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第一話③

奴が私を連れてきたのは、住宅地の中にある小さな公園だった。奴は公園の入り口の自動販売機で缶コーヒーを二本購入し、私にそのうちの一本を差し出した。

 「毒とかは言ってないし、こんなんで恩売るつもりもないから、安心して飲みなよ」

 このように当たり前のように私の考えていることを当ててくるところから考えて、こいつは洞察力というか、頭の回転も速いのだろう。とするとやはりこんな人気のない公園に私を連れ込んだのにも何か考えがあるのだろうか。私はいつでも臨戦態勢に入れるよう懐に備えた小刀(意外とあっさり返してくれた)を確認する。

 こいつは敵だ。この私の認識は変わらない。

 奴は私の缶コーヒーと奴自身のものとを軽く突き合わせて乾杯、などとのたまうと一人でうぇーいとかいいながらブランコに乗ってのんきにコーヒーを飲み始めた。…この調子では私自身警戒しているのがばからしくなってくるな。しかしこれも奴の策略かもしれないと警戒レベルを再度引き上げる。

 「新岩さんもどうかな、ブランコ。隣空いてるよ~」

 そういっていまだ入り口から動かない私に奴はブランコでのんびりしながら呼びかける。ずっと笑顔で。あの笑顔が最初は爽やかに見えていたのに、もはや脅迫の色にしか見えない。どうせ何といってもどうしようと奴は私を自分の隣に座らせるだろう。仕方ないが、座ることにするか。

 とかなんとか思ったが、よく考えれば私も奴に聞きたいことがあったのだから、ちょうどいい。そう思っておこう。

 私はブランコに座るとすぐに奴に問いかけた。

 「お前が何の話を私としたいのかは知らないが、まず私の問いに答えろ」

 「ん?あ、うん、いいよ、どうしたの?」

 めっちゃコーヒー飲みながら返事するな…あと取り繕ったようにまた笑顔になるのやめろ。

 「お前の目的はなんだ。なぜ私が敵を殺そうとするのを止めたのだ。そもそも、なぜ私が奴を殺そうとしているとわかったのだ。返答次第では、お前も邪魔ものと判断して殺さねばならなくなる」

 「ぶふっ、なんか、ははっ、なんか戦国時代の侍みたいなしゃべり方になってるけど大丈夫?笑」

 こいつ、やはり私のことを馬鹿にしているな…

 「いいから、質問に答えろ。目的はなんだ」

 そう問うと奴は一瞬目を見開いた後、吹き出しながら言った。

 「なんでって、いや、ははっ、そんなの人が死ぬところなんて見たくないからに決まっているじゃないか笑」

 正直、想定通りの答えだった。当然の人の心情だと思った。…なんて言って私が満足すると思ってるのかこの爽やか笑い上戸は。

 「そんなことは動機としては成立しない。それは人間という生き物が一般的に内側に備えているいわば本能のようなものだ。しかしそう思っているものは多くともそこから目の前で起こる殺人に立ち向かおうとする人間は少ない。お前はそれをした。その理由を聞いているのだ」

 これは私の経験上、当たり前のことだ。多少は狂わなければ若干十五歳で生死の関わる行動などできるわけがないのだ。

 次いで、私は続ける。

 「お前がいかなる動機で私の殺人を邪魔したとしても、私はそれを認めることはできない。私が生きるためには敵の排除は絶対条件なのだ。それを邪魔したということはお前も私の生きる道をふさぐ敵ということになる。敵は邪魔される前に滅ぼさねばならん。だからお前には、ここで死んでもらわねばならんのだ」

