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エンジェル・キャンサー  作者: 小森 輝
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エンジェル・キャンサー5

 ざわついている生徒の視線を辿っていくと、そこには、今朝、チャイムが鳴ってから教室に入ってきたギャルの女の子と、気の弱そうな男子生徒がいた。

「ちょっと、それどういうこと?」

 周囲のざわめきが、少女の叫び声に怖じ気付いて、静まりかえる。周囲の視線から予想はしていたが、やっぱり、あの二人が原因のようだ。

「今日は学食で食べるから……」

「学食って……。あんた、いつも弁当じゃない」

 確かに、僕たちと同じで、あの二人はいつも仲良くなのかは分からないが、お弁当を食べている。それがいつものことなのに、男子生徒の方が学食で食べるなんて言い出して、ギャルの子が怒り出したようだ。ただ、なぜそんなことで怒っているのかは謎だ。ミヤコみたいに、ご飯はみんなで食べた方がおいしいなんて、ギャルが言う台詞ではないとは思う。

「ご飯ぐらい好きに食べてもいいだろ。一緒に食べなといけない理由なんてないだろ」

 一番気になっていることを言ってくれた。

 僕も、ミヤコに強制されなければ、ご飯を一人で食べていたと思う。ミヤコは脳天気な理由だが、あのギャルがどんな理由を言い出すのか、楽しみだ。

「私の飲み物はどうするのよ。お弁当だけで、飲み物は買ってこなきゃないんだけど」

 確かに、飲み物は大事だ。汁物がないお弁当では、飲み物が窮地を救うことだってある。

「そんなの、一人で行けばいいだろ」

 気が弱そうな見た目だが、はっきり意見を言えるようだ。そして、その意見は、ごもっともだ。それに、ないならないで、買っておけばいいだけのことだろう。

「せっかく私が気を利かせて、友達がいないあんたと一緒にご飯を食べてあげようって言ってるんだから、素直に言うことを聞きなさいよ」

「それを余計なお世話っていうんだよ」

 余計なお世話と言われればそれまでなのだが、ガクという男子生徒に、友達と呼べる知り合いがギャルの女の子以外にいないのは事実だろう。あの二人が一緒にいる所はよく見るが、他の組み合わせは見たことがない。あの男子生徒だけではなく、ギャルの女の子の方も交友関係は広くはないようだ。

「余計なお世話ってなによ」

 ギャルの女の子は怒ってしまったようで、少年を突っぱねてしまった。それ自体は、そこまで問題視するようなことではないが、運悪く押された拍子に足がもつれて倒れてしまった。

「いかにも運動してなさそうだもんな」

 女の子に押されて倒れるなんて、体の鍛え方が足りない。そう思うが、家から駅までの間を走っただけで疲れてしまった自分のことは棚に上げていた。

 ただ、そんなお気楽なことを考えていたのは僕だけだったようだ。

 突き飛ばされたガクという少年を見ていた周りの生徒たちは、殺気立っているように感じる。今にも乱闘騒ぎになりそうな危うさが感じられる。目の前にいる幼なじみも、例外なく同じ雰囲気を醸し出している。

 喧嘩ごとなどには縁がないミヤコだが、席を立ち、一番最初に行動しようとしていた。

「ちょっと、落ち着いて」

 このままでは、面倒なことに巻き込まれかねない。だけど、僕が制止を促したぐらいでは、止まってくれない。斯くなる上は、力ずくで止めるしかない。

 そう思い、行動に移そうとしたが、その前に、ミヤコは止まってくれた。もちろん、僕の功績ではない。

 ミヤコを含めた生徒たちの殺気は、教室のドアが開いたおかげで霧散した。

 ここまで生徒たちに影響を与える人物は、先生ぐらいしか思い浮かばない。昼休みに入ってすぐに教師が来るなんて運がいいと思っていたが、残念ながら違う人物だった。

「みんな、どうかしたの?」

 教室に入ってきたのは、教師ではなく生徒だった。だが、影響力があるのは変わらない。そんな人物を僕は一人しか知らない。

「ライト! ナイスタイミング」

 お昼を一緒に食べるために、ライトが来てくれた。これで、ライトが音便に済ませてくれる。

「そんなところで座り込んで。大丈夫?」

 転けてしまった少年に手を差し伸べるライトの姿は、まさに聖人だ。

「あ、ありがとう」

 少年は抵抗する事もなく、素直に手を取り、立ち上がった。

「学食に行くんだよね? 俺も今日は学食なんだ。一緒にいこうか」

 少年の背中を優しく押し、自然にこの場から引き離そうとしている。その様子に、ギャルの女の子は何も言えないでいる。

「あ、ミヤコとそれにハヤト。そう言うことだから、今日のお昼は一緒じゃないんだ。ごめんね」

 僕たち二人に気づいて謝ってくるが、此方はむしろ感謝したい。変な騒ぎになって教師が出てきたら、関わりのないこっちまでトバッチリを受けてしまうところだった。

「別に気にしていないよ。学食は人が多いから、早く行かないと座る場所がなくなっちゃうぞ」

「そうするよ。それじゃあ、また」

 僕たちに手を振った後、ライトは教室から出ていった。

 すると、それまで止まったように静寂していた教室内の空気は、堰を切ったように響めきだした。もちろん、騒いでいる内容は、ライトがイケメンだの性格がいいだの男前だの、そう言った内容のものだった。

「これで、また、ライトの株が上がったな」

 遠い存在になってしまいそうで不安だが、誇らしい気持ちに偽りはない。

「私の株は下がってるけどね。せっかく待ってあげたのに今日も学食だもん」

「朝練があるから、お弁当が間に合ってないんだよ。ライトも悪気があるわけじゃないし、むしろ頑張っているんだから、応援しないと」

 不機嫌なミヤコに、なぜかライトのフォローをするが、あまり効果はない。だけど、効果抜群のものが目の前にあった。

「さて、冷めちゃうことはないけど、早く二人でお昼ご飯を食べよ」

「そうだね」

 二人で昼食をとり、騒動が起こることなく、昼休みは終わった。ライトが顔を見せるとも思ったが、忙しいのだろう。学食でも、生徒たちに囲まれていたに違いない。

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