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妖精の果実  作者: 流民
第二章
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四話 勲章


 高台での防衛戦が終わって、五日後。セトの働きもあり、当初予定していた一週間を待たずしてA中隊の全機の整備は完了する。その間はフェアリー達にも大きな動きはなく、戦闘も偶発的な小規模なものばかりで、基地守備隊の出番しかなく天翔達が出なければならないようなものはなかった。それがようやくMFに搭乗する事が出来るようになった。それまでの地上勤務は、天翔には退屈なものでしかなく、早く空に上がりたい、その気持ちで毎日過ごしてきたが、ようやく訓練と哨戒も兼ねて天翔達は空に上がることになる。

 いつも通り、乗機の外観の点検を行い、コックピットに乗り込みハービーを立ち上げる。

『生態認証確認、パイロット天翔翼少尉……パイロット確認。天翔少尉と認識。こんにちは天翔少尉。ご機嫌はいかがですか?』

「ああ、上々だ。ハービー自己診断プログラムスタート」

『自己診断プログラム起動……ノーマル。スタート・ユア・エンジン』

 ハービーの声に天翔はエンジンをスタートさせる。いつものように心地よいエンジンの振動がコックピットに伝わる。その振動にやはり天翔は落ち着くようで、少しエンジンの振動に身を任せる。

『ウィング、こちら管制』

「こちらウィング」

『調子はどうだエース?』

「ああ、ご機嫌だ。ようやく空に上がれるからな」

『もう壊すんじゃねえぞ』

「フェアリーに言ってくれ。俺が壊したくて壊してるわけじゃないんだからな」

『違いねえ』

「状況は?」

『風は十五度から七マイル。天候は晴れ。今日も絶好のピクニック日和だ』

「そのようだな」

『今からセラフィムが上がる、その後がお前らドミニオンズだ』

「ウィルコ」

 管制の言葉に滑走路を見る。セラフィム小隊のニ番機が滑走を始め、そのまま晴天の空へ上がっていく。

『ウィング、ニ番滑走路への侵入を許可する』

「ウィルコ」

 管制の言葉に従い機体をニ番滑走路へ移動させる。目の前にはドミニオンズのニ番機が離陸を始めようとしている。そして、その後すぐに滑走を始め、空に上がっていく。そして天翔が滑走位置に入る。

『ウィング、離陸を許可する。グッドラック』

「サンクス」

 管制の言葉に天翔は滑走を開始し、滑る様に空に上がる。これから何時間化は空の上で過ごせる事に天翔の心は少し踊った。五日間空に全く空に上がることも出来ず、地上勤務をしていた鬱憤を晴らすかのように、滑走を始め、車輪が宙に浮くと、そのまま急上昇しながら三回ロールをして、セラフィム小隊の背後に付くオークの後方に着ける。

『ご機嫌だなウィング』

 オークの言葉に「そうですね」と、軽く返事を返す天翔。

『今日は慣らしだ、あんまり無茶するなよ』

「ウィルコ」

 そうしている間にも、少なくなったがA中隊の面々が空に上がってくる。まだ病院で過ごしている者たちもいる為、中隊の半数しか今回の任務には参加できていない。数にしておよそ二個小隊分。その中でも一番被害の多かったヴァーチュース小隊のイサクの小隊はイサクの一機しか上がってきていなかった。

 セラフィム小隊三機、ドミニオンズ小隊二機、ヴァーチュース小隊一機、スローンズ小隊三機。定数の半分程度の戦力しか今は無く、補充もまだ間に合っていない状態だ。もちろん、ダビデがもともとの所属である人事と兵站部のつてを使ってかき集めているだろうが、それでも惑星連合との戦争が激化している中、思うようにはいかないような状態のようだ。

 それでもA中隊はあの激戦の中で良く半分も残ったといえる。他の中隊は定数の半分も揃えられないような状態の中隊もあるような状況だ。

『全員上がったようだな。ブリーフィングでも言ったように、これから前回我々が襲撃を受けた地点を重点的に偵察を行い、その後訓練を行う。久しぶりの飛行だ、全員気を抜くなよ』

