10話 簡単とはいかない
「そういえばハヤト君、君は何かのスキルを持っているね?それ今から使用禁止ね」
「え!?は、はい…」
あの目の事を言っているのだろう。確かにスキルのことについて何も知らないが、指導してもらうなら視て学んだ方がいいのではないだろうか。
「すいません、何か理由はあるんですか?」
「そうさな、君簡単にスキルを覚えられるスキル持ってないかい?」
確かに、僕が考える限りこの目は視た相手のスキルを使えるようになる一面もある。ミカヅチさんはあの男が言っていたように何かに頼りすぎるなと伝えたいのだろうか。
そう思っているとミカヅチさんは真剣な面持ちで理由を更に話してくれる。
「稀にあるのだよ、そういう特別なスキルがね。確かにそういうものを使えば、効率的なのもそうだ。だがね、技術とは通常時間をかけて習得していくものじゃ。その時間を無視するという事はそれなりの弊害が出るもんなんじゃよ。君も体験したことが無いかね?例えば体が動かなくなるとか何か」
心当たりはある、あの男に掴まれた時。あの時は恐怖から来たものだと思っていた。だからとって、体の全てが少しも動かすことが出来なかった。
「時間がかけているという事は、スキルを体に合わせている時間も含まれている。じゃから、この世界には同じスキルが幾つもあるが、厳密に見ると全て微々たる所で違うのじゃよ。そんなスキルを簡単に習得しようとすると体に合わないものを自分に取り込んでしまう。最悪の場合、体が壊れる可能性だってあるのだよ」
衝撃を覚える。自分の中であの男との戦いは”初めてにしては”と思っていた節があったが、もしかしなくてもかなり危ない橋を渡っていたのかもしれない。
運よく体に限界が来た時にミカヅチさんが助けてくれたものの、その前に体が限界を迎えていたら…確実に死んでいた。
「その為にもまずは君に、壊れない為の体作りをしてもらうんじゃよ。分かったかね?」
「はい!」
ここでもまた、自分の甘い部分が知らず知らずのうちに出ていたのかもしれない。少しでも簡単に強くなれると。
そんな甘い考えをこの世界は許してくれない。だけど、この目は僕に不利益だけを押し付けてくるものではない事を知っている。
使い方さえ間違わなければ僕はミカヅチさんの下でどこまでも強くなれる、そんな気がしている。