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妖精の果実  作者: 流民
第三章
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四話 ベース・ゼロ復旧


 ベース・ゼロでの復旧作業を、結局休暇もなく行うA中隊。その間にも散発的にフェアリー達が攻撃を仕掛けてきており、それに対応するベース・ゼロの基地守備隊。その度に基地は被害を受け、基地の復旧は思うように進まない。A中隊にも迎撃命令が出されることもしばしばあり、それほどベース・ゼロの戦力は低下していることが伺えた。

『まったく……、隊長』

『なんだノーム?』

『俺たちの休暇はどうなるんですかね?』

『そんなことはフェアリーに聞いみるんだな』

『はぁ~……こんなことなら、B-1基地いたほうがまだよかったですな』

 イサクはぼやきながらも、目の前のフェアリーを撃ち抜く。襲撃は小規模で、A中隊だけでもなんとか対応できるほどの物だ。しかし、オリジンアップル付きの弓矢はA中隊の頭上を飛び越えて基地に着弾する。

『ああ、また滑走路に大穴が空きましたよ。全く、倒しても後から後から』

 たまに打ち損じだろうか、基地自体ではなく中隊目がけて飛んでくる矢もあり、それにも警戒しなければならない。そして、イサクの少し離れたところに矢が着弾しそこに大穴を開ける。

「小隊長、ぼやいてる暇が有ったらフェアリーを打ってくれ。それでなくてもこっちは数が少ないんだ」

 個別通信の天翔の言葉に『ハイハイ』と言いながら目の前に迫るフェアリーに照準を合わせる。

「それに、どうせ基地が無事でも小隊長は特別訓練だろ?」

『ああ……嫌なことを思い出させないでくれウィング……』

「じゃあ今のうちに隊長に良い所見せておけよ。そうすればB-1基地に帰っても特別訓練はしなくてもいいかもしれないぞ?」

『げぇ……、基地に帰っても特別訓練やらないといけない可能性があるのか?』

「隊長の性格すればその可能性があるな」

『まじか……』

 天翔の言葉にイサクはやる気を出したのか、目の前の敵に向かって照準を合わせ、効率よくフェアリーを倒していき、押し寄せるフェアリーに突撃をかける。その様子を見てメシアがイサクに話しかける。

『ノーム、やればできるではないか、その調子でいけ。良し、全隊ノームに続け!』

 メシアの言葉にA中隊各機が押し寄せるフェアリーを押し返す。そして、イサクの攻撃の成果もあったのか、フェアリーは攻撃を諦め、撤退していく。しかし滑走路にはまた穴が開いており、フェアリーの攻撃は成功したとみていいだろう。

『A中隊、ご苦労だった。警戒しつつ帰投せよ』

『A中隊メイス了解。中隊各機、帰投する』

「これじゃあいつになったら帰れるかわからんな」

 ファットアップル護衛からもうすでに一週間がたとうとしている。基地の再建も少しづつではあるが何とか行われているが、それでもやはり外様のA中隊まで防衛に駆り出されるような始末だ。いつになったらB-1基地に帰れるのかも目途が立たないような状態だった。しかし、基地に付くと軌道エレベーターの方が騒がしかくなっていた。A中隊がハンガーに入ると整備兵もほとんどが出払っており、残った整備兵に話しかける天翔。

