20話 適応者
「…行ってしまいましたか…」
閉じられたゲートに消えていったハヤトとロックスを想い、スリーはため息をつく。その顔にはミスを犯してしまったという後悔も無ければ、自分を出し抜いた者たちへの不快さも持ち合わせていない。
ただその顔にあるのは、事実だけを受け止めて現状を冷静に観察する表情だけだ。
「ボーっとしてないでこっちを見るの!」
「はぁ、これはまた面倒な状況に成っていしまいましたね…」
そうため息を交えつつも、死角から放たれたフォーの一撃を簡単にいなしていく。
普通ならばここの絶対的な強者は数的に勝るスリーのはずだ。しかし、スリーはさらにため息をついてしまいたいぐらいには追い詰められている。
「それが教会に伝わるスキル【信仰】ですか…」
「正確に言えば、その中でも【縛】という種類ですがね」
セブンから出ている光の何か、それは辺りにいたノーフェイスたちを拘束している。だからこそ、スリーが勝っていたはずの数的優位も今では失われてしまった。その事実がより一層、スリーの気分を害していく。だが、
「それが神への信仰の力だと言うなら、貴方たちは本当の神にお会いしたことないのですね…まったくもって残念な方たちです」
「信仰の力ではないですよ、そんなものは捨ててしまいましたから。これは、そう、私自身の力、ということにしていただけませんか?」
至って冷静、それはスリーだけではなく、他のものも同じだ。いくら不利になろうと、いくら有利になろうとやることは初めから変わっていない。だからこそ、
「私自身、全力でお客様のお相手を務めさせて頂きます」
スリーは今までとは違い、構える。それは何時ものように戯れではなく、本気で戦うために。それに呼応するようにトウも態勢を変え、フォーはセブンを守るように構える。
誰かが一歩踏み出せばそれは始まる、それは全員が分かっている。だが、次の瞬間起きたことはこの場にいる者たちにとって予想外の展開であった。
「アハ、アハハハハ!」
スリーが突如として嗤った。それも構えを解いて、その目からは溢れんばかりの涙を流して。
そんな隙を逃すわけが無く、トウとフォーは攻撃を仕掛ける。
「ウフ…」
突如として見せる嗤い声、それに気がおかしくなったと言わんばかりに見せた笑顔。
仕掛けた攻撃はスリーへと当たる、それも致命傷。そうして、壁に叩きつけられたスリーは糸が切れた人形の様に急に静かになる。
「気味が…悪いの…」
確かに致命傷を与えた感覚はフォーにもトウにも共通している。しかし、確実に仕留めたという自信だけは生まれていない。
「あぁ、さいこぅです。今宵新たな祝福がこの地に生まれました…!」
致命傷を与えて動かないはずだと思われていたスリーの腕が顔が、恍惚な表情に包まれて天へと掲げられる。まるで神を信仰する熱心な教徒のようなその姿からは、纏っていたメイド服が崩れてその下にある血流の様に真っ赤になった一筋の線が顔を覗かせる。
「私にも祝福を分けてくださる…。なんと慈悲深いお方…!」
適応化、それは核に見合う体を、生物に進化するという事。だがそれだけでは新たな種になったというだけで、本当に進化とはいえない。
しかし、昔存在した神から祝福を得られしエルフは進化といえる。今の生物たちからでは想像もつかない力を使うのだから。
それならばと、
「ご主人様は今や新たな種として進化成されました。一刻も早くお会いしたいところですが…。今は私目に与えられた役割を全うする事としましょう、人形として」