18話 迎えるはメイドの嗜み2
よく見ると分かる程の違和感。所々に膜状となっていたノーフェイスたちが視える。視る事に特化した自分が周りを視ていないかった油断、考えてばかりでロンロを行かせてしまった現実がのしかかってくる。
それに四方八方から顔を覗かせてくるノーフェイスたちに、目の前の女スリー。どれもが最悪の要素だ。
「ハヤト、入り口で使ったアレを出せるか?この際味方を巻き込むなんて言ってられん、時間は?あとどれぐらいで打てる?」
「正直…厳しいですね」
アレは入り口に居た一体を燃やすには適していると勝手に思って、【傲慢】で作り出したものだ。あれと完全に同じものは作れないが、それに近いものなら作り出せる。
だが、今は敵の数が多い。全てをやれる自信が無いわけでは無いが、この数を一度でやれるものを想像することが出来ない。
「手詰まり、という事で宜しいでしょうか?私の主は寛容ですので、私もそれに倣って少しの間なら待つことも厭わないのですが…そうですか、返答なしとは傷つきますが致し方ありませんね、それでは」
「とぉっ!」
「これは、手荒な真似は…おや?」
スリーがノーフェイスに指示を出そうとする直前、横から攻撃を受ける。それは難なく回避されはしたものの、結果的にはスリーをこちら側に近づける事が出来て、
「合わせろ!【石切り】」「【竜閃】!」
「【影なる君】…」
とった。確実にそう思う得る程にこちらの刃が敵の首をはねるはずだった。そのはずが、
「【影遊び】、影は誰にも傷つけられません。太陽という日の下で初めて消えていくのです」
「それはアイツの…」
忘れもしない。あの時の、フェリスを狙った男が使ってたスキルだ。だけどあれは【神の左目】で習得できなかった、つまりあれは固有や上位のスキルっていう事になる。そんなものを持っている者が簡単に居る訳がない。
「おや?これはフォー様ではありませんか。以前の会合でご挨拶出来ませんでしたね」
「ん?フォーは知らないよ?」
先程の奇襲。そこには鎌を携えてスリーと対峙するフォーが居た。
「あ!そうだ、ハヤト。よくもフォー達を置いて行ったの、追いつくの大変だったの!」
「ご、ごめん」
フォーの間の抜けた発言に毒気を抜かれてしまうが、状況は何も変わっていない。
「…そろそろ宜しいですか?退路がない、それに数の暴力でやられるのは見えていますよ?ここでお客様方は退場という運びで一つ…」
「ハヤトさん!」
そうスリーが言い切る前に聞きなれた声が聞こえる。
「ロンロ君の後を追ってください、今ならまだ間に合います」
「……!」
セブンさんに言われ、思い至る。スリーはカヤを連れていくときに使っていたものがあった。ロンロが姿を消した理由もそれだろう。それなら、
「無理ですよ、ゲートは既に閉じかけています。今更どうこうすることも出来ません」
「いいえ、貴方なら出来ますよ。私の友人の貴方なら」
ロンロが入っていた扉の中へと走る。さっきまで扉の前にいたスリーは既にそこには居ない。だからこそ、閉じかけているゲートであろうものも少しだが見える。
既に指が辛うじて入るぐらいの大きさになっている。閉じてしまうのも時間の問題だが、信じてくれている自分の事を。
「ハアァアァア!!」
空間を破るように、黒い点に指を差しこむ。そして、閉じかけているものをこじ開ける。
閉じかけていたものが開いたのを見て、初めてスリーの表情に焦りが出る。
「!?なぜ?【影ふ…」
「てやぁ!なんか分からないけど、こうするのが正解な気がするの」
「ノーフェイスの方々、お仕事ですよ!」
「やらせません。ロックス様、ここは私が抑えますのでどうか」
「分かった、後は頼むぞトウ!」
ゲートに入ろうとする後ろにロックス様が続く。
後ろは振り返らない。それも任せてくれたセブンさんへの信頼の証、任せられた者の責任。
「く…っ」
ゲートをくぐり、酔いにも似た感覚に襲われる。これをくぐったら何処に出るかは分からない。それでもロンロへと近づけるはず。だけど、何処か懐かしいこの感じが…。
「…い、おい!構えろ!」
「!ここは…」
「大当たりだ。目の前をよく見てみろ」
目の前には実験室の様な場所。そこに一人の男が片手にメスを持ち、こちらを呆然と見つめている。
それに男の前にある台には。
「ロンロ!!」