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第7話 力を合わせ一件落着


 畑に佇む四神たちと、屋敷から走り寄る万象。

「大丈夫か?!」

 皆、疲れてはいるが、まだまだ気力はみなぎっているようだ。

 なぜか途中から雑魚の数がぐんと減っていった。そのため盾をなくした大将たちは次々崩れ落ちていき、あっけなく消滅させられたのだった。


「えっと、白虎と青龍が森羅に呼ばれたんだよな」

 そこにいるメンバーを見て万象が確認する。

「はい。2人が呼ばれたと言う事は」

 落ち着いた様子で飛火野は言うが、万象は焦っている。

「あっちがヤバイんだ! じゃあ俺は今からすぐ行く。四神と飛火野はタイムマシンであとから来い!」

 万象が指示を出したそばから。

「はい。……あ?」

 返事した朱雀が消え、続いて「あれ?」と、玄武・兄も消えてしまう。

「また行っちゃった」

 玄武・弟がちょっと寂しそうにつぶやくと、万象はいよいよ焦りを露わにする。

「まじヤベエ! 4人とも呼ぶなんてよっぽど……!」

 最後まで言い終わらぬうちに、万象は今までにないような風を起こして、消え去ってしまったのだ。

「……」

「バンちゃんまで行っちゃった」

 あっけにとられるミスター、龍古、玄武・弟、そして飛火野と一乗寺。

 そんな中、最初に行動を起こしたのは飛火野だった。

「あきれている場合ではありません。私たちも早く行かねば」

 と、タイムマシンのある万象の部屋へと皆を急がせるのだった。




「なんだありゃあ!」

 白虎が叫ぶのも無理もない。

 東西南北荘の倍ほどの背丈に成長した金属人が現れたのだ。そいつは離れに向きを変えようとしている。けれど幸いその動きは鈍い。

 走り寄った皆は、離れの屋根に伸ばそうとしている金属人の手を、極小ドローンが阻止しているのを確認した。


 パチン!

 森羅が大急ぎで指を鳴らすと、そこに朱雀が現れる。

「朱雀! ドローンに加勢して!」

 叫んだ森羅の声に、一呼吸で状況を把握し、朱雀はヤツの腕に、手に、ペンを浴びせかけた。

 その合間にヤツの正面に回り込んだ白虎が、動き出そうとする足を食い止める。

 ヤツの本体は、よく見ると影のようだ。攻撃しても、まわりについている金属片が落ちて行くだけだ。それでも何とか足止めにはなっている。

 ただ、鞍馬の剣は違っている。彼が剣を振るうと、金属片がキラキラと輝きながら消えていってしまうのだ。やはりスサナルの剣の威力だろうか。


 パチン!

 もう一度指を鳴らすと、玄武・兄が現れる。彼もまた一呼吸で状況を判断し、ヤツの正面に回り込んで嫌な音を出し、歩みを食い止め始めた。



「森羅!」

 そこへものすごい風が舞い上がり、鬼のような形相の万象が現れる。

「あれ?」

 畑に現れた万象は、しばらくキョロキョロとあたりを見回していたが、東西南北荘のそばにいるヤツを認めて、思わず叫ぶ。

「なんだよあれ!」

「万象、こっち」

 森羅の声にそちらを見ると、彼は白虎が止めていない方の足に切りつけて、何とか行く手を食い止めているのだ。

「足を狙ってよ」

「任せろ!」

 万象は脱兎のごとく走り寄ると、ドドドドド! と、ものすごい早さで銃を撃ち始めた。

「もうすぐ飛火野たちが来るから、何とかこらえてくれ」

「オーケイ」

 こんな時だと言うのに、微笑んだような声で万象に答える森羅。

 彼は冷静にこの金属怪物の構造を頭に取り込み、数式に置き換えて分析しはじめているようだった。

「なるほどね」

 うんうん頷く森羅を、万象は見る暇もなく、ただヤツの足に銃を撃ち込むことだけ考えていた。


「森羅さま」

 すると、屋敷の方から飛火野が駈けてくるのが見えた。どうやらタイムマシンが到着したらしい。

 続いてミスター。彼はすぐ森羅と万象のいる方の足へと食らいつく。これで、完全にヤツの足は止められたと言うわけだ。

「わっ!」

 だがヤツもただ手をこまねいていたわけではない。なんとか攻撃を避けて、煩いとばかり、足下のやつらを振り払おうとする。万象は飛び退きながら、その手に容赦なく弾を撃ちこんだ。