そういって奴の前に仁王立ちになる。今なら隙だらけ。今度こそ仕留める。

その時。

ふっ、と。奴の笑い声が止まった。私は思わず警戒から小刀に手をかける。そして奴はゆらりと、自らの面を上げた。それを見た私は、戦慄した。

そこにいたのは、今まで見てきた奴の顔とは、全くの別人だった。

そして奴が言い放った言葉は…


「…お前、頭おかしいだろ」


…殺す。覚悟しろ。小刀を奴の首に突き立てる。

しかしそれも奴は受け止めてしまう。

「あのなぁ…まずお前の質問に答えてやろうか、新岩さんよぉ~」

完全に豹変した奴はそのままくどくどと言い募る。

「まずなんでお前の殺人を止めたかって?そんなの人が人を殺すという行為が見ていられなかったからだよ!それ以上でも以下でもあるか!何がそれは動機として認められないだよ、意味が分からん!あとそれからお前が俺を殺そうとした動機だけどなぁ、そんな人類が全員自分の気に入らないと思ったやついたら殺したりしてたら人類今頃とっくに滅亡してるわ!ちょっとは頭使って生きろよ、お前の都合で死ぬなんて死んでも死に切れんのじゃボケェ!」

「頭を使えだと?私は考えた末にこの結論に至っている!たとえその場で殺さずに対処する方法を見つけたとしても一度対立した相手とは何があろうと理解しあうことはできない!そうして殺さなければ一生かかってそいつに邪魔されるのがおちだ!だったら一度きりにして殺しておくほうが今後のためだと、貴様にはなぜ分からない!」

頭を使って、知恵を巡らせて、そんなことをして敵と理解しあおうなどというのは、無駄なことだ。そんなことができるのなら、私も兄さんも、母と理解しあえたのかもしれない。でもそれは決してできない。なぜなら他者の心境などというものを完全に理解しそれを愛することなど、もとより不可能だったからだ。

「いくら考えたところで私とお前の間の溝を完全に埋めることなどできるものか!それができないから殺すほかないではないではないか!」

「じゃあ言わせてもらうけどなぁ!」

そういって私の叫びを遮ると、奴は慟哭した。


「お前お母さん殺して後悔したんじゃねぇのかよ!」


…は?何を言ってるんだ奴は。さっきからの話を聞いていたのか?母は敵だった。だから排除した。排除せざるを得なかった。排除するほかなかった。なのにこいつは何を…

奴は唖然とする私を見て、ふっと一度嘆息してからまた話し始めた。

「お前が起こした事件のことは、当時のメディアも騒いだし入学前からこの辺で噂にはなってたから内容は把握してる。それを聞いて思ったんだけどさ、あと今のお前の言い分を聞いてても思うけど、俺にはお前が人を殺すことで自分が平和になろうなんて本気で考えてるやつには、どうしても思えないんだよ。なんかさっきからいろいろ言ってっけどさ、俺には全部必死に自分に敵は殺すものだって暗示かけてるようにしか聞こえないんだよ」

「な、何をばかなことを!人間は対話だけで分かり合える生き物ではないのだ!だから敵だとしたらお互いの生きる道のために殲滅しあうしか方法は―――」

「だからほら、『しか』とか『しなければ』とか、そういうのを俺は自分に言い聞かせてるだけって言ってんの、わかる?」

「そ、そんなことは…」

くそっ、なぜ言い負かされそうになっているのだ私は。院を出た時決めただろう、分かり合えない人間とは分かり合おうとするな、そんな不可能なことをして足掻くくらいなら分かり合うことをあきらめ一方が切り捨てられたほうが賢明なのだと。私は、私は、…

「お母さんと分かり合えなかったからだろ?」

「……っ!やめろ!言うな!」

「確かにお前のお母さんはお前のお父さんに捨てられて豹変しちまったかもしれない。でもその前は全然違った。ご近所の目から見ても明らかな幸せな家族だった。そんな家族の中で育ってきたお前が、その時優しくしてくれたお母さんを心から憎めるわけないよなぁ」

