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妖精の果実  作者: 流民
第一章
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四話 送りオオカミ

 フェアリーの撤退の後を追い続けるスローンズ小隊。補給を受けてから約一時間の時間が過ぎようとしていた頃ようやくA中隊がスローンズ小隊に合流する事になる。

『待たせたなクレナイ』

『ほんとに、もう待ちくたびれたわよ』

『で、状況は?』

『森の中を四五度の方角へ進行中。それほど速い速度ではないわね。スピードで言ったら約一〇ノットと言ったところかしら』

『ふむ……』

 本来であればフェアリーはその大きさから、全速で移動すれば三〇ノット前後のスピードで移動することが出来る。そのスピードにメシアは少し違和感を覚えた。このスピードでの移動で考えれば、おそらく歩いているのとそれほど変わらないスピードでの移動と考えられる。警戒しているにしても少し遅いスピードと言ってもいいだろう。まるで後を追ってこいと言わんばかりのスピード。しかも隊を分けることなく、全員で同じ方向に進む。そのまったく偽装されていない逃走には警戒心しかなかった。

『どうします?』

 アンデレがそうメシアに問いかけたその時、地上の、今までまったくレーダーに反応もなかった所から急接近する物体をレーダーがとらえる。

『いかん、全機ブレイク!』

 下方からのフェアリーの攻撃。おそらく弓矢にオリジンアップルを付けた弓矢での攻撃だろう。それが無数にA中隊目がけて対空砲火を行ってくる。

 それを交わすべくA中隊全機は高度を上げようとするが、それを遮るかのようにA中隊上部への弓の攻撃を続けており、その弓矢の中を突っ切ることは自殺行為に等しかった。

『くそ、回避は難しいか……。仕方ない、クレナイ!』

『イエッサー』

『貴様は援軍を連れてここまで戻ってこい! その間私達はフェアリーを地上戦で迎え撃つ。良いな? 貴様の方に私達の命を預ける!』

『ウィルコ』

『よし、スローンズ小隊を除く全小隊は地上戦に入る! オーク、全弾地上へぶち込め! その後我々はスローンズ小隊の退路を確保するため地上戦に移行する!』

 全員の了解の意をメシアはディスプレイで確認する。

『よし、オークやれ!』

『小隊、ハービーの管制に従って対地ミサイル全弾発射! フォックス・スリー!』

 アンデレの合図と同時にハービーに管制されたモール対地ミサイルは一斉に火を噴き、ウェポンベイから蜘蛛の糸を引くかのように白い煙をその進路の後に残しながら猛スピードでフェアリー目がけて進んでいく。そして、発射の一瞬後無数の爆発が森の中で発生する。しかし、それでも、オリジンアップル付きの矢の量は少し衰えたくらいで、全機が離脱するほどの隙は作れない。しかし、それでもスローンズ小隊が分散して退却するくらいのスペースは何とか作り上げることに成功し、その隙をついてエリサベト率いるスローンズ小隊はその矢の弾幕の中をかいくぐり、脱出を試みる。しかし、小隊内の一機に弓矢が被弾し、脱出する間もなく、対消滅反応を起こし消滅する。しかし、何とか三機は弾幕を掻い潜り高度を上げることに成功し、B-1基地への方向に退避する事に成功する。そして、退避を確認したメシアは中隊員全員に通信を送る。

『中隊全機、アームド形態へ! 地上戦に突入する、続け!』

 メシアはその言葉を発するとほぼ同時にまだ矢の弾幕がそれほど衰えていない中を降下を開始、降下しながら周辺地形を確認する。そして、少し開かれた高台を見つけ、そこを防衛戦にすることを各小隊にハービーを通じてデータを送る。そして、その地点にランダムに回避を続けながら降下する。しかし、それでも圧倒的な弾幕の前に何機かの損害を出しつつ、ようやく地上に降り立つことが出来る。