 同時に飛火野と鞍馬もその手に切りつける。

 飛火野が金属片に斬りつけると、それらはボウッと音を立ててあとかたもなく燃え尽きてしまうのだ。

 彼が持つのはコウジンの剣、火を司る荒ぶる神から借り受けたものだ。

「飛火野、鞍馬。大変だと思うけど、コイツについてる部品を、1つ残らず斬って消滅させてくれるかな」

「はい」

「わかりました」

 2人は事もなく言うが、万象などは上を見上げて、思わず声に出してしまった。

「これ全部を2人でかよ、森羅って人使い荒すぎだぜ」

 すると心外と言うような顔をした森羅が言った。

「じゃあ万象にも仕事をあげよう」

「え?」

 森羅は言い残すと、ヤツの向こう側へと走って行った。

「俺に向けて部品を撃ち落とせ」

「ええ?!」

 おかしな事を言うヤツだと思ったが、森羅は無駄なことはしないのをよく知っている。万象は言われたとおり、狙いをつけて部品を森羅に向けて撃ち落とし始めた。

 森羅は、自分に向かって飛んできた部品を羽の剣でなぎ払う。すると、それらは鞍馬が斬ったときと同じように、キラキラ美しく輝きながら、消えていくのだった。


 白虎とミスターは、力の限り行く手を阻止している。

 同じように、玄武兄弟も東西南北荘を守るため、声を限りに音を出してヤツを止めている。

 朱雀と雀も、ペンとドローンを投げまくり、撃ちまくる。

 青龍と龍古は、少しでも彼らの休めになるよう、頃合いを見計らって目を見開く。


 その間に、飛火野と鞍馬は下から上へ向かって、燃える火と輝きを放ちながら金属片に斬りつけていくのだった。

 やがて頭部までたどり着いた鞍馬と飛火野が、最後の金属に斬りつけると、ヤツは影だけになった。

 実体がないと思っていた影は、覆っていた金属片がなくなると、ぐねぐねと歪み始め、どうやら堅さを取り戻そうしているようだ。


「鞍馬、本気を剣に込めろ」

 その時、頭部から飛び降りてきた鞍馬に、森羅が言い放った。

 一瞬躊躇した鞍馬だったが、森羅の真剣な気迫を感じ取り、「はい」と、剣を縦に持ち、自分の前にかざした。

 すると、鞍馬のまわりに近寄りがたいような神々しさが広がり、それが吸い込まれて行くごとに剣が輝きを増していく。やがて剣は金銀の光を放ったままになった。

 歩み寄って森羅に剣を渡すと、森羅は満足したように頷き、次に飛火野を呼ぶ。

「飛火野」

「はい」

 彼は最初からわかっていたように、赤く燃え始めた剣を差し出した。

「万象、行くぜ」

 最後に森羅は、万象を呼んだ。

「へ?」

 あまりの意外さに、変な声が出てしまった万象。

「おれ?」

 自分を指さすと、森羅はさも楽しそうに言う。

「そうだよ、早くしないと、アイツが完全に実体化してしまう」

 と、影がうねるようになっているヤツを見る。

「お、おう!」

 何をどうしに行くのかわからない万象だったが、森羅の事は信じられる。

 重ねたスサナルとコウジンの剣の上に2人の手を重ねて置く。


「……、……、」


 森羅が呪文のようなものを唱え始めると、フワッと身体が浮いた。

「え? おわっ!」

 あたふたしそうになった万象だが、隣にいる森羅が、その手の温かさが、心を静めていく。

 彼らはそのまま、ヤツの胸のあたりに飛び込んで行った。

「「森羅万象!」」

 なぜかわからないけど、ぶつかる、と思ったその刹那、万象は森羅と同じように叫んでいた。



 ――燃えている、燃えているのに、熱くない。

 万象はおかしな経験をしていた。まわりは火に囲まれているのに、ちっとも熱くないのだ。少し考えて、あ、そうか、これはあの影の中なんだ。森羅と一緒に剣を携えて飛び込んで。

 きっとこれはあの何とか言う剣が影を燃やしているんだな、と、思った次の瞬間。

 あたりは一変して、金銀の輝きに包まれる。

 ――うわっ、なんなんだ

 金と銀なのに、暖かい。今度はあたたかいぞ。

 そして、なんだこの感情。誰かが、何かが、まわりからぶわあっと包み込んでくれているような。心地良い。ふわあ、眠い。そして、あれ、なんで俺、涙流してるんだろ?

