05話 騎士という存在
「それじゃ、少し体を見せてくれない?」
「え!?」
「あー、違う違う。変な意味じゃなくて、此処に来た時に少しケガをしてるでしょう。アイツに連れてこられたんだったらあそこを通ってきたわけだし」
「まあ、確かに少しの切り傷ぐらいはありますけど、そこまで気にすることじゃ…」
「ダメよ、ダメ。あの花は防衛の為に一役買ってるものでもあるのよ。フェリスの騎士さんに何かあったら顔向けできないじゃない」
そう言うとアリエスさんは傷がある所を見つけると手をそこに軽く触れる。
「はい、これで終わり。次はどこ?」
少し触っただけで傷を無くした力には驚いたが、ここはこの人の言う通りに傷を見せた方が良いだろう。
「あと、ここですね。すいません、お手数をおかけして」
「いいのいいの、気にしない」
こう傷を治してもらっていると、あの時を思い出す。初めての魔物を倒した後に傷ついたところをフェリスに治してもらった事だ。
ーーあの時もそうだったけど、僕に回復系のスキルは適正がないんだな。
あの時も、そして今も、いくら実際にスキルが使われている所を視ても何も感じない。
【神の左目】は適正があればスキルを習得できる、だからこそワンのスキルは習得できたが、非戦闘系のスキルは一つも習得できていない。
ーーそれか他に条件があるかだな…
「はい、これで全部終わったかな?それにしても食いつくように見てたわね、もしかして惚れちゃった?」
「いいえ、そういうわけでは無いんですけど、きれいだなって思っただけです」
率直な感想を言ったつもりだったが、アリエスさんはキョトンとした顔をして、
「あらそうなの?残念。…でも良かったわ、あの娘の騎士が君みたいな子で」
「それは…ありがとうございます」
「そんな謙遜しなくていいのよ、ただちょっとだけ、知ってる娘の安全を守る騎士はどんな人なんだろうって思ってただけよ」
ある意味で予想外だった。仮にも王の座を狙う者の騎士同士だ。少し溝があったり、他の候補者の心配なんてしないものだと。
だからだろう、ミカヅチさんが今いる騎士たちに僕が敵わないと言っていたのは。実力ではない、心が、精神がまだ騎士になったばかりの僕とは比較にならない。
だからと言って、
「安心してください、誰でもなく僕がフェリスを」
胸を張って、自らを戒めるように、
「王になる前も、後も守ってみせます」
そう言い切った僕に対してアリエスさんがみせた表情は安心した様な、穏やかな表情であったことは一生忘れないだろう。