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妖精の果実  作者: 流民
第三章
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二話 ファットアップル護衛


「こちらB-1基地所属A中隊中隊長メイス、貴基地管制下に入る。護衛対象は何処だ?」

 作戦開始五分前にFB-5基地上空周辺に到着するA中隊。メシアの声にFB-5基地の管制官が答える。

『こちらFB-5管制、貴隊の到着を歓迎する。OAC-50は現在離陸中だ。貴機の九〇度の方角にOAC-50の一番機が見えるはずだ』

 メシアはその方向を見ると見慣れた、球形に近いような機体がゆっくりと滑走している姿が見える。

「あれか……。護衛対象を確認。これより護衛対象の上空、五千フィートにて警戒を行う」

 メシアはA中隊の全員に命令を下すと、高度五千フィートまで高度を落とし、ファットアップルの護衛に付く。そこでメシアに通信が入る。

『こちらグラウンドアイ。ファットアップルが全機離陸後、貴隊はこちらの管制下に入る』

「こちらメイス。了解」

 ふと上空を見上げると、今までメシア達が飛んでいた高度よりも、さらに高い高度でFB-5基地上空を旋回している機体を確認する。

「我が隊はファットアップル全機離陸後、グラウンドアイの管制下に入る。各機、いいな?」

 メシアの言葉に全員が了解の意をメシアのディスプレイに送る。そうこうしているうちに、予定していたファットアップル四機全機の離陸が完了する。

『こちらグラウンドアイ。これより管制はFB-5基地を離れ、こちらで行う。OAC-50は高度四千フィートまで上昇、護衛のA中隊は同高度にて警戒に当たれ。進路は一二五度、速度一三〇〇ノットを保て』

 管制の指示に従い管制下の各機が指示通りの方向へ向かう。

「A中隊各員、これより護衛任務に就く。気を抜くなよ」

 メシアはA中隊全員に通信を送る。しかし、メシア自身退屈な任務になりそうだと頭の片隅で思っていた。


 FB-5基地を離陸して四時間ほどが経過した。途中、空中給油機での給油を受け、順調に飛行を続け、もうそろそろベース・ゼロが近づいて来た頃、オープン回線になっている通信から『フーフフン』というご機嫌な鼻歌が聞こえてくる。それを聞いて天翔が急いで個別通信に切り替えイサクに話しかける。

「小隊長、回線がオープンになってる」

『何⁉ まじか……』

『ノーム、どうやら三日間の休暇は惜しくないようだな?』

 すかさずメシアの通信がイサクに入る。

『いえ、自分は張り詰めた空気を少し和ませようと、決して気を抜いている訳では……』

『そうか、分かった。言い訳は終わりか?』

『いえ、決して言い訳では……』

『貴様には罰として、三日間の特別訓練を命じる。どうだ、楽しみだろう?』

『は、はい……楽しみであります……』

 その後イサクは天翔に個別通信で話しかける。

『なんで言ってくれないんだよウィング……』

「オープン回線にしているほうが悪いんだろ?」

『はぁ……俺の休暇が……』

 イサクと天翔が個別通信で話していると、突然通信が入る。

『こちらグラウンドアイ、レーダーに感有! A中隊各機及びOAC-50各機警戒されたし!方角は〇度。距離約二〇キロ』

 突然の通信に普段冷静なメシアも驚く。そして、とっさに命令を下す。

『何⁉ 何故そんな距離になるまで気が付かなかった? まずい、ファットアップル、高度を上げろ! もう、すでにフェアリーの射程圏内に入っている可能性がある! 退避されたし!』

 しかし、ファットアップルはすでに飛行限界ギリギリの高度を飛んでおり、これ以上高度を上げることは出来ず、旋回をして回避しようとしていた。しかし、その旋回中を狙ったかのようにフェアリーの放った矢がファットアップルの巨体に命中する。命中したオリジンアップル付きの矢はすぐに対消滅を起こし、ファットアップルの巨体に大きな穴をあけ、高度を下げていく。その間にもファットアップルの一番機から悲鳴のように通信が入る。

『こちらOAC-50一番機メーデー、メーデー!』

 しかし、その悲鳴のような言葉に何も返せない。シェフィールド上での最大級の機体を引き上げる手段は無い。無事に不時着を祈るしかない。しかし、不運にも降下中の一番機を狙ってまた矢が打ち放たれ、それがコックピットに命中すると、その悲鳴のような声も聞こえなくなり、次々と刺さる矢に、形さえも維持する事が出来ずばらばらと部品が地上に落ちていく。ニ番機以降の機体には今の所被害は出ていなかったが、このままでは間違いなく他の機体も狙われる事になるの明白だった。

