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第6話 その頃2000年後は


 もう大丈夫だろうと森羅は、あとのことを他の者に任せて、いったん2000年後へと時空間移動をする。

 到着したのは陽ノ下邸と東西南北荘の中間あたりの畑だった。


 少し急ぎ足で東西南北荘へ到着したのだが。

 向こうと違って、あたりはことのほか静かだ。東西南北荘の中庭から和室を覗くと、ちょうど昼食が終わったばかりらしく、鞍馬が食器を下げているところだった。

「おう、森羅」

「あらあ、森羅くん、ひとり?」

 こちらに気づいたトラと雀は、のんきにお茶など啜っている。ちょっと拍子抜けした森羅だったが、まあいいか、と、縁側から部屋へ上がった。


「良かった。まだ何も起こっていないね」

「何もだって? もしや向こうはえらいことになっておるのか?」

「だったんだけどね。もうそろそろ終焉だから、こっちに助太刀に来たんだよ」

 すると、雀が笑って言う。

「助太刀って言っても、ご覧の通りよ」

「そうだね」

 森羅もちょっと可笑しくなって吹き出したあと、鞍馬に声をかけた。

「じゃあせっかくだから、俺もお茶を貰おうっと」

「はい、何がよろしいですか?」

 どんな時でも丁寧な鞍馬は、きちんと森羅の横までやって来てオーダーを取る。

「日本茶の、あまり熱くないのを」

「かしこまりました」


「そう言えば、例のバラバラになった金属人って、どこ? もうどこか違う処へ持って行った?」

 鞍馬の入れてくれた美味しいお茶を飲みながら、森羅が聞く。

「おや、森羅はまだ見てなかったかの、ちょっと待て。鞍馬、すまんがあれを運んでくれるかの」

「いや、俺が行くよ」

 そう言って、森羅はトラに封印された金属の元へ案内して貰う。さすがに母屋に置いておくのは危険だとの判断から、離れの入り口近くにそれは置かれていた。

「!」

 近寄りかけた森羅が少し躊躇するような様子を見せる。

 そして、うーん、と考え込んだあと、

「やっぱりやめておくよ」

 と、クルリと向きを変えると、なぜかそそくさと和室へ戻っていく。

「おい、どうしたんじゃ、森羅」

 案内してきたトラは、ちょっとポカンとして森羅と荷物を交互に見ていたが、彼が戻ってくる様子がないのを見てとると自分も和室へと戻るのだった。


「なんじゃなんじゃ」

「なんなの?」

 トラは興味深げに、雀は面白そうに聞く。

「うーん、あいつ、万象にだけ反応したんだよね。だったらもしかしたら俺、森羅にも反応するかも。なんだかいい感じがしない」

 森羅はあれに何か感じることがあったのだろうか。

「え? でもバラバラよ?」

 雀が驚いて言うと、森羅は少し微笑んで言った。

「うん、でもパーツはそのままだよね? だったらまだ機能が生きている可能性はあるよ」

「それはそうだけど……」



 そのとき、ふと鞍馬が立ち上がる。

「離れにお邪魔しますが、よろしいですか?」

「別に構わんよ。あいかわらず丁寧なヤツじゃ」

 トラが言うのに、鞍馬は会釈を返して離れへと向かった。

 帰ってきた鞍馬の手には、あの、両方峰打ちの刀があった。

「鞍馬、それって」

 雀が聞くと、鞍馬はすまして言う。

「備えあれば憂い無し、と言いますから」

 すると、そんな鞍馬を見て首をかしげていた森羅が、すっと腕を伸ばして、手のひらを天に向ける。皆が何事かと見ていると、森羅のいるあたりに一条の光が差し込んで何かを形作っていく。

 しばらくすると、その手には、見事な装飾を施した鞘を有する刀が握られていた。

「これを使え」

「え?」

「鞍馬の剣では、悪さをするヤツらをデリート出来ないよ。大丈夫、この剣はスサナルに貰った浄化の剣。斬られた者の心に慈しみを呼び起こすためにある。ただ、使う人に慈愛がないと効力が現れないんだ。だから鞍馬なんかぴったりだと思うよ。雑魚は生きているとは言えないし、万が一、大将相手でもこれなら心置きなく斬っちゃっていいよ」