「うるさいっ!優しかった母がなんだ!そんなことは関係ない!母は兄さんを殺した、私の胸にあるのはその憎しみだけだ!」

「嘘言ってんじゃねぇよ。いいかげんにしろ」

突然、奴の声が一段低くなった。寒気がする。肌がびりびりする。

正真正銘の、殺気だった。

「お前は母さんを憎いものだったことを肯定したくて、『殺す』という行為を敵排除のための仕方のないものと思いたいだけなんだよ。そんなお前の自己満足に…周り巻き込んでんじゃねぇぞ」

そういって私を睥睨する奴。その眼には決して狂ってなどいない、ただ純粋な殺意だけがあった。

ふざけるな、わかったようなこと言いやがって、私は、私は、、、、

「私は、兄さんの仇をとるために母を殺した!復讐だ!私から兄さんを奪っておいて当然の報いだったんだ!」

のどが痛い。頭が痛い。胸が痛い。…目が、熱い。

やめろ、そんな、そんな見透かすような目で見るな、お前に私の何が分かるって、、、、

「お前だってわかってるんだろ?こんなことしたって何にもならないって。やさしかった母さんも帰ってこないしお前の兄さんだって帰ってこないことも。それに…」

「だまれぇぇぇぇぇぇぇぇえええええええええ!」

殺す。殺す。殺す。殺す。殺す。殺す。殺す。殺す。殺す。殺す。殺す。殺す。殺す。殺す。殺す。殺す。殺す。殺す。

やはりこいつは敵だ。生かすわけにはいかない!

「あああああああああああああああああ!」

小刀を抜く。狙いは奴の心の臓。ばらばらに切り刻んでやる。

と、そこで視界がぐらりと揺らいだ。

気が付けば私はしっかりと立てないほどにふらふらしていて視界も涙で濡れてまともに見える状況ではなかった。頭が痛い。もう何も考えられない。でも奴だけは、奴だけはこの世に生かしていてはならない。

朦朧とする視界の中で無理矢理体を動かして奴に切りかかる。私の視界の端にぼんやりと映る奴は、私を睥睨したまま何もしてこない。もらった。これで終わる。死ね!

そして私の皮膚は、何か柔らかいものを貫く感触と生暖かい液体が顔面にとびかかってくるのを感じた。

殺した。やはり殺せば何もかも終わるんだ。殺してしまえばもうそれは私の邪魔はしない。私は自由に生きられるのだ。

私は引きつる口角を抑えながら、今は亡き敵の亡骸を拝もうと顔を上げた。そしてそこには。


手のひらで私の斬撃を受け止め、手から血液を垂らしながらも、変わらず私を睥睨する奴の姿があった。


「…は?」

感情の波が次々と襲い来る。疑心。恐怖。絶望。それらは紛れもなく、奴の目に宿る決して私ごときでは抗えないことが明白な、重厚な、暗黒の、殺意が原因だった。

奴が手のひらに刺さったままだった小刀を抜くと、あたりに少量の血液が飛び散る。その一部は私にも飛散し、それをきっかけに私は自身の体を染める血液に怯え、動揺し、体の震えが止まらなくなる。

奴は引き抜いた小刀を私に投げ返すが、私にはそれを受け取る心の余裕もなかったし、もはやそれは嫌悪の対象だった。

「この程度の出血と殺意で怯えてるようで、よく『私は殺して生き残る』とか言えたもんだよなぁ。てか大体お前ムショ出てから人殺してんの?殺せてないよねぇ。そんなお前が殺して生きるなんて、イキがってんじゃねぇぞ。」

私は奴に至近距離からそういわれて、抵抗することすら許されずただ恐怖と絶望にまみれて、その場に座り込んだ。

「ごめんなさっ、…うっ、ごめっなっざぁい」

自分がまともにしゃべれないほどにしゃくりあげていることに気づいて、ばからしくなって少し冷静になるも、目の前の男の恐ろしさにはどうすることもできず私は、彼を見ることができなくなってしまった。

