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妖精の果実  作者: 流民
第一章
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三話 エンジェル降臨

『こちらメイス、クレナイ状況はどうだ?』

 先行している強硬偵察型のMF-03スカウトに搭乗しているエリサベトに通信を送るメシア。

『かなりの数のフェアリーが最終防衛ラインに取りついてる。担当区域のC中隊はかなりまずい状況ね』

 A中隊のメシア以外の女性パイロットエリサベトの、どこか艶めかしい声がヘルメットのヘッドフォンを通じて耳を心地よく刺激する。

『あ、また一機やられた……。もうそろそろやばいかもね』

『エンジェル中隊全機、聞いた通りだ。戦況はかなり押されている。特に我々の配置される地点はかなり押されている模様だ。我々の手でフェアリーどもを押し返す。良いな?』

『イエッサー』

 A中隊のそれぞれが答えると、もう目の前には戦場の光が見えてきていた。

『オーク、小隊を率いて上空から空爆を行え、その後スネイクと我が小隊はアームドに変形し地上戦を行う。クレナイは上空にて警戒と援護、良いな?』

『ウィルコ』

『よし、帰ったら本当の歓迎会を行うぞ。一杯目は私の奢りだ。生きてまた会おう。グッドラック』

 メシアのその言葉を最後に各小隊長が指示を出していく。天翔の所属するドミニオンズ小隊はアンデレが通信を通じてドミニオンズ小隊に命令を下す。

『小隊、ハービーの指示に従って目標への空爆を行う。MF-02デストロイは空対地ミサイル全弾発射。出し惜しみは無しだ! どうせ地上戦になれば使えない。MF-01アタッカーはミサイルは温存しておけ、地上戦でまだ使用の可能性は十分にあるからな。ただグレネードをお見舞いしてやれ! それと、ウィング』

 アンデレの突然の呼びかけに天翔は少し驚く。

「なんでしょう?」

『お前は初陣だ、無理せず上空待機でもいいぞ?』

 アンデレの言葉に天翔は少し鼻で笑う。

「問題ありません。何時かは戦う時が来ます。遅いか早いかだけの問題です」

『そうか、分かった。無理はするなよ。お前は生意気な奴だが、腕が確かなのは認める。だからこんな所で死ぬんじゃないぞ』

「ウィルコ」

『よし! いっちょやるぞ! 気合い入れていけ』

『オーク、空爆開始しろ!』

 メシアの最速の通信が入る。

『イエッサー。全機、フォックス・スリー! フォックス・スリー!』

 アンデレの言葉と同時にドミニオンズ小隊のMF-02天翔を除く三機は両方の脚部と肩の部分に取り付けられたウェポンベイを開き、その中から無数の空対地短距離ミサイル【モール】を全弾発射する。その全弾がハービーの管制により、一発一発すべてが別々の目標に飛来していく。そして地上で無数の爆発が起こり、大木がいくつかその爆発に耐えられずにゆっくりと傾いていき、山火事が発生している。その少し開かれた所にはいくつかの巨大な人型の物体が倒れている。

『何匹かはやれたみたいだな』

 その戦果を確認したメシアはすぐさま麾下の小隊と、マルコの小隊に命令を下す。

『よし、セラフィムとヴァーチュースはこれよりアームド形態になって地上戦を開始する! 遅れるなよ』

 そう言うとメシアの機体に続いて各機が高度を下げていく。そして地上すれすれの所でアームド形態に変形し、すぐに散開して行く。

『クレナイ、フェアリーの状況知らせ!』

『フェアリーは一旦防衛線を下げ、集結しつつあり! しかし、未だ集結は出来ておらず! 繰り返す、現状は未集結』

『よし、これより突撃し、集結しつつあるフェアリーを再度散らせる。その後各個撃破を行う!』

 メシアの言葉に全員が了解のサインを送り、すぐさまその命令は実行される。

『オーク』

『イエッサー』

『お前の小隊は我が方の一〇〇メートル後方に付き援護しろ』

『ウィルコ。聞いた通りだ、野郎ども地上戦だ、使い果たしたミサイルポッドをドロップして地上戦へ移行する! いいな?』

 アンデレの命令はすぐさま実行に移され、変形に邪魔な脚部のミサイルポッドを切り捨て、降下を開始する。そして、地表ぎりぎりの所でアームド形態に変形し、命令通りの位置へつける。

『各機全周警戒、クレナイが警戒はしてくれてはいるが見落としの可能性もある。十分に気を付けろ!』

 アンデレの言葉に、飛び交う通信の奥でクレナイらしき声で『失礼ね!』という言葉が聞こえる。

『ウィング』

「はい?」

『フェアリーは反物質を使った攻撃をしてくる。当たったら一発で終わりだ、流れ弾にも気を付けろ! とにかく今は俺達の足手まといにならないように後方から着いて来い。良いな』