 メシアの言葉が通信を通じて全員にかけられる。その後メシアから個人通信が天翔に入る。

『ウィング』

「なんでしょうか少佐?」

『帰ったら私の執務室に来るように。話がある』

「ウィルコ」

 おそらくプライベートな事では無い事は分かる。しかし、それが何なのかは分からない。何か最近怒らせるようなことをしただろうか? と思い浮かべるが、考えているうちに前回の襲撃を受けた地点までたどり着く。まだ前回の戦闘での生々しい爆発の跡や、MFの部品であろう物が転がっている。そこからさらに撤退していったであろう方向へ中隊は飛行したが、フェアリーのネストのような物は見つけられず、そのままB-基地の方に帰還していく事になる。そして、一通りの訓練を行い、基地に帰還するA中隊。機体がすべてハンガーの中に入っていき、それぞれの機体に整備兵が取りつく。天翔もキャノピーを開け、タラップを使い機体から降りると、そこには整備兵のミリアムが立っている。

「お帰りなさい」

「ああ、ありがとう」

「あ、あの」

「どうかしたのか?」

「このたび天翔少尉の機体の機付整備員になりました! 一生懸命頑張りますので、よろしくお願いいたします!」

「そ、そうか。よろしく頼む」

 そう言って天翔はミリアムに手を差し伸べると、なぜか真っ赤な顔をして俯きながらその手を握り返すミリアム。手を離して、ちらりとセトの方を向くと、セトは天翔の方を見て親指を立てる。おそらくセトがこの事を決めたのだろう。まだ若い女の子ではあるが、セトが自信をもって送り出したのだろうから、かなりの腕はあるのだろう。それに安心して、天翔は更衣室に向かい、常装に着替えると、メシアの執務室に向かう。

 メシアの執務室は司令官室がある部屋と同じフロアーで、司令官室の並びにある。おそらく中隊指揮官、大隊指揮官などの部屋はこの辺りに置かれているのだろう。どの部屋も重厚な鉄製の扉でできており、メシアの部屋もその例から漏れることは無く、扉の横にA中隊中隊長室と書かれたプレートが取り付けられている。その鉄製の扉をノックすると、中からメシアの声が聞こえ、扉を開けて部屋の中に入り敬礼をする。

「楽にしろ」

 その言葉で天翔は敬礼を解き、メシアの机の前に歩み寄る。

「すまんな忙しい所」

「いえ、構いません。ところで、お話とは?」

「ああ、お前に申請していた勲章が届いた。めんどくさい話ではあるが、受賞のセレモニーが細やかながら行われることになる。この星が軍事機密になるので、マスコミが来ることは無いが、軍はお前の事を英雄扱いしたいようだ。それと、その功績からお前は本日付で中尉への昇進が決まった。それに伴って配置換えも行うことになる」

 突然のいろいろな事に少し混乱する天翔。

「私が中尉ですか? まだ来たばかりのルーキーが?」

「ああ、そうだ。期待されているようだぞ天翔」

「はあ、それで配置換えの件は?」

「ああ、それはほかの中隊に行くかも知れなかったが、私の権限で止めた。その……離れたくないからな」

 最後の方は言葉が小さくなるメシア。その言葉に少し口元を緩ませる天翔。

「光栄です。それで、実際にはどうなるのですか?」

「ああ、正式な発表は後日になるが、お前にはヴァーチュース小隊の分隊長を任せたい」

「私が分隊長ですか?」

「ああ、お前ならやれるだろう?」

「謹んで拝命いたします」

「よろしい。では、授賞式はこの後一時間後に行われる。礼装を着て一時間後に会議室に出頭せよ。遅刻するなよ?」

「イエッサー」

 敬礼して部屋を出ようとすると、メシアに呼び止められる。

「これは私からのお祝いだ」

 メシアはそう言うと天翔にキスをする。

「勤務中はそういう事はしないのでは?」

「ん、まあ今日は特別だ」

「わかりました。では」

 そう言うと天翔はメシアを抱きしめてキスをすると、敬礼をした後、部屋を出る。

 そして、授賞式も滞りなく終わり、またA中隊全員にお祝いに連れ出されることになる。


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