 そうこうするうち、燃え尽きて灰になった影が、美しい金銀に姿を変えてどんどん空へと昇っていく。

 えもいわれぬ気持ちよさと嬉しさと、何だかわからないけどすべての喜びの方の感情がわき上がったところで、万象はふうっと夢から覚めたような気になった。


「え?あれ?」


 慌てて横を向くと、隣には森羅がいて綺麗に微笑んでいる。

「終わったよ、万象」


 どん! と、誰かがぶつかってきて、それはきっと玄武だろうと、万象は思い切り抱きすくめて、そのあと頭をごしごしなでてやった。

「バンちゃん、ひどおい。髪の毛ボサボサー」

「アハハ、どうだ!」

「でも、格好良かった! バンちゃん」

「そ、そうか?」

 改めてまわりを見回すと、あのデカかった影は跡形もなく、皆が笑顔でこちらを向いている。

 夕焼けがあたりを染める中、東西南北荘が以前と変わらぬ姿でそこに建っていた。


 さすがにその日は、夕飯を作ろうとする万象と鞍馬を、トラと雀が頑として阻止する。

 で、トラと雀が沸かしてあった風呂に皆を放り込んで汚れを落とさせ、これまたトラと雀が鞍馬の冷凍総菜をレンジを駆使して食卓に並べて皆の空腹を満たし。

 その日の夜は、誰もが泥のように爆睡したのであった。




「相変わらず早いね」


 翌朝。

 まだほとんどの者が、楽しい夢の世界をさまよっている時間。


 鞍馬が台所で朝食の用意をしていると、カラリと和室に続く引き戸が開いて森羅が顔を出す。彼はふわぁ、と伸びをしたあと上がりがまちに腰をかけた。

「おはようございます」

 振り向いてかすかに頭を下げた鞍馬は、微笑みながら向き直ってまた支度を続ける。

「おはよ」

 返事を返した森羅は、しばらくそこに座って鞍馬が立ち働くのを眺めていたが、

「顔洗ったら、手伝うよ」

 と、なぜか中庭へと出て行った。

 荒らされた畑を見回して、そのまま離れに行くと、中を興味深そうにのぞき込んで。庭の水道でバシャバシャと顔を洗って台所に戻ると、コンロの前に立っているのが2人に増えていた。

「お、やっと帰ってきたか、森羅さま」

 白虎だ。

「あれ、じゃあもう俺いらないかな」

「そうだな、だったらここはいいから、和室の準備を頼む」

 と、食器棚を指さす。

「はいはーい」

 軽く答えた森羅がそちらへ行きかけると、ドドッと足音がして、騒がしい人間目覚まし時計が登場した。

「くそっ寝過ごした! ああっもう森羅まで起きてやがる!」

 万象がボサボサ頭のまま台所に降りて来るので、森羅が手をつかんで裏口へ引っ張っていく。

「な、なにすんだよ!」

「まず、顔を洗おうか~」


 そのあと、さすがの4人はテキパキと準備を進めていく。

「なあ、森羅。あのデカいヤツって結局の所、何だったんだろうな」

 ネギを刻みながら、万象がぽつりと聞いた。

 すると、人数分の箸を持って和室へ上がりながら、森羅が立ち止まって考えるように首を傾けた。

「そうだな」

 しばらく考えこむ森羅。

 彼らを襲ったのは、今も昔も、フリーエネルギーの無償メンテナンスや、学校制度を変えようとする陽ノ下を快く思わない輩。森羅と万象が消えれば陽ノ下家の護りがなくなり、フリーエネルギーは思いのまま、そして、フリーエネルギーが思いのままになれば、世の中は自分たちの思いのまま、と、馬鹿な考えがふくれあがったのか。

