16話 眠れる夜4
「お、お母さん?なんでこんなところに…だって」
ヨリの様子が明らかに変になっている。光を浴びたとたんにいきなり涙を流して、何もない目の前に向かってお母さんと呟いている。
ーー何が、何が起こっている?…そうだあの2人は
明らかにヨリは今正気じゃない。なぜ自分には影響がないのかは見当がつかないが、偶然だったとしてもジェンとユーが大丈夫とは限らない。そう思い後ろに居るはずの2人を視るために振り返るが目に映ったのはこちらに向かってくる2人の姿であった。
「大丈夫っすかハヤトさん。さっき、すっごい光が見えましたけど」
「何とか、でもヨリが…」
え?と2人は驚いた顔を見せ、視線がヨリの方へと向く。そこには未だに泣きじゃくる彼女の姿があるわけで、
「ヨリちゃんどうしちゃったんっすか?しっかり!」
ジェンがすぐさまヨリの元へと行き、彼女の肩を揺すり始める。
「え?私今まで何を…。さっき目の前にお母さんが…」
「しっかりするっす!ヨリちゃんのお母さんなら此処に居るわけないっすよ」
段々とヨリは正気を取り戻していき、状況を理解し始める。これで少しの弊害はあったものの、報告にあった敵を1体倒した事となり、残る1体を探すのみだ。
いや、探すのみになるはずだった。
ーー何か、何か違和感がある。…そうだ、あの飛ばされた化け物は何処に行ったん…
「…リーダー、まだ…終わってない!」
ユーの呼びかけと共にその存在に気づく。ヨリに飛ばされたはずの化け物がいつの間にか彼女たちの背後から手を広げて現れていた。
「ヨリ、ジェン!今すぐそこから離れろ!ユー、アイツに【爆裂矢】を頼む!最悪巻き込んでも構わない。【跳躍】!!」
すぐさまスキルを使って化け物との距離を詰める。しかし化け物は反応が遅れた2人を包み込まんと無理矢理にも迫ってきている。
ユーに頼んだ【爆裂矢】は敵を少し怯ませる程の威力はあるらしいが、それであの化け物が止まるとは考えられない。
「だったらぶっつけ本番で使うしかない!【傲慢武具」
エクシエルは言っていた、全てが出来るように振舞う事こそが傲慢であると。だったらこの力は自分が出来ると思いさえすれば、その確固たる意志さえあれば叶えるための力をくれるのではないだろうか。
「風の大槌!!」
今望むべきものは彼女たちを助けるための力。一撃で倒せずとも化け物をはるか先に吹き飛ばす様な力。
「…援護する【爆裂矢】」
少しだが化け物が怯む。その少しが、アイツを吹っ飛ばすための時間を作ってくれた。
ーー武器も手に入った、やり方もヨリから視て学んだ。
軽くはない大槌を握る手に力を入れ、ヨリの動きを思い出す。ミカヅチさんから教わったものには無かった、舞うように動くのではなく一撃に全てを込める。
「オオォォ!【破鎚】!!」
その一撃は自然災害の様に、だが望んだとおり近くにいる彼女たちに決して害がない一撃として、
ゴゥン、と音を立てながらあの化け物は吹き飛ばされていき、その勢いは一本の木で受け止められる威力を超えており、目の前には化け物が飛ばされて行っている道が出来る程だった。
1体これで無力化ができたと考えたとしても油断するのはまだ早い。風の大槌を使ったら辺から気配が明らかに少し増えている。
「出て来いよ!居るのは分かってる」
「え?何処向いて話してるんっすか?」
そう近くに居たジェンとヨリが不思議そうにこちらを見るが、何かを察したのか武器を構えて同じ方向を向く。
少し時間が過ぎても何も起きなく、一見すると不思議な状態だがいることは見当がついている。
「ユー、あそこの木の影に向かって」
「…了解」
ユーに攻撃の指示を出し、彼女は木に向かって矢を射る。すると、
「ああ、タンマタンマ。本当に撃つことないじゃないか。ねぇ?」
そこから少し幼い少年が笑いながら出てくる。だが、油断は出来るものではなかった。なぜなら、その少年の右腕は獣の様に変化しており、その少年から視えるものが黒く、それこそワンの様に黒くなっていたからだ。




