プロローグ 失った時は戻らない2
「何かの用ですか、イレブンさん…?」
「そんなに畏まらなくていいですよ。私たちは同じギルドのメンバーじゃないですか」
イレブンは笑みを浮かべるがそれがかえって恐ろしく感じる。
トゥーはイレブンの目的が分からず困惑するが、そんなトゥーにイレブンは一枚の紙を差し出す。
「これは…依頼書。それに」
警戒しつつも受け取った依頼書に書かれたことは、トゥーを震え上がらせるのに充分であった。
『第二王女フェリスの殺害、及び騎士の排除』
トゥーが以前受けた依頼は王女の装飾品を回収する依頼であり、今回のは明らかに内容が正反対だ。
「どうでしょう、この依頼?お望みとあらば貴方にこれをお譲りする事が出来ますよ」
イレブンが囁く様に語り掛ける。赤子を諭すように、純粋な好意からではないかと錯覚してしまう様な声で、
「これで貴方を侮辱した人たちに分からせればいいんですよ。心配は要りません、トゥーさんはケガをなさっていますから私の方からも出来るだけの支援はさせてもらいますよ?」
ゆっくりだが確実に、トゥーは心が固まりつつある。イレブンに騙されているかもしれない、利用されているかもしれないなんてことはどこかにいっていた。目の前にいる女性が本物の天使であるかのような、
「大丈夫。貴方は強いです、絶対に。それを見せるだけでいいんですよ」
トゥーにはもう進む以外の道は残されていなかった。
★
「相変わらず悪趣味だな」
「あら、見ていたんですか?」
イレブンんはトゥーを見送った後、柱の陰にいた男に話しかけられていた。
「覗きも趣味が悪いと思いますが、そこのところどうですかねトゥエルブさん?」
「チ!最初から気づいて癖に何を言う」
ニコッと笑顔を向けるイレブンに心底嫌そうな顔を見せるトゥエルブと呼ばれた男。
「あいつら、ワンとトゥーの代わりは用意したのか?12人いての時の教会だろう?」
「お忘れですか?失った時は戻らない、時たちはそれを享受する。そう私たちの決まりにあるでしょう?それに時には差異はない、私たちの誰もが新しい人を指名する権利なんてありませんよ」
「時に差異はない、そう言うなら俺たちを選んだのは誰なんだろうな?」
「さあ?私たちの事などいいではないですか」
男の問いかけに相も変わらずイレブンは笑顔を絶やさず、お互いの視線だけが交差する。
それが嫌になったのか、トゥエルブは直ぐに視線を外すと背を向けて歩き始めた。
「あら、どこかに行かれるのですか?そのような顔をして」
「二度も邪魔をした者の所に行くだけだ」
トゥエルブはそう答えるだけで、振り返りもせずにただ歩いていく。
「さて、私も彼の手伝いに行きましょうかね。…教会が教会たるには神の存在が必要不可欠なんですよ、私は主に従っているだけ」
何に対する呟きか。その呟きを拾ったものはこの世に居ないのだから真意は彼女だけしか分からないだろう。