「何かあったのか?」

「え? ああ、駐留艦隊からようやく補給物資が届いたみたいだ。それに駐留艦隊司令官が視察を兼ねて基地に降りてきたみたいだ」

 そう言うと整備兵は、軌道エレベーターの方角へ向かって走っていく。整備兵の言葉に一人呟く天翔。

「司令官ね……」

「どうしたんだ天翔?」

 乗機から降りて天翔に話しかけるイサク。

「駐留艦隊の司令官が視察に来てるみたいだな」

「司令官が? ちょっと見に行ってみようぜ」

 そう言うとイサクは軌道エレベーターの方に走り出す。

「天翔、早く行こうぜ!」

「お、おいイサク! まだ報告が……。ああ、行っちまった。全く。メシアに報告して俺も行くか。あいつ一人だとどうなるかわからんからな」

 そう言うと天翔は一度メシアのもとに行き、報告をすると、そのままイサクの向かったほうに足早に歩く。しばらく基地の中を歩くと、人だかりと、送られて来たであろう物資と、まだ新品のMFが連隊規模で送られてきている。そして、一段高い所で制帽被った何人かの将校と、それを出迎える基地司令が目に入る。制帽を被った白い髭を蓄え、好々爺といった感じの老人と、そのすぐ後ろに銀髪でメガネの男が立っている。遠くから見ているのでそれがどういった人物なのかはよくわからないが、上級将校であることは間違いないだろう。

「駐留艦隊司令官モーセ大将と、その後ろにいるのがシェフィールドの統合参謀本部総参謀長のアブラハム中将だ」

 メシアも追いかけてきたのか、天翔の後ろから話しかける。

「あれが?」

「ああ。まあ、もっとも、普段はシェフィールドの衛星【セラフ】の基地にいるから地上に降りてくることは殆どないがな」

 壇上に立つアブラハムに目をやると、アブラハムが一瞬こちらに視線をよこしたように見えた。

「どうした天翔?」

「え? いや、何も」

 少し曖昧に返す天翔。一瞬目が合った時に何か妙な感じを覚えたが、気にせずにメシアの方にふり向く。

「これだけの援軍が来たんだ、A中隊ももうそろそろ帰還できるだろう」

「ええ、そうですね」

「早ければ明日にでもB-1基地に帰れるだろう。おそらく今夜がベース・ゼロでの最後の夜だ。どうだ、つば……天翔。この後少し飲まないか?」

 一瞬翼と言いかけたメシアは慌てて言い直し、天翔の目を覗き込む。

「わかりました。では、私の部屋で」

 周りに人がいない事を確認して、メシアは人気のいない通路に天翔を連れ込むとそこでふいにキスをする。

「じゃあ、後でな翼」

 少し顔を赤らめながら急ぎ足で天翔のもとを離れるメシア。それと入れ替えにイサクが天翔に寄ってくる。見られてないかと心配になるがまったくこちらの方を見ていなかったのか、イサクは群衆の方を見ながらこちらに向かってくる。

「いや、すごい人気だなモーセ司令は」

 急いで、さっきメシアとキスをしたばかりで、まだ唇の柔らかい感触が残っている自分の唇を、パイロットスーツの袖で拭う天翔。

「どうかしたか?」

「い、いや。なんでもない」

「これだけの援軍が来たんだ、明日には俺達もB-1基地に帰還だな。どうだ? 今晩当たりちょっと街に繰り出さないか?」

「いや、今日はやめておくよ」

「なんだ天翔? 付き合い悪いじゃないか? おや、もしかしてお前……」

 イサクの言葉に少しぎくりとする天翔。

「もうすでにここでカワイ子ちゃんでも見つけたのか? まったく、お前は手が早いやつだな。少しは俺にも回せよ!」

「ま、まあそんなところだ」

「かぁ~、まったく、お前というやつは友達がいの無いやつだな。仕方ない、メシア少佐かエリサベト大尉でも誘うか」

 メシアの名前が出て、また思わずびくりとする天翔。

「しょ、少佐は今晩は忙しいみたいだぞ?」

「なに? まあいい、エリサベト大尉に声をかけてみるか。じゃあな天翔。お互いベース・ゼロ最後夜を良い夜にしようぜ!」

 そう言ってイサクは自室の方に歩いていく。その姿を、少し後ろめたくも、可哀そうに思いながら見送る天翔。おそらくイサクはエリサベト大尉にもフラれて、アンデレ大尉あたりと飲むことになるだろう。天翔はそう思いながら自身も自室に向かって歩いていく。そして、部屋に入るともうすでにそこには酒瓶を持ったメシアが待ち構えており、そのまま二人はその夜を同じベットで過ごすことになる。


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