 そしてアームド形態に変形した中隊は高台を防衛するために方陣を組むかのように散開し、高台の淵に移動し、フェアリーを迎え撃つ準備を行うが、その隙を縫って降下したA中隊に襲い掛かるフェアリー。

『全機、オールウェポンズフリー! 目の前のフェアリーに打ちまくれ! ファイヤー!』

 メシアの命令を即座に実行し、今にも高台に取りつかれそうになっていたフェアリーを順にビーム砲は打ち抜き、何とか防衛線を構築する事に成功する。

 しかし、それでも後からどんどんと押し寄せてくるフェアリー。

『くそ! 打って打っても後から後から湧いてきやがる!』

 アンデレの悲鳴とも愚痴とももつかないような声がヘルメットの中に響く。

『口を動かす暇が有ったら目の前の敵を打て! 少なくとも一時間は持ちこたえる必要がある! とにかく目の前の敵を打て!』

『解ってますよ!』

 メシアの声に何とか反応するアンデレ。しかし、フェアリーの攻撃は衰えることを知らず、A中隊が陣取っている高台にもいくつかの矢が着弾し、その度に、オリジンアップルが対消滅を起こし、地形を少しづつ変えていく。

『このままじゃ埒が明かんな……』

 しかし、それでも撃つ手を止めることは出来ずに目の前に迫りくるフェアリーに照準を合わせ射撃の手は緩めない。

 先ほどの一時帰還の時に燃料とある程度の弾薬は補給は出来たが、それでも時間が無かったためにそれほどの余裕はない。しかし、それでも今は目の前の敵を近づけないように打ちまくるしかない。

 しかし、今まで支えてきた前線に穴が開いてしまう。メシアの背後を守っていたヴァーチュース小隊の一機がオリジンアップルの対消滅の至近弾を受け、戦闘不能に陥る。パイロットは何とか脱出し、すぐに隣のMFに収容されたが、それでもその穴を埋めるために各小隊はその穴を埋めるために戦線を広げるしか手が無く、広げた戦線のせいで正面戦力が少し手薄になる。そして、弾幕が薄くなった隙にさらに前進を進めるフェアリー。その薄くなった前線を支えようとマルコが前進し、突出するフェアリーに弾幕を張るが、前に出すぎ、上半身を高台からさらけ出したマルコに、フェアリーの矢が当たる。その瞬間対消滅のエネルギーがマルコの機体を包み、その姿を一瞬にして蒸発させる。

『スネイク!』 

 アンデレの叫びは通信で中隊全体に響くが、それを気にしている暇などどこにもなく、目の前の敵に集中するしかない。

『全隊後退。戦線を下げる。高台の中央まで下がって高台を上ってくるフェアリーの頭を叩く! 合図をしたら手持ちのグレネードをフェアリー達に投げつけろ!』

 メシアは薄くなった戦線を全体に下げることで、点を線に改めて繋ぎ直し戦線を補おうとする。中央部は対消滅でへこんだ穴が無数にできており、それを即席のタコツボにして、何とか戦線を維持しようと試みる。

 前線を押し上げる為に押し寄せるフェアリーに一瞬の空白の時間が出来る。その瞬間にメシアが中隊に命令する。

『いまだ、グレネード!』

 グレネードを持つ中隊員全員がグレネードをフェアリー目がけて投げつける。そして、その爆炎を利用して一気に前線下げ、中隊全体が後方に下がり、迎撃態勢を整える。そして爆炎が収まってすぐにフェアリーは高台に顔を見せ始め、頭が見えたところですぐにA中隊全体が射撃を再開する。

『撃て! フェアリーを近づかせるな』

 A中隊の各員から一斉に光弾がフェアリー目がけて撃ち放たれ、それがフェアリーの装甲の無い頭の部分を撃ち抜く。これにはフェアリーも一瞬たじろぎ、その前進を止め、様子を伺う。  