「しかし――」

『これは命令だ! まだお前には早い!』

「了解……」

『よし、小隊前進』


 天翔達が前進しているその間にも、メシアたちは前線で戦闘を繰り広げている。

『スネイク! 左へ回り込んで敵の攻撃を引き付けろ!』

『了解、野郎ども俺に続け!』

 マルコの言葉に小隊が左へ動き出すが、その動きを阻止するかのようにフェアリーの二つのオリジンアップル付きの弓矢で牽制してくる。その弓矢が地上に刺さり、二つのオリジンアップルが反応し、反物質が対消滅を起こし地表に小さなクレーターを作る。その爆発から何とか逃れたヴァーチュース小隊だが、被害は被っており、小隊の内の二機が行動に不具合を生じさせる。そこを狙ったフェアリーがさらに追い打ちの弓矢を放ち、それが一機のMFの機体中央に命中すると、すぐさまオリジンアップルは対消滅を起こし、機体もろとも爆発してその姿を消しさり、後には何も残らなかった。

 その光景を後方から見ている天翔は、知らず知らずのうちに操縦桿を握る手に汗を掻き、喉はカラカラに乾き、呼吸が荒くなっていく。

『天翔少尉、バイタルに変化が認められます。後方へ下がることを推奨します』

 遠くでハービーの言葉が聞こえるが、それに返事を返す余裕など今の天翔には無く。ただその光景を眺める事しかできなかった。

 そして、その対消滅した機体の穴を埋める為、メシアからの通信が入る。

『オーク、貴様の小隊を前進させてスネイクの小隊の穴を埋めろ! 急げ』

『ウィルコ』

 アンデレは短く返事を返し、すぐさま麾下の小隊に通信を送る。

『よし、小隊前進!』

 その言葉の後、個別通信に切り替えアンデレは天翔に話しかける。

『ウィング、大丈夫か?』

「は? え、あぁ、大丈夫です……問題ありません!」

 一瞬返事が遅れたが、精一杯の強がりで天翔は答える。

『解った、無理はするなよ』

「ウィルコ」

『小隊前進する! 俺に続け』

 アンデレの言葉にドミニオンズ小隊全員が動き出す。その行動は迅速で、すぐさまヴァーチュース小隊の空いた穴をふさいだ。しかし、そこにすぐさまフェアリーの弓矢が着弾し、それが連鎖的に爆発する。目の前の爆発のすさまじい閃光に天翔は思わず目を閉じてしまい、一瞬動きが止まる。その隙を狙って、フェアリーの一体が突撃してくる。そして、天翔が気が付いた時には目の前にすでに一体のフェアリーが立っていた。

 一瞬の後目の前に現れた天翔の時間は止まる。今、目の前に青緑の肌をして、金色の【オリハルコン】と呼ばれる、MFの装甲部分にも使われる、きわめて対弾性に優れた、シェフィールドで多く産出される金属を使った胴当てを装着した十メートルくらいの身長のフェアリーが、今にも手に持った剣のような物を振り下ろそうと構えている。

『ウイング、避けろ!』

 どこからか聞こえたその言葉に天翔は一瞬で我に返り、バーナーを吹かして二十メートルほど後退する。そして目の前のフェアリーに銃口を向け、発砲する。一筋の閃光がフェアリーに吸い込まれるが、そのビームはフェアリーのオリハルコン製の胴当てに吸い込まれ、少しよろけただけで再度全身を開始し天翔に襲い掛かってくる。

「うわーーーー!」

 天翔は叫びながら銃を乱射し、そのほとんどが的外れな方向に飛んでいくが、天翔から数メートル先でようやくフェアリーのむき出しの頭部に命中し、緑色の液体を頭部から噴きだしながら倒れこむ。

「はぁはぁはぁはぁ……」

 呼吸を荒くし、目の前に倒れこんだフェアリーを見つめる天翔。

『ウィング大丈夫か?』

 ヘルメットのヘッドフォンから女性の声が聞こえるが、その声にしばらくは返事も出来なかったが、何度目かの呼びかけにようやく返事を返す。

『問題ありません……』

『……解った。無理するなよ』

 今の言葉が誰からかけられたのかさえ、その時の天翔には理解することも出来ず、ただ茫然と少しの間過ごす事しかできなかった。

 しかしまだ戦闘は続いており、目の前の状況はそれほど変わってはいない。A中隊は襲い来るファアリーに対して、攻撃を加えており、確実にフェアリーへの損害は増えていく。しかし、それと同じようにA中隊の隊員にも損害が発生しているが、何とか状況は持ちこたえてはいる。天翔も何とか気を取り直し、襲い来るフェアリーに向かって、銃口を向け、引き金を引き続ける。何度か目の前で対消滅の閃光が起こるが、最初ほどの衝撃もなく、徐々に慣れてきていることが天翔自身にも解ってきた。そして、天翔自身何体目かのフェアリーを撃退した後、徐々にフェアリー達の攻勢が弱まっていく事に気が付く。それをA中隊全員が感じ始めたとき、通信が入る。

