01話 屋敷に行こう
「ハヤト、大丈夫ですか?気になることがあったらいつでも言ってくださいね」
「心配いらないよ。いくら初めてといっても、鍛えてるからね。へっちゃらさ」
心配そうなフェリスと何回目か分からない様な同じ会話をしながら、僕たちは馬車に揺られていた。
先日、郵便受けに入っていた一通の手紙。フェリスが言うには姉に当たる人物、第一王女ディアンナ様からの招待の手紙だった。
いくら王の座を争う敵同士であっても、血縁上は姉であるからしてこの招待を蹴るという選択肢はないわけで。そういうところも含めて聞きたい事があるのでは、というのはフェリスの弁だ。
ともかく、そんなこんなあってフェリスの知り合いに馬車を生業としている人がいるというので、その人にお世話になっている最中である。ちなみに、ミカヅチさんは留守番という事なのでこの場には居ない。
「見てくださいハヤト!そろそろ森に入りますよ。砂利道が多くなるので座布団を用意しましょうか?あ、あとそれから…」
こんなに甲斐甲斐しく世話をしてくれるフェリスを見ると、自分が騎士で彼女を守る立場である事を忘れてしまいそうだ。しかも彼女自体が楽しそうにしているので、咎める気持ちすら起きない。
「ありがとう。でもフェリスも馬車の移動なんて慣れてないだろう?それに僕は君の騎士という立場柄、そういうのは君より先に使えないよ」
「むぅー、そう言われると何も言えないじゃないですか。それにもっと砕けた感じに接してくれていいんですよ?」
「だったらフェリスこそもっと砕けた感じで話してくれよ。そんなかしこまった喋り方じゃ周りの目が痛いんだよ」
それにしても良い兆候だと思う。あの夜以来、彼女自身も少し壁がなくなったような感じもするし、よく笑ってくれる。長年一緒に居たミカヅチさんですら、この様な彼女は見た事が無いという。
ーー僕が此処に来た意味が少しはあったのかな…。
そんな感傷に浸っていると
「ハ、ハヤト…、あまり見つめないでください。少し…少しだけ恥ずかしいです…」
「ご、ごめん」
顔をほんのり赤くしながら目線を外す僕たち。本当にこんなので彼女を守れるか心配になるが、
「フェリスちゃん、いいところ申し訳ないけどもう少しでつくよ。帰りも迎えに来た方が良いかね?」
「あ、大丈夫ですよコウさん。帰りは姉様が用意してくれるといっていたので」
「そうかい、それじゃあ気を付けて行ってきなね。坊主もフェリスちゃんをちゃんと守るんだよ、騎士としてね」
「はい!」
気を取り直していこう。ただの姉妹のお茶会などと思ってはいけないんだ。
新参者でも、フェリスは王の座を狙う候補者。その敵対するだろう人と会いに行くんだ。何も起きないはず、なんて甘い考えは捨てなければいけない。
『いいかい、常に気を張ってフェリス様を守りたまえよ。あの方の騎士は君しかいないんだから』
ーー分かってます、ミカヅチさん。
第一王女ディアンナ様お付きの二人の騎士[双璧]、その人たちを相手にする覚悟で行かなければ。