27話 騎士になる日
「ん、んぅ…?」
暖かな日差しに照らされ、僕は目覚めた。
ーーいつぶりだろう、こんなの…
体には包帯が巻かれ、布団へと横たわっていることがすぐにわかる。
朝の陽ざしに当てられて、思い出す光景は病室にいたころの自分だったが、
ーーそうだ、そうだよな。僕はもうあの時とは…
そんな僕の視界に彼女を捉えた。
「フ、フェリス…」
とても大丈夫とは言えない様なあざや傷が包帯の隙間から見えるけども、命には関係ないだろう。
「まだ休ませてあげなさい。もちろん君もね」
「ミカヅチさん」
目の前には桶を持ったミカヅチさんがいた。
きっと今回もこの人が僕たちを助けてくれたんだろう。だけど一つだけ分からに事があった。
「ミカヅチさん、一つ宜しいですか」
「なんじゃね?」
「僕を助けてくれたのはいったい誰なんですか?」
あの時、ワンを倒した後に僕は屍鬼たちに襲われるはずだった。けど、ある光景だけは見えた。誰かがそこらにいた屍鬼たちを一瞬のうちに消し去るのを。
「あの人はいったい」
ミカヅチさんじゃない事は分かってる。スキルを教えてもらっている時に見た事があるが、あれとは種類が違う動きだった。
例えるなら、ミカヅチさんが静の動きだったら、あの人は荒々しい猛の動きだ。
「そうじゃな、アイツはわしの同僚だったと言えばいいかの。…まあ、奴にあったら恨まんでおくれよ」
「?どういう…」
「君はもう休みなさい。体に無理をさせすぎじゃ、じっくり休まんとこれから体がもたんぞ?」
そんな会話を皮切りに僕は目をつぶった。
「…ッ!?ハアハァ…」
太陽も沈んで寝静まる時、突然誰かのうなされる声が聞こえる。
いや、誰かなんて言わなくても、
「フェリス!大丈夫か!?」
突然苦しみ始めたフェリスにどうしていいか分からず手を握ると、荒れた呼吸は落ち着いていきフェリスが目を覚ました。
「ごめんなさい。起こしてしまいましたか?」
「気にしなくてもいい。それより、どこか体調が悪いんじゃ…」
「大丈夫ですよ。少し、少しだけ悪い夢を見ただけですから」
「それなら。でもそんなに傷だらけなんだ、少しでも何かあったら…」
「フフ、ハヤトがそれを言いますか」
「そ、それは確かに…」
お互いボロボロなのだ、そういわれても仕方がない。
……。
………。
いきなりの事で話すことも見つからず、二人して見つめあいながら沈黙が続いたが、初めに破ったはフェリスで、
「ハヤトに騎士になって欲しいと言った話、実を言うと少し迷ってるんです」
フェリスは何かを決したかのように言う。それに対して僕は何も言えず、
「あの時、ああは言ったものの迷ってるんです。あの後、貴方の戦いを見て、それで…」
「それは、僕がフェリスを守れるぐらい強くないってことこと?」
「いいえ、違います。ただ、貴方が戦って、傷ついて、それで果てにはなんて想像したら私耐えられなくて」
そう言うと彼女は一呼吸置き、改めて続ける。
「私が生まれ持ったスキルは【予兆】って言うんです。色んな人の最後が突然視えて、それを変えられなくて。でも、貴方の傍にいると視えないんです、モヤの様なものがかかって。生まれて初めて安心して眠れたのも、人を見るのも、自分の手すらも安心して見るのも、全部貴方のお陰だったんです」
彼女はあの時確かに、独りにしないでといった。怖いんだろうきっと、人の死に様が視えてしまう生活だって。それに、
「こんなどうしようもない私の騎士になって、傷ついて。私は貴方に傍に居てほしいと思ってるんです。ただそれだけを思ってるんです。だから、私なんかを守って貴方が死んでしまったら…」
優しいんだ、とてつもなく。
だけど僕はそんな彼女でも、
「僕はさ、生まれた時から体が弱くて、部屋から出たことも無くて、多分周りから何も期待されてなかったんだ」
脳裏に横切るのは病室に一人きりだった自分。親は忙しくての一点張りでろくに会った事が無かった。しかも下の子が産まれた瞬間から見た事ない。
「何かの幸運で歩けるようになって、体が強くなっても内面なんて変わりやしないし、」
この世界に来ても、何をすればいいか、生き物を殺せるかどうかで悩んでた。
「でもさ、こんな僕の事を認めてくれて、あまつさえ騎士に誘ってくれて本当にうれしかった」
だから僕は、
「傍に居てほしいんだったらいつでも傍に居る。でもそれと同じぐらいに君を守りたいんだ。他でもないフェリスを」
「騎士になんてなったら、この前みたいな人たちが来て、きっと」
「死なないよ、フェリスを独りにしない」
「大変なんですよ!?私鈍いから、貴方を余計に傷つけたり」
「そんな事は気にしない」
「私なんかの…」
「なんかじゃない。僕はフェリスに感謝してるし、君を守りたいと心の奥底から願ってる」
だから、
「僕を君の騎士にしてくれ、必ず君を守る」
今はまだミカヅチさんにかなわないかもしれない。けどいつかは
「…私からも、お願いします、ハヤト」
誓いの夜はふけていく。