微睡みの教室
雨の音は「しとしと」なのか「ザーザー」なのか。窓から見える雨を見てそんなことをふと考え、結局「まあ降る量によるのか」なんて有りきたりな結論に落ち着く。
お昼のあとの授業は殆どの人が微睡みと戦いながら、一生懸命に板書をノートに書き写している。かく言う私も、その例には漏れないのだが。逸れた意識を黒板へ戻す。ちょっとぼんやりしていただけなのに、もう板書が追いつけなくなってしまった。この先生は書く量が多いのに消すのが早いと生徒からあまり評判が良くない。
チャイムが鳴ると先生はピタリと動きを止め、「今日はここまで」と独り言のように告げるとさっさと教室から出ていってしまう。
教室はあっという間に騒がしくなる。先程までの静けさが嘘のようだ。
横に下がっているカバンを机の上にのせ、帰りの準備を始める。「帰りどこか寄ってく?」「部活一緒にいこーぜ」「やべ、傘忘れたわ」教室の中では様々な会話が飛び交っている。楽しそうに会話するクラスメイトを見ていると、自分だけが除け者にされたような惨めな気持ちになる。今急に私が大声をあげたなら、きっと皆は私を振り返るだろう。
そしたら今のこの何となく惨めな気持ちは無くなるのだろうか。
(馬鹿らしい……。)
そんなことをしても、気味悪がられるだけだ。逆の立場だったらそう思うんだから。そもそも、私は別に除け者にされているわけではない。ただ、授業が終わって真っ先に話しかけたい相手として誰も私を選ばなかっただけのこと。誰も私に興味を持っていない、それだけなのだ。
私は今の状態に不満を抱いているのだろうか。
家族と普通に会話ができて、学校ではいじめられることなく生活できて。こんなに恵まれた状況で私は何をこれ以上求めよう。私のようなどうしようもない人間が友人なんて贅沢な存在を求めることは、きっと罪悪だ。
キュッと、自分の腕を抓る。身分不相応な望みを抱いてしまった自分への断罪。
ふと、ザアァァと音が聞こえる。一度は弱まっていた雨がまた本降りになってきたのだろうか。
窓に目をやる。雨はたしかに降っているが、そんなに激しいものではない。
ザアアアアアアアア
イヤに近く感じる音に首を傾げる。
「HRはじめるぞーー」
気だるげな担任の声にハッと我に返る。長い間ぼーっとしてしまっていたようだ。雨の日はぼんやりすることが多くて嫌になる。
明日の諸連絡を聞きながら何気なくもう一度窓へと目をやる。
雨は降り止んでいた。