 鞍馬はそれでも逡巡していたが、あっけらからんとして微笑みながら刀を差し出す森羅には勝てず、「ありがとうございます」と、それを受け取るのだった。


 うんうん、と頷いた森羅が、急に真顔になる。

「なにか来た」

 つぶやいた森羅の声に被さるように、ヴィンヴィンと耳障りな音が鳴り響いた。

 4人が縁側から音のする方を見ると、それは、さっき森羅がいい感じがしないと言った金属人の箱。

「あれ、やっぱり近寄りすぎたのかな。俺としたことが」

 森羅は苦笑した顔を鞍馬に向ける。

「ごめん、鞍馬。頑張ってもらわなきゃならないみたい」

「はい、心得ています」

 頷いた鞍馬は、トラと雀に声をかける。

「トラさんと雀さんは中へ入っていて下さい」

 2人は頷いて和室の奥へと入り、トラはなんとちゃぶ台を縁側へ向けて立てかける。

「こいつはただのちゃぶ台じゃないんだ。こうやって……」

 と、足についたスイッチを押すと、ヴィーンヴィーンと縦横に広がって、ガシャンガシャンと和室の出入り口を覆った。

「こうすればワシら2人くらいは十分隠れられる。しかも素材はマシンガン程度なら軽く跳ね返すほどの強度じゃ」

「うわあ、さすがトラばあさん」

 森羅と雀は手を叩いて喜んでいる。トラはふふん、と、大いばりだ。

 そんな3人を微笑んで見ていた鞍馬が、「早く中へ」と、トラと雀を促す。


 先ほどからヴィンヴィンとこの上なくうるさかったボックスの音が、もっと酷くなり、頭が痛いほどになる。

 すると。

 2000年前と同じように、畑にボコボコと穴が空きだした。どうやらあの金属人は、万象や森羅のいる時間と場所を見つけ出して、雑魚やなんかを導く役目をしているらしい。

 掘り返された畑を見た鞍馬は、なんとも言えず悲しい表情をする。

「皆さんが手塩にかけた畑を荒らすのは、どうにも頂けませんね」

 凜とした立ち姿で、スルリと美しく剣を抜いた鞍馬はそうつぶやくと、雑魚のただ中へと踊り出していった。


「ひゅう、さすが鞍馬」

 怒濤の勢いで雑魚どもを倒していく鞍馬の横で、森羅も例の羽のような剣を振るう。

 面白いことに、鞍馬が斬った雑魚は、もんどり打ったあとピーピー泣いていたかと思うと、次には自ら喜んで消えていくのだ。なんとも忙しいことこの上ない。

「鞍馬の剣、雑魚にも通用するみたい。さーすが慈悲と愛の使者、鞍馬だね」

「そのようです。ですが、恐れ入りますが、恥ずかしいのでその呼び方はやめて下さい」

 などと話をしながらも、2人は休む事なく出てくる雑魚を倒しているのだ。

 すると。

「援護するわよお」

 と、東西南北荘の方からドローンが飛んで来る。大きいのを囲むようにした極小のドローンが、2人から離れたところにいる雑魚をビシビシ狙い撃っている。雀が和室から操縦しているようだ。

「なかなかやるね」

 しばらくは余裕でいたのだが。

 ヤツらの数はどんどん増える一方で、さすがの鞍馬も、森羅もまた、かなり息が上がってきた。

 その時、森羅が片手を上げて指を鳴らした。


 パチン!


