07話 模擬戦2
「よっしゃ!好きな得物を選びな」
そうエリーさんに言われたので、近くに立てかけていた剣を選ぶ。
ーーよし、これぐらいの重さなら十分だ。
剣を数度振り、重さや感覚を確かめる。訓練用のためかいつものより軽い気もするが、気にするような範疇ではないだろう。
「僕はこれでいきます。エリーさんは何を使うんですか?」
「ん?俺は特に使う物なんてねぇが、おめぇと同じのを使うか」
エリーさんは僕と同じような剣を掴むとそのまま腰に差す。
「それじゃ、はじめっか。距離は…これぐらいでいいかね。どうだ?」
「僕の方も大丈夫です」
「フフ、じゃあ準備が出来たら二人とも言ってちょうだい。始まりの合図は…これでいいか」
そう言うとアリエスさんは懐から一枚のコインを取り出した。
「このコインを飛ばして地面に着いたら始まりとしましょう。見えにくいのはごめんね。それと、多少のケガならすぐに治せるから二人とも遠慮はせずに。いい?」
「僕はいつでもいいですよ」
そう言って剣を構える。
「俺もいつでもいいぜ」
だがエリーさんは選んだはずの剣を腰に刺したままで、自然体の状態で立っている。
「それでは二人ともいくわよ」
アリエスさんの手からコインがはじかれる。
…。
……。
チャリンッ…。
「始め‼」
静かな音と共に始まった模擬戦。
ーーあっちが構えないなら、こっちから行く【跳躍】‼
先手必勝。すぐに間合いを潰し、エリーさんへと近づく。
「お?速えな。あらよっと」
蹴りを放たれるが問題はない。
剣を地面に刺して軸とし、放たれた蹴りを避けて横に回る。
「隙ありです。ハァ‼」
剣の持ち方を少し変え、エリーさんの横腹めがけて突きを放つ。が、
ギャリィ!
「は?」
刺さるはずだった剣が異常な音を出し、剣をそらす。
「どうした?隙なんてねぇぞ!」
「ッ!【跳躍】!」
間一髪のところで相手の拳を避け、距離をとる。
ーーおかしい、確実に剣は腹にめがけて刺さっていくはず。
いくら訓練用の剣だからといって、無傷で終われるほど殺傷能力が無いわけが無い。突き刺したら血が出るし、大事にもなる。
しかし、こういう有り得ない事が起きるのがこの世界だ。だからこそ何をしたのか見当がつく。
「あん?逃げるなんて男らしくねえな。そんじゃま、こっちから行くぜぃ」
ゆっくりと一歩ずつ、エリーさんはこちらに近づいてくる。
ーー幸いエリーさんの攻撃は避けられないわけでもない。もしあの人が使ったのがスキルなら…。
視るしかない。僕が取るべき行動はそれにつきる。
「そぉらよ!ほらほら、逃げてばっかじゃいづれ詰むぜ?」
放たれる拳や蹴りは避けられないレベルではないが、一撃一撃がくらってはいけない力を秘めていることはすぐにわかってしまう。
ーークソッ、いくら視ても何も感じない。固有スキルか?いや、そんな感じもしない…。
「考え事か?足元がお留守だぜ!」
「しまった!」
集中を欠いていたのか、突然放たれた脚への蹴りを無理矢理避けようとしてしまい、体勢を崩す。
「オラァ!」
「ハァア‼」
エリーさんは前のめりになっている僕に対して、アッパーカットを放つ。
こちらは体勢を崩しているものの、相手の拳に合わせるように剣を無理矢理振るう。
拳と剣が合わさる。普通なら剣が拳に負けるわけなどないが、
パキィンッ。
剣が中心から折れてしまい、咄嗟に腕で防御することも出来ずにアッパーカットが直撃する。
「どりゃぁあ!」
「カハッ!」
もろにくらった攻撃で体を後方へと吹っ飛ばされ、意識がもうろうとし始める。
「どうするハヤト、降参か?それならアリエスに治してもらうといいぞ」
「…ッフ、ハァハァ。そんなわけ、ないじゃないですか。…まだいけますよ、こっちは」
「フハハハ、それでこそ男だ!さあ、来い!」
止めるわけないじゃないか。視えたんだ、あの時。殴られる寸前まであの人の拳を視ていたかいがあった。
「次は僕から行きますよ」
これなら使える気がする。