『A中隊、ファットアップルの前に出る!対地ミサイルで応戦する。急げ!』

 メシアの声と共に、各小隊はスピードを上げ、ファットアップルの前に出る。そして、前に出るとグラウンドアイからの通信が入る。

『ミサイル発射後の管制はこちらで行う。発射せよ!』

『了解、各小隊、手持ちの空対地ミサイルを発射! 打ちっぱなしでいい、フォックスワン、フォックスワン』

 ハービーの無誘導状態でミサイルは撃ち放たれ、それをグラウンドアイが管制する。それによりハービーに無駄な負荷をかけることなく、次の行動に素早く移る事が出来る。その時間を利用してメシアは次の命令を隊員に告げる為にグラウンドアイに状況を確認する。

『グラウンドアイ、こちらメイス。ベース・ゼロに急襲の事は伝えているか?』

『こちらグラウンドアイ、連絡はしているが連絡が付かない状態だ。繰り返し連絡をしている』

『解った、引き続き援軍の要請を頼む。我が中隊はこれより降下しフェアリー達に牽制の攻撃を仕掛けるが、そう長くは持たん。至急救援を求む』

『ウィルコ』

『中隊全機、ファットアップルの退避の時間を稼ぐ。全機、これよりアームドで地上戦を仕掛ける。行くぞ、続け!』

 メシアはその言葉と同時にフェアリー達の中に降下していき、そのままアームド形態になり地上戦を始める。それに続いて、中隊全機が降下しフェアリー達の中に突入し、フェアリーの対空砲火は止み、その間に三機のファットアップルは速力を増し、ベース・ゼロに向かう。

『よし、ファットアップルの退避は確認した。このままフェアリー達の中央を突破して我々はベース・ゼロに向かう。まごまごしてると囲まれてしまうぞ! 中隊、私に続け!』

 中隊はフェアリーの少ない所を効果的に攻撃しながら前進を続ける。最初の爆撃である程度の損害を出していたはずだが、それでもかなりの数がまだ残っており、戦線の薄い場所の突破を試みるが、それでも周囲のフェアリーがA中隊を包囲するかのように戦線を狭めてきている。それにより、正面からだけではなく、左右からの攻撃も加わり、中隊は攻撃にさらされ続ける。

『グラウンドアイ、ベース・ゼロからの援軍は確認できないか?』

『いまだ確認できず、連絡もまだつかない状態だ』

『解った。フェアリー達の動向はどうか?』

『貴隊を包囲しようと両翼を前進させつつあり、まだ包囲は完成していないが、それも時間の問題だ。後方に下がれ』

 管制の言葉にメシアは考える。このままでは確実に包囲され、全滅は免れないだろう。しかし、後方に下がっても、その後追撃されれば逃げ帰れる基地は遠く、また同じことになりかねない。やはりここは前進してベース・ゼロに向かうべきだろう。

『グラウンドアイ、我々は前進して中央突破を再度試みる。中隊、前進! 手持ちのグレネード及びミサイルを前方のフェアリー達に向けて撃て! その隙をついて中央を突破する。各機グレネード、ミサイル用意! 今だ!』

 その合図に中隊全機は一斉にグレネードとミサイルを投げつける。そして、その爆炎を利用して突撃し、混乱するフェアリーに攻撃を加える。何とか、フェアリー達の中央を突破できそうになった時、グラウンドアイから連絡が入る。

『こちらグラウンドアイ、メイス聞こえるか?』

『こちらメイス、忙しい。手短に頼む!』

『ベース・ゼロと連絡が付いた、あちらもフェアリーの襲撃を受けている模様! 今だ襲撃は続いているようだ。気を付けられたし!』

『何⁉ ここは我々の支配地域だろう? どうなっているんだ……。とにかく、このままここにいても包囲されるだけだ。我々はベース・ゼロに向かう。各機フェアリーの追撃を振り切り、ベース・ゼロへ向かう!』

 中隊はそのまま全速でベース・ゼロに向かう。そして、ようやくベース・ゼロのシンボルである軌道エレベーターが近くに見え出してくる。



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