21話 天名
ペタペタと近づいてくる足音。自然と目線がそちらに行ってしまう。ただ静かに、音がする方向を見つめる。
「…子供?」
「いや、あれは…!」
暗闇から見えてくる一人のシルエット。それはとても幼く、それでいて既視感があるものだった。
それはロンロも同じだったのか、目を丸くして次の瞬間には駆け出していた。
「カヤ!」と叫びながら、
「私が発見した核とはどんな存在だと思うね?」
声は幼い女性そのもの。しかしその話し方、感じてしまう違和感。
「核とは魂、疑似的にもあの御方たちの隣に立てる程の種へと進化するものの布石…!」
「カヤ、何言ってるんだよ?帰ろう?兄ちゃんもう…」
違う、と確信する。声も視た気配もあの時と変わらない。けど、
「ロンロ、そいつは…!」
★
「僕たちの名前はね、親に決められるものじゃない。生まれた時すでについているものなのさ」
変化する魂の中で、ふと初めてあの御方とお会いした時の事を思い出す。
「僕たちが使える力は名前の通り、僕たちの名前はスキルの名前。それに、力を使いこなして、成長していく事で名前も変化していくんだ」
名前、そんなものはあっただろうか。もう思い出せるものでもないし、思い出した所でどうともならない。ただ、今は与えられた数字に満足している。
「名前は力だよ。自分にかけられた縛りでもあるけど、祝福でもある」
では、私がもし祝福を受ける事に成ったらどの様な名前を授けてくれるのだろうか。
「一つ、お願いしたい事があります」
その発言は勢いからか、興味からかは分からない。しかし、今を逃したらもう二度と機会は巡ってこないと思ったから。
「血を、貴方様の血を研究材料に加えさせてもらえないでしょうか!?」
「てめぇ!調子に乗るんじゃ…」
「理由を聞いてもいいかい?」
聞いてくれる。その事実だけでも呼吸を荒くさせてしまう。少しでも不快に思われたら殺されるかもしれない、だが
「私も…名をもらいたいと思いまして…」
静寂が辺りを支配するが、周りから突き刺さる様な視線だけは感じる。
カツンカツンと足音だけが近づいてくるのが顔を伏せている今ですら分かる。そして、足音が止む。おそらく今、目の前にいるのだろう。
「あげるよ、僕のなんかでよければね」
「「「!?」」」
声にならない驚きが周りであるのを肌で感じる。
「けど、条件がある。…必ず成功する事、血を提供するのは一回だけだ。それでいいかい?」
「…!!ありがとうございます!!」
必ずこの御方の期待に応えてみせる。それが今まで私の中にある変わらない想いだ。
……
「私は名を…授かった」
カヤ、いや目の前にいる何者かの手にはいつの間にか、くっきりとある数字が刻まれていた。
「“パペット”そう…それが私に授けられた祝福…!」