04話 双璧
「さあ行くぞ!こっちだ」
エリーさんに半強制的に連れ出され、今は屋敷の裏手に向かっていた。
あの場で出来た事など限られているし、一度他の所で行われている訓練に興味があったのは事実だ。ミカヅチさんに騎士とはどういうものかを説かれるかもしれないが、気にしないでおこう。
「ここって大人数が訓練できる場所なんてあったんですね。馬車から見てる限りではそんな場所はないと思ってました」
「入り口から見ればそう思うだろうな此処は。ところがな、実際歩いてみると結構奥行きがあるんだこれが」
「そうなんですか」
「あ、あとお前。何だっけな、ハヤトだったけ?敬語はやめにしねぇか?別に俺らは上下関係なんてねぇし、どうもむずがゆい」
そんな話をしている最中に、何かの掛け声とともにぶつかり合う音が聞こえる。
「お!そろそろだな。全くここは分かりにくくて困るぜ。ほれ、ハヤトもこっちにこい痛くねえから」
エリーさんはそう言うと薔薇が咲いているアーチの様な所に突っ込んでいった。
薔薇には棘があると聞くが、それに臆して行かないわけにもいかない。
ーーエリーさんは平気そうだったけど、一応花をどけながら進むか。
花をどけ、進んだ先には聞こえていた通りの世界が広がっていた。
軽い兵装に身を包んだ女性が、殺傷能力はないだろうが得物を手に模擬戦の様なものをしている。
「どうだウチの訓練は?まあ、足りねえモンもあるだろうがなかなかだろ?」
いつの間にか横に立っていたエリーさんが自慢げに語る。
確かに個々の努力を感じさせるものが、動きや真剣さに視える色で分かる。だけど、不思議に感じるものもある。個々の力は強いものの、
「兵士にしては数が少なすぎる、そんなところかしら?」
付近にあったベンチに座っていた女性が疑問も代弁するかのように言う
「ムッ、アリエス気づいていたのか」
「当たり前でしょう?あんなところから来る人なんてあなたぐらいしかいないわよ」
アリエスと呼ばれた女性は黒い修道女の服を身にまとい、目線だけをこちらに向けている。それに、この人が双璧であるエリーさんと親しく話していることである程度どんな人物なのかが予想できる。
つまりこの人が、
「想像が付いていると思うけど、私が此処の騎士の一人、アリエスよ。よろしく、フェリスの騎士さん」
「こちらこそ、よろしくお願いします」
差し出された手を取り、自己紹介を済ます。
「それにしてもごめんなさいね、此処に案内するのがこいつで」
アリエスさんは嫌そうな顔でエリーさんを指さす。
「こいつ大雑把で頭筋肉だから、此処に来る時は屋敷のドアに通じてるのがある、て言ってもいっつもそのお花のアーチを突き破ってきちゃうのよ」
「なんだと、そんな事は初耳だぞ」
「初耳もなにも他の娘はみんなそこから来てるのよ」
フンッと顔をそらしたアリエスさんはベンチから立ち、こちらに歩み寄ってくると
「そうね、あのバカのお詫びにちょっとそこの木陰でも行かない?」
「へ?ああ、ちょっと!」
アリエスさんに首根っこを掴まれると、ズルズルと木陰へ引っ張られていく。
ーー此処の人は無理矢理が好きなのか…
そんな事を思いつつも、何故か抵抗できなかった。