11話 談笑
「ハハハ、獣人?人に獣の耳が生えてるってか?絵本の世界でしか見た事ねえぜそりゃ」
エクシエルと夢の中であった後、アリエスさんに動いてもいいかと尋ねたら、ダメに決まっていると言われてベットに引きずられて今に至る。隣のベットにはすでにエリーさんがいたので、体を安静にしているだけでは暇という事で世間話を交わしていた。
「にしてもあれだな、そんな風貌の奴がいても納得できるな。今は特定の魔物とかは人型に化けられるとか言うしな」
「ああそれなら僕も聞いたことがあります。この国では前例が無いにしても他国では事件が起きたとか」
そんな感じの事を以前にミカヅチさんから聞いただけだが。
元々人型に近い魔物たちはいるものの、ほとんどの魔物は人型ではないし、人型になる必要が無い。原型の方が生まれ持った姿で動きやすいのにわざわざ人型になる必要なんてない、とはミカヅチさんの弁だ。
「俺も昔はそういう奴らを相手にしてたんだがねぇ。ディアンナ嬢の騎士になってからというものガーデンの外に出なくなったからな。あー、久しぶりに魔物狩りでも行きてえなぁ。ハヤトは魔物をやった経験はあるんだろ?」
「ええ、まあ。よくわかりましたね」
「あれだ、あれ。おめぇ俺と戦うときに初めの方の動きが似てたんだよ、魔物専門の奴らとな。たく、俺は魔物じゃねえのによ」
エリーさんはそう愚痴をこぼす。
確かにエリーさんの言う通り、この人を最初魔物の様に見ていたのは認めるが、そこまで戦い方に差が出るだろうか。
顔をキョトンとしている僕を見てか、エリーさんは大きなため息をついて
「ハァー、俺だって女の子なんだぜ?魔物の様に扱われちゃあ傷つくってもんよ」
「それは…すいません」
「よし、だったらな……お?」
エリーさんが突如話を止めてニヤ付きながらこちらを見てくる。いいねぇ、と言わんばかりの表情で何のことか察することが出来る。つまるところ、
「さあさあ、お姫様の登場だぜ?」
そうエリーさんが言うタイミングと同時に部屋の扉が開き、開いた隙間からフェリスが顔を覗かせる。
「あのーハヤトいます…」
かを言う前に見つけたのか明るい顔になり扉を開けて近づいてくる。
「大丈夫ですかハヤト?ここの使用人に聞いたら、ハヤトがこの部屋に連れ込まれるのを見たと案内してくださって、それで」
「ヒュー、お熱いねぇ。妬けちまいそうだよ」
「茶化さないでくださいよ、エリーさん。フェリスも顔を赤くして…。取りあえず空いてる椅子があるから座って落ち着いて」
エリーさんの気配に気づかなかったのか、フェリスは茶々を入れられて顔を少し赤くして止まっていた。それに、
「はーい、バカ二人はもう元気になったでしょ?特にエリーは私の代わりに兵士の訓練に…あら?」
そこにアリエスさんも加わり、場が一気に騒々しくなっていった。
少し経ったあとにフェリスは落ち着きを取り戻し、エリーさんと僕だけであった会話にアリエスさんとフェリスも加わって、
「それにしてもフェリスちゃん大きくなったわね」
「えーっと、アリエスさんでしたっけ?私たちって何処かであったことあります?」
「いいのいいの、こっちのお話。それにさん付けは何か距離を感じるから気軽に“お姉ちゃん”て呼んでいいのよ」
「え?お前そんな趣味だったか?もういい歳なんだから、さすがに引くぞ」
昔馴染みを見るような目を向けるアリエスさんに、不思議そうにしているフェリス。それに茶々をいれるエリーさん、なぜか少し殺気をどこからか感じたが。
色を視なくても分かる、穏やかで優しい色がその場を満たしてくれている。
ーー前の世界では味わえなかった光景だ
そんな感傷に浸って、時々話に入りながらもある事が頭から離れないでいた。
ーーこの世界は運命が決まっている。
フェリスはあの夜言っていた、自分が死ぬ姿を視たと。でも彼女は生きている、どの様に運命へと僕が関わったかは分からないがこれだけは言える。
ーーどこか一つでも違っていたらこの光景は訪れなかった。
この世界に来た時に行く道が逆だったらこの光景は見れなかったかもしれない。フェリスを助けられなかったら、ミカヅチさんが助けに来なかったら…。
いくつもの可能性が存在していて、全てが僕の行動一つ一つに関わっていたとしても
「ん?どうした、修行僧みてえな顔して」
「きっと女子ばっかりだから気まずいのよ。それなら、こんなヤツを女だと思わなければ解決するわ」
「ハヤト、もしかしてどこか痛むんですか?」
これから取るべき選択肢は常に一つだけだ。
「いや、ちょっと考え事を…」
フェリスを死んでも守る。きっとそれが、この場の様な世界を創ってくれるから。