22話 屍鬼4
私は何処にいるんだろう。
ハヤトを送り出して、部屋に独りで帰りを待っていて…、それで…、
ーーああ、そうだ。いきなり目の前に動かなくなったハヤトが視えたんだ…
そこから私は、言いようもない不安に襲われて、気づいたら部屋を出ていて…
ーーハヤト!彼は?彼は何処にいるの!?
そう気が動転している内に目の焦点が定まっていく。
ぼんやりと目の前に茶色の何かがあったのがより鮮明になっていき、段々と人の形になっていって…
「…ヒィ!?」
私は軽い悲鳴を上げてしまう。
目の前にいたのは肌が崩れ始めていた元人間だったであろう何かであった。
「やだっ!止めてっ!【光弾】」
徐々に近づいてくる何かに対して、私は反射的にスキルを使用してしまう。
そのスキルは殺傷能力は低いものの、当たれば少しの間怯む程度はしたと思う。けど、実際に起きたことはそんなものじゃなかった。
「…ッ!?なんで、なんで…。ああ…」
目の前が真っ暗になっていく。それは紛れもなく私のせいだった。
「カハッ…」
「ハヤト…なんで…」
「フェリス…こいつらに攻撃しちゃだめだ」
私の【光弾】が背中に当たり、血を流しながらも庇うように立っているハヤトがそこにいた。
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「【影なる君】それが俺の固有スキルさ。あらゆる影の中を移動できるスキルなんだが、聞いてみると面白いスキルだろ」
面白いわけが無い。さっきのフェリスを狙った攻撃だって、気づいたから対処できたものの、奇跡の様なものだ。不意打ちにはもってこいのスキル。
ーーとにかく、こいつから目を離すことは得策ではないな…
「そんなこと教えていいのかよ。正体が分かれば対処なんてやりようが…」
虚勢だ。しかし、虚勢を張った僕に対して、あの男は不気味に笑う。もう関係ないんだと言わんばかりに、
「影を移動できるんだぜ?それはよ、体の一部でもいいわけだ。だからこんな風にお前が守っている奴なんて、此処から簡単にやれるんだよ」
嫌な予感が的中する。すぐさま、後ろを振り返ってフェリスを守ろうとするが、
ーー何も、何も起こっていない!?
嵌められたと思ったのと男の声を聞いたのはほぼ同時であった。
「そんなわけねえだろ、ばぁか!」
すぐさま男に視線を戻すが、既に男は短刀をこちらに振り下ろしており、避けることは出来ない。
「クソッ!」
「ん?隙ありだぜ、オラァ!」
守るために構えた剣をはじかれ、男の蹴りをもろに食らう。
「グフゥ。カハッ!」
鳩尾に入った一撃で、酸素が全て抜けた感覚になり、その場にうずくまる。
「もう少し、お前の経験があったらどうなるか分からなかったが、相手が悪かったな。これでしまいだ!」
振り下ろされたものを見ることも出来ず、うずくまっている僕にある音が聞こえてくる。
「ガアアァアアァア!!!」
「クソッ!こいつらまだいたのか!しかも何処から!?」
間一髪の窮地を救ってくれたのは、他でもない屍鬼であった。
だが、窮地には変わらず。
「ガアァアアア!」
他にも数匹いて、こちらにも襲ってくる。
まだ立ち眩みはするものの、すぐさま立ち上が、近づいてくる一匹の屍鬼の首をはねる。
ーーこの数はフェリスも襲われる!
先程とは打って変わってフェリスがこの場にいるのだ。気を失っているだろうフェリスが襲われたらひとたまりもない。
そう思っていた時、男のある言葉が聞こえる。
「何だ?てめぇも襲われてるじゃねえか。という事は…分かったぜ、あの女が屍鬼を操ってるんだな。だからあの女は襲われてねぇ」
男の言葉を証明するように、フェリスの周りに屍鬼がいることは視えている。それなのに、屍鬼は見えていないかのようにフェリスを素通りしている。
ーーという事はつまり…!
ヒィ!?という声と共にフェリスが目の前の屍鬼に向かって、何かを放とうとしているのが視える。
ーーそれはダメなんだフェリス!
フェリスの攻撃から屍鬼を守るように立つ。あくまでも、僕は襲ってくるので屍鬼を倒せるように。
ドスッという音と共に体のどこかが傷を負ってしまうが、そんなことは気にしていられない。
「フェリス…こいつらに攻撃しちゃだめだ」