10話 姉妹水入らず
カチャン…
エリーとハヤトが部屋から出ていき、姉妹二人だけの空間となった場は静寂が支配していた。
しかし双方が浮かべる顔色は別物で、ディアンナは状況を探るかのように、フェリスはこの静寂を楽しむかのような様相であった。
「ふふ、昔は姉様とこの様にお話をするなど思っていもいませんでした」
フェリスは、無邪気な子供の様な顔をディアンナに向けて口を開く。
事実、この二人が向き合っておしゃべりなどする間柄ではなかった。表では妹や姉と呼称している二人だが、正しくは言葉の先頭に義理がつく。なぜなら、ディアンナの父は今代の王であってフェリスの父ではない。より正確に言うと、フェリスの親に当たる人物は前継承戦時に敗れている王族であって、フェリス自体が生きている事がおかしかった。
継承戦で勝利し王になった者だけが子を作り、敗北した者は歴史に名を残すことなく消え去っていく事が宿命である。しかし現実にフェリスは生きている、これは今代の王が関わっている事であり、親を押しのけて王になった人物から生きてもいいと言われた結果であった。
だからこそ、他の候補者からしたらフェリスの事は認知してはいるものの、自らの道には関係ないと考えている。それを知っていたからこそフェリスも王族の一員でありながら王を目指してはいなかった。
だが今現実として、フェリスは王になる為に候補者の一人に名を上げている。この行為の真意を掴めなく、この場にいる候補者であるディアンナは直接問いただそうとしているのだとフェリスは思っていた。
「そりゃそうね、私と貴方ではモノが違うもの。こうして対等に、対等に?なっているかしら私たちって」
ディアンナは今までしていた体勢を崩して足を組むと、座っているソファーにもたれかかった。
先程従者や騎士に見せていた態度が嘘だったかのように態度が大きく、悪くなっていく。
「対等ではないと思いますよ。実際、私を支援してくださる方に比べて姉様を支持する方の方が圧倒的に上じゃないですか」
「それだけじゃなくて動かせる金、戦力全てが貴方を上回っているのよ」
まるで自分の買ってもらったおもちゃを自慢するように、尊大な態度で見下すようにディアンナは話す。このような態度を見せられたフェリスがディアンナに対して失望してしまうのも当たり前だ。
フェリスはここに来る時に不安半分期待半分で来た。それはディアンナと以前に一度も会ったことがなく、噂で聞いた印象があったためだ。それなのに目の前では、
(噂では聖女の様な人物で、若年層を中心に人気を集めていると聞いていましたが…。これではハヤトも驚いたことでしょうね)
フェリスはハヤトが持つスキルの能力を本人から聞いていた。あのスキルは表面をいくら取り繕っていても、どんな感情を抱いているかを色で判別できる。ハヤト自身があまり多くの人に使ったことがないので、どの様な感情を示しているのかを知らない色もあるが、この様な人物に対しては人の黒い部分を表すだろう色が出ていた事はフェリスにとって想像に難くないものであった。
その冷静な、ある意味達観した視線が気に入らなかったのかディアンナは少し声に怒気が混じり、
「なに?その目は?だいたいね、何をしようとしているか分からないのよアンタは!いい?この国の未来の王を決める投票が行われる日、『天勝祭』までは1月とないのよ?今更アナタが出たところで何も出来ないし、王にも成れない。それは客観的にみても事実…」
「姉様だって継承戦に敗北したら同じようなものではないですか」
「私がロックスやカインに負けるっていうの!?」
不意にフェリスの口から出てしまった一言によって更に怒りが増したディアンナ。しかし、事実でもある。継承戦に参加し、敗北した候補者はそこから王族としての価値がなくなり、一般人と同等の扱いとなる。結局のところ他人に負けるぞと脅しても、いざ自分が負けたら自分もそこまで落ちてしまう、そんな戦いなのだ継承戦とは。
フェリスはもう用が無いと言わんばかりにゆっくりと立ち、何処を向けているのか口を開く。
「未来は分かりませんよ。絶対なんてことはないし、予想外のことしか起きない。それが未来です。だから私は今を懸命に生きようと思ったんです」
最後の部分は人に聞かせるためではなく、自らを戒めるためのもの用にも聞こえるが、フェリスは言い終わるのと同時に扉に手をかけて部屋から出ていく。
後に残ったのは茫然としているディアンナだけであった。