戦闘が始まってそろそろ一時間経過しようとしている。

「まだ援軍は来ないのか……」

 天翔は一人呟く。もうそろそろ中隊の全員が限界を感じている。隊全体が連戦で疲れている。もちろん天翔の疲れもピークを過ぎている。正直これ以上持たせることはかなりつらい。それに、マルコの戦死も、皆表には出さないが、暗い影を落としていることは間違いなかった。

 どれくらいの時間が経ったのか、天翔が時計を確認する。戦闘が始まって、もうそろそろ一時間が経過しようとしている。早ければそろそろ援軍が到着するはず。そう考えたときまたフェアリーが前進を開始する。

『来たぞ! ここを乗り切ればもうすぐ援軍も到着するはずだ、各員の奮闘に期待する!』

 メシアが通信で全員を鼓舞するが、それにどれほどの効果があるかは分からないが、それでも隊員は援軍が到着するであろう事に少しでも、この絶望的な戦いに希望を見出そうとしている。

「くそ!」

 天翔が愚痴ともつかぬ言葉を漏らしながらも、目の前に迫りくるフェアリーを効率よく打倒していく。もう戦闘が始まってどれくらいのフェアリーを撃ち抜いたかはもうわからない。しかし、それでも目の前に迫る来るフェアリーを打ち続ける。

『ハービー、中隊の状況を教えろ』

 メシアは射撃の手を緩めることなくハービーに問いかける。中性的な声はあくまでも冷静に答える。

『了解……セラフィム小隊……コーション、ドミニオンズ小隊……コーション、ヴァーチュース小隊……デンジャー』

 全体的に燃料と残弾数が無くなりつつある。小隊長のマルコを失っているヴァーチュース小隊に関してはもうかなり状況的には危険な状態だ。これ以上持たせることはもうかなり難しいだろう。

その状況で最後の賭けに出るかを少し考えるメシア。そして、何とか生き残れる可能性のある選択を選ぶメシア。

『メシアから中隊全員に通達。このままでは全滅は免れないだろう。援軍はもうそろそろ到着するだろうが、それまで戦線を維持できるかどうかも分からない。そこで、中央突破を試みる。おそらく今が最後のチャンスになるだろう。全員生きて基地で会おう! よし、全員私に続け!』

 メシアはそう言うと、今まで機体を隠していた場所から飛び出そうとしたその次の瞬間、通信が入る。

『こちら、スローンズ小隊クレナイ、隊長聞こえますか?』

『クレナイ⁉ ようやく戻ってこれたか。遅いぞ!』

『遅れてすいません。準備に時間がかかって。とにかく援軍を連れてきました』

『ようメイス、ずいぶん苦戦しているようだな? 騎兵隊の到着だ』

 援軍に駆けつけたD中隊の隊長から通信が入る。

『いや、それほどでもない。あまりにも退屈で昼寝でもしようとしていたところだ』

『ははは、そうか。じゃあ、帰ろうか?』

『いや、せっかく来たんだ。スコアを伸ばしていったらどうだ?』

『じゃあ、そうさせてもらおう。中隊、下方のフェアリーに対して攻撃を行う。A中隊にあてるんじゃないぞ? よし、フォックス・スリー!』

 D中隊全体から空対地ミサイルが放たれ、それが高台の周りにいるフェアリー達に吸い込まれるように命中する。そして、その攻撃を受けたフェアリー達は援軍の到着を知り、これ以上の戦闘は不可能と見たのか、全体的に後退を始める。

『中隊、打ち方やめ。フェアリーの後退を確認。これより警戒態勢に移行する。深追いはするなよ?』

 何とか生き延びたA中隊の隊員全員は、まだ生き残ったという実感がわかない状態で、その場で呆然としている。そんな状態の中隊に迎えのCH-03が舞い降りてくる。最後の気力を振り絞り、警戒をしながら全員がCH-03に乗り込むとすぐにCH-03は飛び立つ。戦闘を始めて一時間、中隊員はようやく落ち着くことが出来、その安堵からかほとんど全員がコックピットの中で眠ってしまう。ヘリは傾きかけたオレンジ色の日の光を浴びながらB-1基地へと進路をとる。


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