そこに彼は言う。

「お前思考がいったん変な方向行くと戻ってこねぇタイプだろ、多分。一回頭リセットしてもっかい考え直せ。確かにお前のとった母さんを殺すという行為は誰がどう見ても許すべからざる悪だ。でもお前は今は優しかった母さんをいくら豹変してしまったことと兄さんを殺したことが原因であったとしてもやるべきでなかったと悔いている。じゃあなんでそこからもう人は殺さない、まっとうに生きよう、って方向に思考が転換しねぇんだよ。見ててイライラすんだよお前マジで。なんで人殺しちゃうんだよほんと、勘弁してくれよな…」

いや全くその通りだな、と思ったがもはや口にする気力がなかった。てか彼の口調が心なしか気遣うようになったことで私の中から、殺人衝動というものは一切なくなった。私はつきものが落ちたかのように、狂ったように叫んでいた自分がばかばかしく思えてきていたし、先ほどまで動揺していた心も嵐の後の静けさのように凪いでいて、ただ彼の話を呆然と聞き流している状態だった。

「あと、あれだ」

まだあるのか、もういいよ私が悪かったよ許してくれよ。心境は半ば現実を投げ出しかけていた。

「敵は排除するとか言ってっけどな、どんなに心を通わすことができな友人でもいざって時に邪魔な時なんていくらでもあるだろ。それをいちいち邪魔だって言って切り捨ててたらこの世で生きられるのはお前だけになるし、私一人で十分だなんてそんな生き方通るわけねぇんだ。大体人間一匹ごときしか登場しない人生なんて何が楽しいんだよ。いいか。誰かのためだけに生きるのはやめろ。その『誰か』には自分自身も入ってる。その人一人だけのために生きるなんて一度壁にぶつかっただけで人生終了になっちまう。だからその防止策として保険はたくさん作っといたほうがいい。その中で特に大事な人とかが見つかればその人に添い遂げればいい。まぁもしそんな保険にする人が一人もいねぇんなら」

そこで彼は一度言葉を切って私と視線を合わせた。その瞳に宿るのは、さっきではなく優しさの色。


「俺がお前の保険第一号にでもなってやるからよ」


…こいつ話が急だな。なんだいきなり。なに、ひょっとしてこいつの本当の目的ってこれ?私の殺人止めたりした後にこっちに笑顔向けてニヤニヤしてたのはひょっとしてアピールだったの?…この男、ひょっとしてあほだろ。

