エピローグ
ボコボコになった畑を、担当さんたちがまた耕し直していると、驚いたように聞いてくる子がいる。
「どうしちゃったの? あんなにたくさん野菜があったのに」
「おう、ちょっと悪さするヤツがいてな、掘り返されちまったんだよ」
「そう」
その子は悲しそうにあたりを見渡している。
担当さんが微笑んで仕事に戻ろうとした時、彼が遠慮がちに聞いてきた。
「手伝っちゃ、……だめ?」
「え?」
少し驚いていた担当さんが、そのあとニッコリ笑って言ってくれた。
「いいよ、いくらでも手伝っておくれ」
「ありがとう!」
しかも、その子は道具を持つ手が手慣れている。
「やったことあるのかい?」
「うん! 畑仕事、大好き!」
「そうか、それは良かった」
その日、彼らは日が落ちるまで楽しそうに農作業を続けた。
彼はそのあとも、暇を見つけては、畑を手伝いに来るのだった。
大好きな仕事。
彼の学びは、もう始まっている。
またここは、学びどころの建設現場。
リアルでは数少ない玄武の友だちであるマーブルが、玄武に誘われて見学に訪れた。
マーブルは、ひと目で現場が気に入ったようだ。その日から毎日飽きずに建築現場に行って、彼らの様子をキラキラした瞳で眺めている。
ある日、そんなマーブルに親方が声をかけてくれた。
「おう、坊主、面白いか?」
「え、あ、うん! とっても」
そのマーブルに、親方はものすごく魅力的なお誘いをしてくれた。
「やってみるか?」
差し出された道具を、驚きつつも本当に嬉しそうに使うマーブル。けれど、現実はそんなに生やさしいものではない。何度挑戦しても上手くいかず、しまいには手が震えて道具を取り落としてしまう。
「ご、ごめんなさい!」
「いや、いいってことよ。けど、簡単に見えても、仕事ってものの難しさがよーくわかっただろ?」
謝るマーブルに、親方は怒りもせず笑ってそんな風に言う。
悔しくて泣きそうになりながらも、マーブルはきちんとお礼を言って、建築現場を離れて行った。
数日後。
建築現場には、またマーブルが立っていた。
「お、どうした」
驚いて聞く親方に、マーブルは一生懸命言う。
「僕、いったんはあきらめかけたんだけど、でも、やっぱりあの道具の感触が忘れられなくて。お願いします、どんなに難しくても基礎からきちんと覚えます。どうかまた教えて下さい」
ガバッと頭を下げて必死に言うマーブルの頭に、親方が手を乗せる。
「ハハ、そうか。もうとっくにあきらめたのかと思っていたがな。だったら納得するまでやってみな。それで、もし嫌にならなかったら、きっとお前さんの思いは本物だぜ」
「はい!」
顔を上げて、嬉しそうに笑うマーブル。彼はその日から、建築現場に通うようになった。
何度挫折しても、あきらめきれないこと。
1度はあきらめようとしたけど、やっぱりやりたいこと。
好きなだけではどうにもならなくても、好きならどんなにしんどくても続けられる。
彼の学びも、もう始まっている。
ここまでお読み頂き、ありがとうございました。
東西南北荘シリーズは、なぜか戦闘系!になってしまいます(笑)
万象も回を追うごとにたくましくなっていきますね。
また応援してやってください。それでは、いつかまた!




