16話 襲撃2
「始まるぞ…」
ロックス様がそうつぶやくと同時に、目の前に下へと続く階段が現れる。
この階段こそが、カヤを助けるための近道。だが、心配もある。
「ロンロ、本当についてくるのか?」
「うん、カヤは苦しんでた。…それを兄ちゃんが助けないと」
「分かった」
危険だから、そう言っただけでは切り捨てられないロンロの覚悟。しかし、それだけでここに連れて来たわけでは無い。
今はこの場に居ないフェリスには猛反対されたが、仕方がない。カヤはもう助からない、その事実を教えるために連れていく。ただそれだけのために連れていく。
「一つだけ…あの約束だけは守ってくれロンロ。お願いだ」
「分かってるよ、ハヤト兄ちゃん。絶対に…泣かない」
酷な現実、それを見せるためだけにと我ながら最低だと思う。だがこれは、本人が望んだことだ。本人が覚悟して決めたことだ。
★
「妹が…カヤが助からないってどういうこと…」
敵の拠点の予想が立ち作戦会議が終わろうとしたころ、扉の前にはいつの間にかロンロが立っていた。
初めは誰かは分からなかったが、それも無理もない。ロンロの背は高く、髪も長くなっていた。まるでロンロだけが時間を早送りしたかのように。
「目覚めたか。驚くのも無理もない…ロンロ、お前は幾つだ?」
「みっつ」
指を立ててロックス様に答えるロンロ。
辺りが、特にフェリスが驚いていた。初めて会った日、それも昨日まででもとても3年しか生きていない者ではなかった。容姿や意思を伝える能力も。
「よくある現象だ。こいつらは違うものを混ぜられてる、容姿もそれ相応のものに変わる」
「そんな事よりも!!…カヤが助からないって、元には戻らないって」
★
容姿も意志も、年齢とは釣り合っていない。けども誰かを失うかもしれないという恐怖を感じる、それには年齢は関係ない。
「安心しろ、ロンロ。最初に突撃していった者の後ろからカヤを見つければいい。戦う必要はないし、ケガすらもさせない」
既に今立っている場所は階段の目の前。此処を降りれば引き返せないし、引き返す気すらない。ただ敵を、フェリスが生きていくこの国の膿を払うだけ。
一つ、一つ階段を降りていく。その後ろにはロックス様やフォー、それにリュウのギルドメンバーだっている。
エイのスキルは事前に聞いている。砕いて言えば、エイ自身が理解できる物質を作り変えるスキル。つまり階段の一番下にある白い壁、それは
「気づいてるか、ハヤト」
「分かっています」
後ろに居る者たちの中には、白い壁を見て戸惑いの声をあげている者もいる。
初めて見る者の方がこの中では多い。それは、【神の左目】を使っても視えないが、あっち側からの視線は肌で感じる。
「壁にノーフェイス共を使ってるとはな」
一つの大きな生き物。いや、あいつらにとっては玩具にも等しいのだろうか。
「【傲慢武具】…」
そんなものでは道を閉ざせない事を知らせるために。あんなことをもう起こさない為に。今考えうる最高のものを創造する。
「【赤龍の業】」
放たれた炎は辺りを焦がすことも熱することもなく、ただノーフェイスだけを燃やしていく。
「…始めましょう」