『A中隊打ち方やめ。警戒態勢に移行』

 メシアの声がヘッドフォンを通して聞こえる。損害は出たようだが、何とか基地の防衛に成功したことに、A中隊の面々はどこかほっとした様に軽口をたたいている。しかし、そこに突然の通信が飛び込む。

『A中隊聞こえるか?』

『こちらA中隊、聞こえる』

 その声にメシアが答える。

『こちらはダビデだ、A中隊は直ちに帰還し、補給を受けろ。今そちらにCH-03メルキゼデクを回している。それに中隊を乗せ、補給後すぐにフェアリー達の後を追ってくれ』

『ちょっと待ちな。今戦闘が終わったばかりだ。兵達も疲れている。再出撃には応じかねる』

 メシアは司令官に対し強気で発言するが、それでもダビデは強引に話を進める。

『フェアリー達のネストを発見するには良い機会だ。それに今まともに動ける中隊はA中隊以外にない、これは命令だ』

『まったく……了解。A中隊は補給後すぐに追撃を開始する』

 メシアの言葉に中隊員からはため息が聞こえるが、もうすでにCH-03のローター音が聞こえだす。MFは滑走路が無ければ空を飛ぶことは出来ず、特殊な装備が無ければアームド形態になってしまうと基本的には空に再び上がることは出来ない。その為、輸送ヘリが必要で、輸送ヘリで一度基地に戻りそこから再度飛行形態に戻り空へ飛びあがる必要がある。

『よし、全員お迎えが来たぞ。速やかに搭乗し、基地へ急ぐ。それとクレナイ』

『どうしたのー?』

 少しとぼけたような返事を返すクレナイ。

『言わなくても分かっているとは思うが?』

『はぁ……』と、少しため息を吐くエリサベト。そのため息でさえも少し色っぽく聞こえる。

『はいはい、分かってますよ』

『燃料は持つか?』

『取りあえず中隊が戻ってくるまでは問題ないと思う。でも、できれば空中給油機を飛ばしてもらいたいわね』

『解った、手配させよう』

『隊長、全員乗機完了しました』

 アンデレの言葉が聞こえる。

『よし、すぐに基地へ戻り補給を行って再度出撃する。今のうちに休憩と飯を食べておけ!』

 メシアはそう言うと、自らもCH-03に乗り込み、それを確認するとすぐにヘリは離陸する。

 飛び去るCH-03を見送るクレナイ。

『さて、私達は送りオオカミをするわよ。ハービー、小隊の燃料と残弾をチェック』

『了解……一番機……ノーマル、ニ番機……ノーマル、三番機……コーション、四番機……ノーマル』

『三番機はどれくらい持ちそう?』

『巡航速度でおよそ一時間の飛行が可能』

『少し心もとないわね……』

 クレナイがそう呟いた時にハービーがレーダーに映る機影を発見する。

『レーダーに機影』

『何?』

『IFF確認。フレンドリー、KC-25ビッグマム』

『もう来たの? さすが隊長ね。全機、これより給油を行う、高度一万フィートに上昇。三番機より順に空中給油を行う。急げ』

『ウィルコ』

 全員の返事を聞くとすぐに上昇を開始し、空中給油機兼輸送機であるKC-25ビッグマムに合流する。ビッグマムの翼からは、二本の給油用のホースがぶら下がっており、それに三番機と四番機が接続し、給油を始める。その間ほかの二機は地上の警戒を行い、フェアリーからの攻撃に備える。もっとも、フェアリーの攻撃は一万フィートまでは届くことは無いので、そこまで気にすることは無いが、それでも警戒を怠ることは無い。

 三番機、四番機の給油は一〇分ほどで完了し、続いて一番機ニ番機が給油を行う。それもほどなく完了し、少しずつ離れていくKC-25を見送ると、クレナイはまた撤退するフェアリーの後を追うために、高度を偵察と攻撃がかわせるギリギリの高度、四〇〇〇フィートまで落とし、フェアリー移動方向を確認する。

『はあ……早く隊長たち来ないかな~』

 独り言をつぶやくクレナイ。まだ少しの間クレナイの小隊はフェアリーの後を追い続けることになる。

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