「初めは万象の居所を突き止めるだけだったんだろうけど。でも雑魚を呼び寄せてるうちに、あっちとこっちの、醜悪な感情を取り込んでいったのかもしれない」

「それであんなにデカくなったのか」

 頷くと、森羅はちょっと悲しそうな顔をした。

「デカいだけじゃないよ。数式は美しいものだと思ってた、今までは」

「?」

「……あんな醜い数式は、初めて見た」

 そんな森羅に、自分もしょぼんとしていた万象がふと気づいて言う。

「にしても、あの2つの剣、すごいな!」

「まあね」

 コウジンの剣が醜い影を神火で焼き尽くして灰にし、スサナルの剣のもつ慈悲がそれらを昇華していった。

「神さまに貰ったんだろ、それもすげえー」

「? なんで?」

 はしゃぐ万象に森羅は不思議そうに聞いた。

「なんでって、神さまだぜ」

「そうだね。スサナルもコウジンも、すごく良い奴、いい友だちだよ」

「友だち? って? ええーーーー!」

 また朝から、万象の叫び声が宇宙に響きわたった。


「だってさ、神様だぜ! かみさま! 友だちとかの次元じゃなくて、もっとなんちゅーか、あがめ奉るってのじゃないのか?」

 朝食の席でもまだ、万象はその事にこだわっている。

「あがめ奉る? なんで?」

 ここでも森羅は不思議そうだ。

「思ってたんだけどさ、2000年後の君たちって、なんでそんななの」

「は?」

「だって、万象はその歳まで四神の存在さえ知らなかったし、時間を飛び越えて呼び寄せることも出来ないし」

「んなもん! 出来る方がおかしいだろ」

「しかも、神さまは素敵な友だちなのに、あがめ奉れって言うし」

「それが今の常識なんだよ!」

 どうにも2人の意見はかみ合わないようだ。


「森羅さま。さすがに2000年もたてば人も変わります」

 飛火野がきちんと箸を置いて言う。

「そうかな」

「そりゃそうじゃ。けどそこらあたりの片鱗は、鞍馬がよく知っておるのではないか?」

 お茶を啜りながらトラが言う。

「なんせ1589年から生きておる」

「そうだった!」

 万象が勢い込んで聞くが、鞍馬は「さあ、忘れました」と微笑んで、食べ終えた食器を下げ始めるのだった。



 朝食を終えると、森羅と万象は陽ノ下家へと出かける。これまでの事情を説明するためだ。

 掘り起こされた畑を見て、アングリと口を開けていた陽ノ下家の農作業担当さんに、

「すみません!」

 と、なぜか頭を下げまくっている万象。

 そんな万象をなだめるように担当さんが言った。

「あー、大丈夫だー。また頑張るよ」

「何か出来ることがあれば、お手伝いします! 何でも遠慮なく言って下さい!」

 ずいっと身を乗り出して言う万象。

「う、……ち、近い、近いよ、万象くん」

「あ! すみません!」


 桜子は、離れの話しを聞いて、心配して今にも飛び出しそうだ。

「桜子さん! ホントに大丈夫ですってば」

「本当? ほんとうに?」

「はい!」

 どん、と胸にコブシを当てて言う万象に、ようやく納得したようだった。

「でも、学びどころに被害がなくて良かったです」

 森羅が言うと、桜子は静かに微笑んだ。

「そうですね。世の中にはさまざまな意見がありますし。うちはうちが善いと思った事を、気にせず進めて行くだけです」

 そんな桜子を、森羅は少し目を見開いて見つめていた。


「2000年後にも、わかっている人はいるんだね」

「はあ?」

「桜子さんだよ。さすがは陽ノ下家の大奥様だ」

 楽しそうに言う森羅に、万象はちぇ、と言う顔をする。

「ふん! どうせ俺はこんなだよ」

 頭の後ろで指を組んで、しばらくは面白くなさそうに歩いていた万象だが、東西南北荘が近づいて来ると、ふと手を降ろして立ち止まり、森羅に聞いた。

「なあ、俺たちってなんで出会って、なんで今一緒にいるんだろうな」

「うん?」

「ほら、2000年も時が離れてるのにさ」

 ああ、と言うように空を見上げた森羅が、宇宙を見通すような瞳で楽しそうに答えた。



「だって、森羅万象は世界のすべてだから」



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