20話 屍鬼2
「とは言ってみたものの、誰だお前は?…どこか見覚えが」
僕の目の前にアイツがいる。その事実に呼吸が荒くなっていく。
何故アイツが此処にいるか、なぜ五体満足で生きているのか、幾つものなぜが積み重なる。
「僕を覚えていないのか…?あの時お前はミカヅチさんに…」
「悪いが思い違いだったか?俺の事を知ってるんだったら今頃、死んでる」
無表情に、ただ事実を述べているようにあの男は言う。
その声、雰囲気、何よりも男に視られる色。どれもが有り得ない現実を伝えてくれる。
ーー間違いない。こいつは、フェリスを襲った男だ!!
「それよりもお前知ってるか?いつの間にか俺は此処にいてな、さっきから頭の中がなんかうるさいんだよ」
「知らない、て言ったら何もしないのかよ」
「それはもちろん、何かはするさ。…おッと」
先手必勝、この言葉に尽きる。
前に刺された時も、さっきいきなり後ろに現れたのも何かしらのスキルだ。それも【神の左目】で模倣できない類の固有スキル。
「速攻でいく、くらえ!!【竜閃】!」
ミカヅチさんの指導の下に手に入れた攻撃スキル【竜閃】。威力はあの魔物さえ斬ることのできるスキル。
何気に人に対して使うのは初めてだったが、殺してしまうかもしれないなどと考えている暇はなかった。
ーー大丈夫だ。この距離なら避けられない!!
「ほう、鋭く良いスキルだな。だがなっ!」
男は斬りかかってきた剣に対して、自らの短刀を少し触れさせるだけで軌道をずらした。
「勢いよく来た奴をずらしたら、そりゃ体勢がくずれるよなぁ!?」
「…ッ!【跳躍】!!」
「なんだ、お揃いのスキル持ってんじゃねえか!【跳躍】」
距離を取って体勢を立て直す時間すら与えてくれない。しかも、【跳躍】はアイツから視たスキルだ。オリジナルに勝てる道理などない。
「よっと。ほら一発だ」
「カハッ…」
すぐさま近くに寄ってきた男は拳を腹めがけて叩き込み、それをもろに食らってしまう。
「うーん、やっぱ勘違いだな。こんな簡単に殺れる奴が俺とあってるはずがねぇ」
「よそ見してるんじゃない!【竜閃・昇】…ッ!?」
右腕に痛みが走る。ミカヅチさんに教えてもらった【竜閃】のスキルたちには未だに体が耐えられない。だが、そんな事を気にしていて勝てる相手ではない事を知っている。
歯を食いしばり、痛みに耐える。
「ハァアアアア!!くらえぇ!」
「はぁ。だからなぁお前さん」
男は少し後ろに下がるだけで回避してしまった。
「足りねぇんだ、俺と殺りあうのに。たしかにスキルは素早く鋭い、食らっちまったら大けがするだろうさ。だけどな、狙っているところが明白で馬鹿正直に斬りかかってくる」
男はため息をつきながら、見下ろしてくる。間違いを犯した赤子に語り掛けるようにゆっくりと、
「経験が足りねぇんだ、単純に。つまりよぉ、身の程をわきまえろってこった」
男は短刀を手に持つとこちらに刃を向け、おもいっきり振り下ろ…
「ハヤト!!」
「フェ…リ…ス?」
いつの間に彼女は階段を降りてきたんだろうか。いいや、そんな事よりも
「なるほど、そういうことか」
合点がいったと言わんばかりの表情になったあの男から、フェリスを守らなければならない。




