09話 新たな力
気が付くと、辺り一面が白い世界で目を覚ます。
どこか懐かしい様な、どこかで見た事ある様な世界だ。
「すごい、すごいよ君!いやぁ退屈しないね、君を見てると」
パチパチと拍手の音が聞こえたと思ったら、後ろから声が聞こえる。
「…もしかして、エクシエルさん?様ですか?」
「うん!そうだよ」
元気に返された返事に戸惑いを隠せない。
それも無理もない。声や雰囲気には多少の覚えがあるが、格好が以前と少し違っている。
以前は眼帯をしていて顔が良く見えていたが、今は布の様なものが両目を隠すように回されているので顔の判別が難しい。
「んー、様はやめてほしいかな。僕たち友達の様なものでしょ!だから敬称なんてせずに呼び捨てで構わないよ」
「…それならエクシエル、なんで僕は此処に…。確かエリーさんと戦って、それで負けて…」
思い出すほどに心当たりがない。あの戦いですら命の危険は終始なかったし、倒れはしたもののきっとアリエスさんが治療してくれるだろう。
…となると、
「あー、ないない。君を元の世界に戻そうなんて思ってないよ。ただ、君の成長を祝おうと思ってね」
そうエクシエルが言うと、体の中から少し熱くなる様な錯覚に襲われる。
「これは僕が与えたスキルじゃない。君自身が自分の力、意志だけで勝ち取ったスキル。固有や職業なんてスキルじゃない、奇跡とも言えるようなモノさ」
けどね、とこちらに注意をするように続け、
「力の名は【傲慢】。実力が見合っていなくとも自らの意志で無理矢理押し通す力。信ずるは自らの力であり、疑わずに生きていくのが信条。決して自分には不可能だと思い込まない事が重要さ」
体の熱が引いていく、それと同時に何か全ての事が簡単に出来る気が沸きあがってくる。不安な気持ちを飲み込むように…、
『ハヤト君、自信を持ちたまえ。自信がなくとも、必ず出来ると思って動きたまえ。じゃが、慢心はするなよ、出来るものも出来なくなる』
ーー分かってます、ミカヅチさん…
湧き上がってくる高揚感を無理矢理鎮める。
この気持ちは毒だ。ミカヅチさんが言っているのは自信を、勝負を捨てるなという事だ。自分が無力な存在であるとともに、諦めなければ一矢報いることも出来ることを知っている。
ーー僕に必要なモノはこれじゃない!
「フッ…はぁはぁ」
「すごいよ、すごい!衝動を押さえつけた!過去、その衝動に飲み込まれた者達は一人や二人ではないのに。君は本当に飽きないよ、ハヤト」
呼吸を整えて、改めてエクシエルに向き直る。
「エクシエル、一つ聞いていい?」
「うん、いいよ」
「最近気になったんだ。君の目的が分からない、【神の左目】ていうスキルをもらって初めて神と呼ばれる存在と会った事を知った。けど、どうしてここまでしてくれる?乗せられたといえ、そこが気になる」
乗せられた、とはほとんど勘だが、そんな気がした。あの時の事を今になって振り返るとおかしな点が分かる。恨んではないものの、不思議に思ってしまうのは当然だ。
「へぇ~、気づいたんだ」
視線が、エクシエルの目はみえないけれど好奇を帯びたものから冷たいものへと変わっていくのを感じる。
数舜の間の後、エクシエルは笑顔を見せて語りだしてきた。
「前にも言ったけど、君の物語を見たいんだ」
そう言ってエクシエルはパチンと指を鳴らす。その瞬間、周りに本棚が現れた。
エクシエルはその本棚から厚い本を一冊取り出すと、こちらに本のタイトルを見せてくる。
「レジャ?の一生譚…」
レジャという単語は聞いたことなく、一生というからには何かの名前だろうことが推察できるが、
「これはある国の農民の名前さ。この本にはこの人物が辿る人生が事細かに記されてる。何時産まれて、誰と結婚して、何時死ぬのかが全てね」
ペラペラと本をめくる音だけしか聞こえない程衝撃を受ける。
どこの誰か分からない人が送る人生には興味ないが、エクシエルの後ろに見える本の数は明らかに一目では分からない程に多い。
ーー人の人生が分かる。それじゃあまるで
「運命、それを記すための本さ。この世界の人間は生まれ落ちた瞬間に本が創られる。その記述から逃れることは出来ない、絶対にね。だから僕は常に退屈しているのさ、世界を見守る者としての責務は分かっているんだけど、本を見てしまえば全てが分かる。だけどね君がいる、この世界に本がない君がね」
そう言われて指をさされる。
つまり本が無い僕は先行きが分からない登場人物、長く生きているだろう者たちの
「暇つぶし、て事ですか…?」
そうエクシエルに言うと申し訳なさそうな、だがわくわくした様な顔持ちになり
「確かに、暇つぶしという面が少しあるのは認めるよ。でも期待もしてるんだ。先の時代に創られたこのシステムに現れた君というバグのおかげで様々な人たちの記述に影響が出て、ついには白紙のページが生まれたものたちもいるんだ。これは、この世界が運命という決められたレールから外れていき始めている素晴らしい事なんだ」
何故か話が壮大になってきている。人を運命から解放する、エクシエルは何かのスキルを使っているような節はなく、声には真剣さが表れていた。
「信じなくていいんだ。それに君はフェリスという守るべき少女を見つけたんだろう?だったらそれを貫いてほしい」
エクシエルがそう言い終わると何故か眠く、周りが白くぼやけていく。以前にも味わったことのある感覚だ、となるとこれは
「そろそろ時間だね。君と一緒にいる時間はとてもあっという間な気がするよ。それじゃあね、主人公」
そう言い終わるのと同時に瞼を閉じて、ゆっくりと意識を手放していく……。
「あら、気が付いた?痛いところはもうないでしょう?」
「…アリエス…さん?」
「そうよ、おはよ」
「おはようございます」
目が覚めると先ほどまでの事が夢の様に記憶が曖昧になっている。けど、夢ではない事は確かだ。
「アリエスさん頼みたい事が」
「何?お姉さんに言ってごらんなさい」
「どこか剣を振ったりしても大丈夫な所ってありますか?」




