ではない、敵を吹き飛ばす方に力を入れている。

ゴウゥン!という音共にトゥーまでの障害物が飛び、道が開かれる。

「これで仕舞だぁ!!」

抜いた剣を握りしめ、トゥーに斬りかかる。コイツが屍鬼だという事は知っている。だが、いくら不死性を有しているからって腕や足を斬ってしまえば抵抗力がそがれ、あとは屍鬼に対処できるアリエスさんに任せればいい。

「ふん!…ッ!?」

トゥーはこちらに向かって振るおうとした右腕を、ユーが射った矢で事前に防がれる。

それに起き上がってこちらに向かってきている化け物の対処はジェンとヨリに任せている。つまりコイツを守る奴はもういない。


「【竜閃…」

強く速い斬撃を一撃繰り出すのではなく、速さ重視にして幾つもの斬撃を浴びせる。以前なら考えもつかなかった発想だが新しい力を掴み取った今、それを可能とさせるだけの自信がある。

「・百花…繚乱】!!!」

斬る斬る斬る。相手が守ろうとしても反応できない速度で。いくら剣を酷使しても【硬化】で強化しているので折れる心配もない。

「ハアアアァァアアア!!」


ボトボト、と切り裂かれたトゥーの体が支えを失って落ちていく。これで抵抗する力も削いで何も出来ない。もし敵に回収されて結合されてしまったら洒落にならないので、何か包むものでコイツを

「フフフフフ」

「どうした、何がおかしい?」

ばらばらになっていても、体のどこからか笑い声が聞こえる。本物が別にいるかもしれない可能性を感じ、周りを見渡すが何処にも怪しい影はない。ならば声が聞こえるのは目の前にあるモノたちから、ということになってしまう。

「いやー、やっと君だけが来てくれた。他の娘たちは初めから狙いじゃなかったからね。…【見世物籠(ショーケース)】」

そうトゥーが呟いた瞬間、僕と奴だけを包んだドーム状の薄い膜の様なものが現れた。


「ボクが受けた依頼の内容は、「双璧アリエス」「第二王女フェリスとその騎士」の抹殺」

徐々に、徐々にだが、刻まれたはずのトゥーの一部一部が集まっていき何かの形を形成していく。

「この力は与えられたもの【見世物籠】。神への見世物として獣と勇者が戦う、天使が提供する見世物」

集まったものは原型だったはずのトゥーの大きさを遥かに超えていき、

「さぁ!ここから始めようよ。ボクと君との神に捧げるべき見世物を!」

目の前の黒狼はそう吠えた。

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