だが彼はそんなくっさいセリフを言ったにもかかわらずさわやかな笑顔でこっちを見ている。…てか爽やかさいつの間にか戻ってるし。なんだこいつほんと意味わからん。

でも、意味わかんなさで行ったらさっきまでのこと考えると私は人のこと言えないし、この言動が私のことを気遣ってくれてるのはわかる、だけど、ねぇ…

私は、さすがにこんなことで落とされるチョロインではなかった。

「ありがとう。そうね、保険は大事だものね。でもそこまで言うんだからあなたはよほどの保険があるんでしょうねぇ」

「へ?ああまぁそうだけど。てかなんか口調気持ち悪いんですけど、なんかお嬢様のなり損ないみたいな口調になってるよ笑」

…ばかにしてんな、おい。

「あらあらそんなことないわよ。でもそうね、私その保険ってものがよくわからないからちょっと試してみようかしら、あなたで」

そういって私は、足元に落ちているナイフの血を拭きとりながら、そう彼に言ってみせた。

すると彼は何を勘違いしたのか、変なことを言い出した。

「おおそうか、それはよかった。ではお近づきのしるしに連絡先の交換でもする?笑」

…どこまでもばかにしてんなぁおい。

「あんたをあたしの保険第一号にするってことじゃないわよ」

「へ?じゃあどういう…」

そう彼が言い終わらないうちに私はナイフを彼に向けた。

「あんたの言う『保険』がどんだけ役に立つものかと思ってねぇ!」

その言葉とともに私は彼の刺されていないほうの手を刺した。まぁさっき刺されても平然としてたから、まぁ大丈夫だろう。

「っていったぁ!何すんだよおい!」

「え、いやさっき刺されても平気そうだったから大丈夫かなぁと思ってやったんだけど?」

なんで急に痛がってんだよ、さっきは大丈夫だったのに。ひょっとしてさっきは私が刺すとわかっていたから大丈夫だったってだけなのか?…まぁなんでもいいや。

「いや普通体刺されて平気な人いないから、まじで。やっぱお前やべぇ奴だわ」

なんかめっちゃ動揺してる。ははっ、面白いからもう少しいじめちゃおっかな~。

「ごめんねごめんね~、でもあなたには『保険』があるんだから大丈夫よね~」

「ああ。もう慣れたから大丈夫だけど」

「は⁉立ち直り方おかしいでしょあなた!」

「いやもともと痛くねぇよ、さっき痛がってなかっただろ。オヤジに訓練されてっから大丈夫なんだって」

「いやどんな訓練されたらその痛みに慣れるのよ!」

訳が分からない、と私は首を横に振らざるを得なかったが、彼はそんな私を相も変わらず爽やかな笑顔で見つめていた。

「でもよかったよ」

そして唐突に私にそういった。私は自分が最初から最後までもてあそばれっぱなしだったことが納得いかず、すね気味だったので、不満げな返しをしてしまった。

「なにがよ!」

「いや、戦国時代の侍みたいなしゃべり方も直って女の子っぽいしゃべり方できるようになったなぁと思ってさ」

「親ぶってんじゃないわよ、ばーか」

「それに」

そこでいったん言葉を切ると彼は私に近づいて、目の前に血まみれの手を広げた。

「過去も吹っ切れたみたいでさ笑」

その時彼が私に見せた笑顔は、今までの爽やかさもあったが、どこか幼くて元気いっぱいで、見ているこっちが元気にさせられるような笑顔だった。そんな彼に言われて私が、何のためらいもなくナイフを触って血を見れていたことに気づいた。

いつ吹っ切れたんだろ、と思って先ほど彼が私を正気に戻してくれたからだと思いいたってしまった。こいつ、変なやつだけど、いいやつ、なのか?

そう思ってうっかりチョロインになりそうな自分に気づいて慌てて正気に戻る。

「そうね、なんだかんだであなたのおかげで。少し癪だけど礼は言っておくわ。ありがとう。だから、あなたの『保険』になってもよろしくてよ?」

そういって彼に手を差し出した。彼は驚いた表情と照れた表情を見せながらも私の手を取ってくれた。

「ああ。よろしくね、新岩さん」

「ええ。こちらこそ、えーっと…」

「秋原でいいよ」

「言いにくい苗字だし下の名前にするわ。なんていうんだっけ?」

「え⁉ああ、じゃあ葉祐で」

うう、さすがにこれだけではそんなにからかえないか、この爽やか野郎は。

「そう。じゃあよろしくね、葉祐。…たまにまたこんな感じで刺したりするかもだけど。」

「ははっ、勘弁してくれ」

そういって私たちは笑いあい、その日はお互い家路についた。持っていた刀は、駅のコンビニで処分した。



家に帰ってきたとたん、私の体にはどっと疲れが押し寄せてきた。今日という日は怒涛の一日過ぎて、私などという、…私などという弱い人間には少し荷が重かったのだろう。

保険、か。

ベットの上であおむけになって天井を見上げる。ずっと天井を眺めていると、天井が私を押しつぶしてきそうで怖くなって、私は枕に顔をうずめる。何も視界に入らなくなると、不意に先ほどの彼との会話が思い出されて、羞恥でまた起こしかけていた顔を枕に収納した。

こんなことで悶えているなんて、私はひょっとしたらチョロインなのかもしれない。

そんなことを思っていると、不意に私の携帯が着信音を鳴らした。メッセージの送り主は、彼。

『学校でもよろしくな!』

文面まで爽やかな彼にばかばかしさとほほえましさを感じながら、私は返信する。

『こちらこそ。私の『保険』として、どうぞよろしくね』

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