 すると。

「おおっと」

 そこには風とともに現れた白虎が立っていた。

「うわあ、白虎、汚れてる」

「ああ、ちょっと足を滑らせちまって。おお、なんだこいつら。こっちへ来てやがったのか」

「あっちはもう大丈夫だよね」

「まあな。鞍馬、加勢するぜ」

「ありがとうございます」

 苦戦して息が上がっているというのに、まったく綺麗な微笑みを浮かべて鞍馬が答えた。


 すると、そんな鞍馬にちょっと目を引かれていた森羅が残念そうに言う。

「あーあ、今の微笑み、飛火野に見せて上げたかったー」

「?」

「残念ながら、俺がこれで呼び出せる子たちって……」

 と、もう一度、パチン!と指を鳴らす。


「四神だけなんだよな~」

 現れたのは、青龍だった。

「あ! 森羅さまが呼ばれたんですね」

「うん、いちど鞍馬に休憩させて上げて」

「はい!」

 状況を素早く理解した青龍が、キュッと目を閉じた。


 次に目を開くと、パァーッとまばゆい光があたりを覆う。

 ギューー……

 さすがのヤツらもひととき動きを止められてしまう。たまらず時空のひずみへ逃げ出す弱っちいヤツらも多数いた。

「ずいぶん減ったぜえ。青龍すごーい」

 白虎が嬉しそうに言う。

「ありがとうございます、青龍さん」

 鞍馬はいつもの通りの鞍馬だ。


「少しは休めた?」

 青龍はとても嬉しそうに振り向く。だがその背後に、かろうじて逃げ出さずにいたが、ヤケになって闇雲に動き回る雑魚が迫る。

 そのとき。

 ドシン!

「俺の青龍に何をする。おぬしら、成敗してくれる」

 なんと森羅が剣を使わずに、体当たりで雑魚を吹っ飛ばしていた。

 驚いて目を見張りつつも、その時代がかった言い方に吹き出す白虎。

「ハハハ、なんだそりゃ、森羅さま」

「いやあ、こっちのテレビっていうの? その時代劇って面白くてさ」

「そうですね。……皆の者! このお方をどなたと心得る」

 会話にくそまじめな顔で割って入りつつ敵に向かっていく鞍馬を、ふたりは惚けてみていたが、ふと我に返ると、白虎は大笑いしながら自分も敵に向かっていく。

「鞍馬ー。お前、たまに面白すぎー」

「わあ、水戸○門だー。印籠ないの?」

 森羅もこんな時だというのに、嬉しそうに残る雑魚を蹴散らしに行くのだった。



「ふうー」

 大きく息を吐き出す白虎。

「ああ、やあっと片付いたー」

 あのあと5人(1人はドローン)で協力しつつ、大量の雑魚を一掃した森羅たちは、疲れて畑に座り込んでいた。

 なんと鞍馬でさえも!

「さすがの俺も、ちょっとばかり疲れたぜ」

 けれど、後ろに手をついて座り込む白虎をしばらく眺めたあと、鞍馬は立ち上がってぽんぽんと服についた砂を払う。

「お疲れ様でした。それでは、帰ってお茶をお入れしましょう」

「わあお、鞍馬、回復はやーい」

 白虎は情けない声で叫んで、そのまま後ろに倒れ込む。

「わあお、白虎、情けなーい」

 続いて森羅が容赦なく言う。白虎は「ひどーい」と丸まって鳴き真似をした。

 その横で、青龍が立ち上がってぽんぽんと服についた汚れを払った。

「では、私もお茶のお手伝いします」

「ありがとうございます」

 きちんとお礼を言う鞍馬。

 並んで東西南北荘の方へ歩き出す2人を楽しそうに見ていた白虎も、ようやくムックリと起き上がって伸びをした。

「あーあ、じゃあ俺も行くか」

 立ち上がり、バンバン! と豪快に服の汚れを払う白虎の横で、ゴホゴホと咳き込む森羅がいた。


 だが、その矢先。

 東西南北荘の離れのあたりから、ボウンと爆発音が聞こえたのだ。

「!」

 誰よりも早く駆け出していく白虎。

「なんだありゃあ!」

 駆けつけた4人がそこに見たものは。

 東西南北荘の倍ほどもある黒い影と、それに張り付いている多数の金属片だった。



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