14話 眠れる夜2
「あー!来たっすよユーちゃん、ヨリちゃん」
「…ん…」
「はわわわ…」
アリエスさんと別れ、屋敷の中から出ると少女の快活な声が聞こえた。おそらくあれがエリーさんとアリエスさんが言っていた兵士の人たちだろう。
「ごめん、遅かった?」
「大丈夫っすよ、大丈夫。私たちがすぐ来ちゃっただけで時間通りっす」
先程元気な声を上げていた少女が、親指をグッとしてこちらに向ける。確か、貸してやると言われた人たちはジェン、ユー、ヨリなはずだ。という事は、
「お察しの通りジェンっす!よろしく」
「…ユー。……よろ」
「そしてあの影に隠れてるのがヨリちゃん。ほらヨリちゃん、さっさとそこから出てこないと」
「や、ちょっと…やめて~。…あ、あの…よろしく、お願いします」
影から引っ張り出された少女、ヨリがよそよそしい動きながらも頭を下げる。一見すると場に相応しくない雰囲気を醸し出している4人だが侮る事は出来ない。
ジェンはメイスの様なものを、ユーは弓を、ヨリは自身の身長より大きい鎚を背中に背負っている。それにいずれもが常に周りを警戒している色を発している。エリーさんが部隊長格と言っていた意味が少しわかったかもしれない。
「フェリスの騎士を務めてるハヤトだ。こちらこそよろしく」
「いやー知ってるっすよ。エリーさんとあんな戦いをするなんて、見てるこっちがハラハラしましたよ。それに…」
「…そろそろ行った方がいい。…エリー様もう出てる、私たちも…」
ジェンが言い終わる前にユーが袖をチョイチョイと少し引っ張った。
確かにエリーさんがもう敵の場所へ言っているのなら、片方を任されている身として遅れるわけにはいかない。僕は3人を少し見渡してから、
「ユーの言う通りだ、これ以上は移動しながら話そう。敵の場所について知っている人は…」
「そ、それなら私…あの、センちゃんから大まかな場所を教えてもらってます。あそこらへんです」
ヨリは声を出したことで注目され少し詰まるが、一息おいてから敵がいるだろう場所を指さす。かなり大まかな場所把握だがスキルを使って色を視れば何とかなる範囲なので問題はない。
移動を開始しながら各々の得意分野を聞いていく。ジェンは中衛、ユーは後衛、ヨリは前衛だ。今まで誰かと組んで戦うという経験をしたことがないため、自分がどれぐらいの位置づけになるか分からないと3人に正直に話すと、
「ハ、ハヤトさんが見せた機動力と応用力だったら中衛だと思います」
「そうっすねー、前衛にも向いてると思うんっすけど私たちと組むとしたらそこらへんが無難じゃないっすか」
「…(コクコク」
とのことだ。あの模擬戦ではすべてを見せてはいないが、3人の所感的には応用力メインだと考えたのだろう。中衛の役割は多岐にわたるがこの3人を邪魔しなければいいが、
「…ッ!?みんな止まって」
「どうしたんっすか?まだ敵影すら見えませんけど…」
屋敷から少し外れ森に入ろうとした瞬間、ある感覚を感じる。それは普段なら見逃してしまいそうな薄く、不思議な感覚だが見覚えがあったために気づくことが出来た。
ーーやっとわかった。この感覚は…
「見られて」
る、と言い切る前にそれは姿を現した。
背中から翼が生え、顔はのっぺらぼうの様になっていて表情が読み取れないがある感じだけは分かっている。
「なに…?こいつ…」
「多分、屍鬼だと思う…」
見た事のある感覚。ミカヅチさんの家を襲ってきた屍鬼とあれは雰囲気が似ていた。