25話 ボクの計画2
「…ッ!」
「あれ?逃げちゃうの?ざんねんだなぁ」
ハヤトやミカヅチさんのように戦った経験のない私が取れる選択肢なんて少ない。
ーー遠く、少しでも遠くに!
「…キャッ!?」
何かにぶつかってしまう。いいや、感触からして人のそれは私を安心させるには程遠かった。
「大丈夫!いつでも、何処へでも逃げていいように協力してもらってるから」
「い…いや…」
見上げるとそこには崩れ始めている顔があり、先をふさぐように立ちふさがっている。
あまりの驚きに腰を抜かしてしまい体が言う事を聞かない。
「安心してよ♪依頼は君の手首に着けてある“ブレスレット”の回収さ。君には何もしないよ、きっとね」
「え…?でもこれは…」
「分かってるさ。それは王家を示すための装飾品。それ以外に価値なんて無いし、もし売ろうとすればこうなる」
そう言ってトゥーは私の目の前で首を掻っ切る様な動作をする。
たしかに、王家の証と称されているものを渡したところで王家でなくなるわけでは無い。けど、私にはこれを渡せない理由がある。
だから…、
「フーン、渡さないつもりなんだ~。それなら」
「え!?な、なにを」
両脇を近くにいた化け物2体に掴まれると、トゥーはどこからともなくナイフを取り出した。
「斬りずらいからじっとしててね。本当はボクこんな趣味じゃないんだけどなっ!」
「…!!!」
くるだろう痛みに備えてか、目を閉じて歯を食いしばる。
……。
………。
くるはずの痛みがいつまでもこず、私は思い切って目を開けると。
「は、はぁ?ウソだろ、ワンがやられた!?アイツには相当な量の魂を分け与えてやったはずだぞ」
驚き、下を向いているトゥーの姿。気のせいか拘束も緩くなり少し暴れれば抜け出せそうだった。
ーーチャンス!!!
これ以上のチャンスはきっとこない。そんな思いから拘束を振り払い逃げようとするが、
「少し、少しだけ暴れないでくれるかな?今ボクは状況を整理しようとしてるんだ」
「ヒッ!」
これまで感じたことのない様な憎悪、怒りを感じて再び体が動かなくなる。
「やられた、あぁアイツがやられやがったよチクショウ!」
この少年が言うアイツが誰なのかは分からないが、一つだけ分かったことはある。
ーーハヤトが、ハヤトがきっと何かしてくれた!!
あっちの戦いが終われば、こちらに来てくれて私を助けてくれるはず。そんな淡い思いを抱いてしまう。
彼が死んでしまうと思った瞬間もあって、彼にまだ騎士になると聞いてない。いいや、騎士なんてならなくても一緒にいてくれるだけで私は、それだけで…
「なに勝ち誇ったような、気取ったような顔してんだよ、ゴミが!」
「グフッ…」
いきなり鳩尾に向かって蹴りを入れられ、体の空気が一気に出るような感覚に襲われる。
「そうやって、いつもそうだ!ボクの思い通りにいかないのがそんなに楽しいか!?えぇ?」
さらにトゥーから蹴りを入れられる。意識が遠のきそうな時に蹴りが止み、何か言ってるのが聞こえた。
「もういいさ、お前も死ね!ボクの邪魔をしたやつも…」
そう少年が言ったと思うと、私は髪の毛を掴まれ下を向いていた顔を上げさせられる。
「焼き付けろよな、その目に!お前をやった奴の顔をさっ!」
今度こそあのナイフは止まる事はないだろう。
私のスキルは人の最後が視える。ハヤトが傍にいてくれることで視えなくはなったものの、
ーーああ、馬車でよりは長生きできたかな?
そんな思いと共に私の人生は幕を、
「ここからですぞ、あなた方の物語は」
「ミ、ミカヅチさん…?」
迫ってきていたはずのナイフをはじき、私を拘束していたモノもいつの間にか消し去って、
「しばらくお休みくださいフェリス様、今終わらせますので」
こちらに向けた笑顔はいつものミカヅチさんだったが、あの少年に向ける目は私の見た事ないミカヅチさんだった。