12話 おおげさ
少しの月明かりを浴びながら、縁側から空を見上げる。元の世界の夜空なんて知らないが、こんなものなのだろうか。傍らには先ほどミカヅチさんから貰い受けた剣が置いてある。
「どうしたんですか、こんなところで?」
声の方へと顔を向けると、フェリスが立っており横に座ってきた。
彼女はもともと此処の住人だったらしく、初めは戸惑いこそしたが一か月も女性との同居は慣れるものだった。
「ミカヅチさんに何か言われたんですか?先ほど部屋で話されていましたけど」
「実はさ、実戦経験を積むために魔物と明日戦ってこい、て言われたんだよ…」
「魔物と…そうですか。ハヤトにとって初めてになるかもしれませんが、大丈夫ですよ」
勇気づけるような言葉をかけてくれるが、それに対して僕は首を横に振った。
「今まで僕はさ、生き物を殺すなんて関係ない所で生きてきたから。いざとなったら不安で…」
「そう…ですか。優しんですね」
この世界に生きる人からすると不思議に思われるかもしれないが、元の世界でそういう事なんてした事が無いし、常識が違えど捨てられる価値観でもなかった。あの男と戦った時は焦っていたからかそんな疑問を持つ時間が無かったが今回は違う。自分の意志でやらなければならない、成り行きなどではなく。
彼女も不思議がっているだろうか、魔物は敵だと価値観が統一されているような世界で…、
「いいんじゃないですか?私は共感できますよ」
予想外の返答に耳を疑う。理解されるはずがないと思っていた。それとも僕がそう思っていただけなのだろうか。
ですが、と彼女は続ける。
「何処かで線引きは重要だと思います。諦めるべき所、ともいうのでしょうか。世界は私たちの都合よくものを運ばせるなんて事はないのですから」
まるで長年経験してきた者の凄みを彼女から感じる。彼女は僕が思っているより強く、そしてこの世界で生きている。
ーー線引きか…
最もな考えだと思う。生きるという事は諦める事の連続だが、いかに自分が引いた線を越えないか行動していくものでもある。
フェリスと話して心のモヤが少し晴れていくのを感じる。
「ありがとう、フェリス」
心からの本当の事を彼女へと伝える。それに対して屈託のない笑みを彼女は浮かべてくれる。
「どういたしまして」
夜は更け、そして明けていく。初めての戦いへと僕は赴いていく。