三話 ベース・ゼロ防衛
ベース・ゼロはまだ戦闘の真っただ中だった。包囲されているベース・ゼロのさらに外側にメシア達のA中隊が位置し、ベース・ゼロの部隊と合流する事も難しい。
『ベース・ゼロ管制聞こえるか? こちらファットアップル護衛のB-1基地所属のA中隊だ。貴基地の外延部に到着した。援護する。状況を教えてくれ』
様々な通信が飛び交う中、ベース。ゼロからの返答はすぐには帰ってこず、A中隊は戦闘の行方を外延部から見守るしかない。このままよくわからない状態で攻撃に参加するわけにもいかず、しばらくの間待機しているしかなかった。その間にもメシアはベース・ゼロの管制に呼びかけていると、ようやく管制の返答を得られる。
『こちらベース・ゼロ管制、貴隊の位置を送れ』
『了解』
メシアは管制の言葉に、ハービーを通して位置情報を送る。その位置情報に、管制は少し言葉をなくす。
『……なんて良い場所に来たんだ。こちら管制、貴隊のすぐ前方にフェアリー達の指揮所にあたる場所があるはずだ。そこからフェアリーの指揮官は確認できるか?』
『ちょっと待て。確認する。クレナイ、レーダーの反応はどうだ? それらしきところは確認できるか?』
『ちょっと待って、今確認してる……』
しばらくの沈黙の後、クレナイが返事を返す。
『指揮所かどうかは分からないけど、フェアリー達が集まっているであろう場所は確認できた。我が隊の前方五〇〇メートル』
『そうか。ウィング』
「イエッサー」
『貴様の位置が一番近い。そこから目視で確認できるか?』
メシアの言葉に天翔は前方の森の中に目を凝らす。カメラのズーム機能を確認して周辺を確認すると、確かにクレナイのしめした方向にそのようなフェアリーの集団が見える。
「こちらウィング。フェアリー達を確認」
『狙撃は可能か?』
状況を確認する天翔。天翔の機体とフェアリー達との間にはかなりの樹が覆い茂っており、その隙間を縫っての狙撃はかなり難しく思える。
「狙撃は難しい、空爆、もしくはミサイルでの攻撃であれば何とか」
『アンデレ、ミサイルの残弾数は?』
『確認しましたが、これまでの戦闘で残弾は無くなってます』
『ちっ! 接近は可能か、天翔?』
「少し待ってください……」
天翔はハービーの地形データを確認し、何とか接近する道を探す。
「この位置からであれば、あるいは……中隊長、接近は難しいですが、我が隊の右前方の高台に登れば、そこからなら狙撃は可能かと」
『やれるか?』
「やりましょう」
『解った、イサク』
『イエッサー』
『天翔を援護しろ』
『ウィルコ』
『行くぞ天翔』
「ウィルコ」
天翔とイサクの二機はなるべく物音を立てないように、静かに天翔の言っていた高台を目指す。そして、高台に付くと、そこはやはり天翔の睨んだ通り、フェアリー達の指揮所のような場所が狙える場所であった。そして、そこで銃を構える。命中率を上げる為、すべての関節をホールドし、銃身をフェアリー達の中でも一番派手な装飾をした一体に向ける。すべての情報をハービーが計算し、最高のタイミングでの狙撃を行う。距離は先ほどよりも少し離れて六〇〇メートルはあるだろうか。風は向かい風、そして一瞬風がやむ。その瞬間、ハービーが発射のタイミングを知らせる。
そして、次の瞬間天翔は狙い定めた場所を撃ち抜く閃光が銃身から放たれる。その閃光は一瞬にして狙った通り、フェアリーの頭を撃ち抜き、そして周りにいたフェアリー達がその光景に一瞬動きが止まる。そして、その隙を狙って天翔はまた何発かの閃光を放ち、そしてすぐに機体のホールドを解くとその場所からすぐに離れる。
「隊長、フェアリーの指揮官らしき個体の狙撃に成功しました。その周辺にいたフェアリー達も何体かは仕留めれました」
『よくやった天翔。すぐに中隊に合流しろ! ベース・ゼロ管制聞こえるか?』
『こちらベース・ゼロ管制』
『我が隊で指揮官らしきフェアリーの狙撃に成功した。フェアリー全体の動きはどうか?』
『確認する』
少しの沈黙の後、管制がまた話しかけてくる。
『こちら管制、フェアリー達に混乱が見られる。おそらく指揮系統の上流が倒れたからだろう。ゆっくりとではあるが、後退しているように見える。よくやってくれた』
『了解。これよりベース・ゼロに向かいたいが、どのルートが安全だ?』
『ちょっと待て、今調べる』
しばらくの無言の後管制がデータをハービーに送ってくる。
『基地南側からであればフェアリーとの遭遇も少ないはずだ。貴隊から九〇度の方向へ迂回しろ。我が基地の部隊もある程度前進はするが、それでもそこまで到達する事は難しいだろう。貴隊独力での脱出になる。すまない』
『解った、情報感謝する』
メシアは今送られてきた情報を中隊各機に転送する。
『中隊、今送ったルートでフェアリー達の部隊を迂回しながらベース・ゼロに向かう。まだ完全に戦闘が終わったわけじゃない。気を抜くなよ!』
メシアは各機に通信を送ると、そのまま先頭に立って、示されたルートを慎重に進んでいく。
ベース・ゼロに到着するまでに何度かの小規模な戦闘はあったが、何とかベース・ゼロの到着するA中隊。
『こりゃ……』
『随分やられたものだな』
アンデレの言葉に引き続いてメシアも言葉に出てしまう。シェフィールド最大の基地であるベース・ゼロがこれほどの損害を受けている。基地のあちこちは反物質による攻撃の為だろう、あちらこちらに穴が開いており、滑走路もすぐにはまともに使えないような状態だ。それに、火災もいたる所で発生しており、とてもではないがこのまともに機能しているとは思えない。
『管制、こちらB-1基地所属A中隊、貴基地南側に到着した。どこに向かえばいい?』
メシアが管制に話しかける。やはりまだ混乱しているのか、管制からはまともな反応はない。
『仕方ない、取りあえず我々も救助活動を行う。手近なところの火災から消火活動を行っていくぞ』
メシアの言葉に小隊毎に別れ、基地の消火活動を手伝う。A中隊自体かなりの激戦を潜り抜け損傷も損耗も激しいが、それでも、この基地で補給と修理を受けなければB-1基地に帰ることも難しい。その為にも少しでも早くベース・ゼロの状態を少しでもまともな状態にしなければならなかった。




