15話 分かったこと
「すいません、この依頼なんですけど…」
あの魔物を倒した後街に帰り、依頼書に書かれていた場所に報告をしに行っていた。ギルドというには思ったより建物の規模は小さく、恐る恐る入ってみると受付嬢らしき人がいたので話しかけた次第で。
「ああ、ご協力ありがとうございます。それでは、提出をお願いします」
「実はその件なんですけど…」
実は、あの魔物に吹き飛ばされた際に何処かにいってしまったらしく、バックは見つかりはしたもののゴブリンの牙などは発見できなかった。日も暮れてきたという事もあって、捜索を途中で断念したのもあるのだが。
兎に角、受付嬢へと説明をしたが対応してくれるはずもなく、
「はぁ…、いいですかどの様な事情があろうとも依頼を受けるからには達成するのは絶対です。私たちもお遊びでギルドを経営しているのではなく、此処から脱出しようと必死になってギルドを経営しているのです。すいませんが、違約金というものが発生します、よろしいですね」
受付嬢から視なくても分かる様な失望の色が見て取れる。だけど、こちらもここで引くわけにもいかない。
「そこでなんですけど、コイツでどうですか?」
ドンッとカウンターの場所へと布に包まれたものを置く。
「なんですか、これ?……ッ!これは」
包まれたものをみた受付嬢の顔が驚愕へと変わっていく。
「ゴ、ゴブリンオーガ!?どこでこんなものを」
あの時、苦戦しつつも討伐した魔物の首がそこにはあった。
実の所、違約金の存在はミカヅチさんから聞いており、少しでも罰が緩くなるように持ってきたのがこいつであった。強さはゴブリンなんかと比べ物にならないし、受付嬢の反応を見る限り持ってきて正解だったようだ。
しかし、これは何というのだろうか。受付嬢からは失望の表情から驚き、喜びの表情に変わっている。
そう思っているとガシッと受付嬢に体を掴まれ、
「どうですか!?私たちのギルドに加入する気はありませんか!?」
先程の事務的な対応とは打って変わって、必死な様子でこちらに話しかけてくる。
「ん?なんだなんだ」「ゴブリンオーガだってよ!」「まじかよ、あんなのをやれる奴が外側にいるのかよ!?」
受付嬢の声にひかれるように、奥の方からガタイが良い人たちが次々と現れ、その場を囲み始める。
「あのー、ゴブリンオーガってアイツの事ですか?魔物には詳しくないもんで…」
「かー、兄ちゃん知らねえのか!知られねぇで狩ったんだったら大物だな、おい!」
「ゴブリンオーガというのはな、ゴブリンの超越種って言われる魔物でな。討伐するには上位の奴らが出ばることも珍しくないんだぜ!」
なにがなんだか分からないが、取りあえず依頼の失敗が無くなった雰囲気にはありがたい。さっさとこの場を去ろうとするが、周りの人たちがそれを許してくれない、
「どうだ、兄ちゃん!ウチのギルドに入らねぇか?あんたが居ればウチも上位ギルドの仲間入り間違いなしだしな」
「そうですよ、貴方がいれば百人力ですよ」
勧誘が受付嬢を始めとして、周りの人たちから熱心に勧誘される。どれもこれも、喜びの色が強い人たちだが、少し陰りが視えるのは気のせいだろうか。
「い、いや僕もう入るところは決めてるんで…」
「へー、何処なんですか」
「そ、それは…」
言い淀む。受付嬢は嘘なんかお見通しだと言わんばかりに問い詰めてくる。なぜ、ここまで熱心に勧誘をしてくるのだろうか。
退路を失ってしどろもどろになっていると、
「いやーその子はウチの子だからだめにゃ!」
突然何処からともなく、猫耳がはえた女性が後ろに立って、腕を掴んできた。
「と、いうわけでお前ら残念にゃね、さあさあ道を開けるにゃ」
ドヤァという表情をして周囲に言い放った後、腕を掴まれながらもギルドから出ることができ、人気のない路地に連れ込まれる。
「あの、助けてくれてありがとうございました」
「いいのいいの、困った時はお互い様にゃ」
親指を立て、こちらにグッとしてくる女性。
「君があそこに入るとき、なんか心配な感じしてにゃ。追ってきただけだから気にすんにゃ」
(優しい人だな…)
わざわざ目でを視なくても分かる。通りすがりに見ただけの人を心配してくれる人なんていない。
「それじゃ、私はもう帰るにゃ。ああ、それと、此処に来たばかりならギルドは早めに決めた方がいいにゃよ。何をするにしてもギルドが関わってくるからにゃ」
ギルドか。この世界についてあまり知らない中でもあのギルドは特に重要という事だろう。此処で、という事はミカヅチさんやフェリスもどこかしらに所属しているのだろうか。そもそも、ギルドは何種類も存在するという事だろうか。
疑問は尽きないが、一つ分かったことはある。
(猫耳か、あんな人も居るんだな)
少しずつだがこの世界に慣れつつあるという事を。